テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.05.19

ディズニーの構想力とブランド戦略の基本

 2018年4月15日、東京ディズニーランドが開園35周年を迎えました。「千葉なのに“東京”って」「お弁当の持ち込み禁止だなんて」とあれこれ言われつつも、常に関東圏の観光をリード。上質のアトラクションの数々や園内の徹底的な清掃、そしてそれらを支えるスタッフ教育で、日本においても「ディズニーランド」のブランド力を不動のものにしたからこその35周年と言えるでしょう。

ウォルト・ディズニーのブランド構想力

 中央大学大学院戦略経営研究科教授であり『ブランド戦略論』(有斐閣)の著者である田中洋氏も、このディズニーという一大ブランドのあり方に注目しています。ブランド戦略においては、企業のコミュニケーション力で発信するロゴやシンボル、キャラクターといった見える部分が重要なのは当然なのですが、それと同様、あるいはそれ以上に見えない部分の経営戦略やマーケティングが要となります。こうした経営からコミュニケーションまでを一連のプログラムのようにブランド構築する。その構想力が非常に重要であり、ウォルト・ディズニーはその構想力に長けていた、と田中氏は分析します。

 ディズニーのシンボル的存在であるミッキーマウスは1928年に映画デビューをしていますが、この時すでにウォルト・ディズニーの頭の中では「ディズニーレシピ」と呼ばれる全体構想が形を成していました。映画事業を核とし、その周辺にハブとなるディズニーランドやテレビ、人形などのグッズによるマーチャンダイジング、出版、音楽の各事業を置き、それぞれを連携させた全体構想です。どの時代にも、そして幅広い年齢層に支持されるブランド構想を、ディズニーは第一歩のスタートをきった時から持っていました。

 田中氏は、このディズニーの成功事例から「偉大なブランドの根本には、確固とした構想がある」というブランド戦略の基本を導き出します。

「ブランドって何?」を考えるために

 しかし、ここで田中氏が一つの問題点を提示します。それは「ブランドとは何か」というそもそもの問題です。田中氏はブランドの定義は常にあいまいであり、ブランドをテーマに会議を行うと議論百出状態になってしまうと言います。「ブランド力で勝負しよう」「わが社のブランドに問題があるのではないか」「もっとブランドのオリジナリティを追求するべきだ」…こういったお題目には皆賛成しても、ではいざその「ブランド」についてどうしたらよいのかを議論するとなると、途端に焦点がぼやけてしまうのです。

 そこで田中氏が勧めるのが「ブランドについて考える時は、“ブランド”という言葉を使わない」ということ。つまり、「ブランドとは何か」と大まかなテーマを掲げるのではなく、「自社の商品について、消費者にどのようなイメージを持ってもらいたいのか」と考える。社内の組織をブランドでまとめるインターナルブランディングについても「社内の意識を統一して考えよう」と言い替えてみる。ブランドという言葉を使わずに議論した方が、かえってブランドについて具体的な意見、考えが出しやすくなるというわけです。

「ならしか」で復活したはとバス

 この方式で、見事ブランドの活性化を果たした成功例が、はとバスの「ならしか運動」です。東京都内のいくつもの観光コースを有するはとバスですが、邦人客数が落ち込み、頼みの外国人観光客も地方に分散したりと、一時期かなり業績は低迷したのです。そこで、サービスの質を向上するブランド活動強化に乗り出したのですが、その際に「ブランド活動」ではなく「ならしか運動」という言葉を使ったのです。

 はとバス「なら」できる。はとバスに「しか」できない。はとバスの「ならしか」ってなんだろう、と運転手もガイドも一緒になって考え、一人でも気軽に参加できるツアー、さまざまな体験ツアー、利用客の声を反映する仕組みなどが盛り込まれていきました。結果、今では「東京人を都内観光させる」と言われるほどのブランド力を復活させました。

 ブランド戦略と聞くとちょっと身構えてしまいますが、ブランドの全体像を描く。「ブランド」という言葉を言い替えて具体的に発想していく。こうした基本的な作業が強いブランドの鍵となるようです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

無料で開講した石田梅岩、師・小栗了雲から学んだ「無心」

無料で開講した石田梅岩、師・小栗了雲から学んだ「無心」

石田梅岩の心学に学ぶ(3)神道布教の志と「無心」

石田梅岩は20代の頃、二度目となる奉公に出るとともに勉学にも力を入れていく。それを支えたのは、当時京都で隆盛だった吉田神道(唯一神道)をさらに普及させようという志だった。やがて8代将軍・徳川吉宗の世となり、40代を迎...
収録日:2022/06/28
追加日:2024/04/22
田口佳史
東洋思想研究家
2

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(1)内藤新宿の誕生と役割

江戸時代後期に書かれた地誌『江戸名所図会』(えどめいしょずえ)をひもとくと、江戸時代の街の様子や人々の暮らしぶりが見えてくる。今回は、五街道の宿場町として重要な役割を果たした「内藤新宿」を取り上げ、新宿のかつて...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/21
堀口茉純
歴史作家
3

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

サム・アルトマンの成功哲学とOpenAI秘話(1)ChatGPT生みの親の半生

ChatGPTを生みだしたOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの進化・発展によって急速に変化している世界の情報環境だが、今その中心にいる人物といっていいだろう。今回のシリーズでは、サム・アルトマンの才能や彼をとりまくアメ...
収録日:2024/03/13
追加日:2024/04/19
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
4

カーボンニュートラル社会に必要な「発想の逆転」とは

カーボンニュートラル社会に必要な「発想の逆転」とは

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(2)電力の需給バランス

これからの社会では、電力化の進展によるモビリティやロボットの「カンブリア爆発」によって、電力の消費量も増えていくことも予想される。そのような社会を支える電力をいかにサステナブルに供給するかが重要な課題となるが、...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/20
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
5

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元

日本語の発音は、漢字到来以来一千年の歴史を通してどう変わってきたのか。また、なぜ日本語は「文明語」として世界に名だたる存在といえるのか。二つの疑問を解き明かす日本語学者として釘貫亨氏をお招きした。1回目は古代日本...
収録日:2023/12/01
追加日:2024/03/08
釘貫亨
名古屋大学名誉教授