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DATE/ 2024.01.13

知っておきたい火山噴火の予知と方法

 もう数年前にはなりますが、2018年5月のハワイ島キラウェア火山が地震を伴って爆発的に噴火し、大きな被害が出ました。日本も「対岸の噴火」とばかりにのんきに考えている場合ではありません。なにせ、日本には「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義される活火山が111もあります(2017年気象庁発表)。

 あの富士山も休火山であり、「近い将来富士山は必ず噴火する」と、東京大学名誉教授・環境防災総合政策研究機構副理事長の藤井俊嗣氏が注意を促しているほどなのです。

警戒レベル1でも十分な注意を

 火山噴火から安全を確保するための手段として噴火速報、警報といったものがありますが、これは緊急地震速報ほどにはなじみがない、という人が多いのではないでしょうか。

 噴火警報レベルは「平常」をキーワードとする1から、避難を必要とするレベル5までの5段階があるのですが、藤井氏はレベル1でも活火山である限り常に警戒は必要だと言います。つまり、レベル1だし石も飛んでこないから大丈夫、というものではなく、警報が出た以上、いつ噴火が起きてもおかしくないと考えるべきなのです。また、警戒レベルはいつなんどき、引き上げられるか分からないということも肝に銘じておかなければなりません。

火山噴火の中長期予測は非常にむずかしい

 さらに厄介なのは、噴火予知の方法は研究が重ねられ進化しているとはいえ、「必ず予知できる」「十分に前もって予知できる」というものではないということです。藤井氏は特に中長期的なスパンでの余地の難しさを訴えます。富士山を例にとれば、古文書等で飛鳥時代から現在までの活動の様子をおおよそ見ることができるのですが、富士山は奈良・平安時代までは大体数十年に1回の割合で噴火していました。その後、活動はまばらになり、1707年の貞観の噴火から現在までの300年ほどは休止状態となっており、1000年単位でみるとかなり不規則であることが分かります。

 そのほか、浅間山は1940年代から60年代にかけては年に数百回の噴火を繰り返し、73年以降は10年に1回噴火するかしないかというペースに落ち着いています。一方で、桜島は数十年休んだ後、1955年あたりから毎年噴火するという状態になっています。

 どの火山をとってもその活動は非常に不規則であり、中長期スパンで見たからといって周期のようなものが見えてくるわけではない、というところに噴火予知の難しさがあります。

短期予測は可能でも万全とはいえない

 しかしながら、地面が膨らむ地殻変動や地震の発生を利用して行う噴火の短期予測はある程度可能であるというのも事実です。山の膨らみを測る傾斜計で観察すると、傾斜の急激な動きと地震の発生回数の増加の一致が見られる。こういったデータから、2009年1月の浅間山の噴火はその十数時間前に予測され、警報レベルを引き上げることで対処しました。傾斜計のほかにも、伸縮計装置の併用で何万回もの観測を重ね、桜島の場合は、現在9割以上の確率で噴火を予知できるようになっているそうです。

 このように予知の方法も精度も進化しているのですが、そのような研究をもってしても何カ月も前から噴火の予知をするには至っていません。大きな噴火なら地面の傾斜や収縮の具合から、1ヶ月くらい前なら分かるのではないかと思いたくなるのですが、今のところ数時間前、せいぜい数日前くらいが予知可能な範囲となっています。

 人類より火山の方が、地球の住人としては大先輩にあたるわけですから、火山のご機嫌をつぶさに知り尽くすにはまだまだ時間がかかりそうです。大きな自然の力をあなどることなく、物理学者・寺田寅彦の「天災は忘れた頃にやってくる」を忘れずに、予知とその方法の研究を重ねていくのが、今できる最善の方法と言えそうです。
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授