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世界一「運動不足」の国はどこ?
2018年9月5日、世界保健機関(WHO)は世界の成人の4分の1超に当たる14億人超が運動不足だという調査研究報告(以下「調査」)を発表。そのうえで、運動不足こそが心臓疾患・がん・糖尿病・認知症などの疾患リスクを高めているとの懸念を表明しました。
調査により発表された、「運動する国」のワースト10とベスト10は以下になります。
まずワースト10こと、運動不足の割合が高かった10の国は割合の高い順に、
1.クウェート67%
2.サモア53.4%
3.サウジアラビア53%
4.イラク52%
5.ブラジル47%
6.コスタリカ46.1%
7.キプロス44.4%
8.スリナム44.4%
9.コロンビア44%
10.マーシャル諸島43.5% となっています。
その反対に、運動不足の割合が少なかった国のベスト10は、
1.ウガンダ5.5%
2.モザンビーク5.6%
3.レソト6.3%
4.タンザニア6.5%
5.ニウエ6.9%
6.バヌアツ8%
7.トーゴ9.8%
8.カンボジア9.8%
9.ミャンマー10.7%
10.トケラウ11.1% となっています。
また、調査では、男女間の運動格差も明らかになり、東アジアと東南アジアを除く地域では、女性の方が男性より運動不足の割合が高い国が多い結果が出ました。具体的には、バングラデシュ、エリトリア、インド、イラク、フィリピン、トルコ、アメリカ、イギリスといった国で、その傾向が強くみられたといいます。
男女格差の背景には、女性の方が世界的に家事・育児等の家庭での負担が大きいこと、土地の風習で女性が運動しにくいなど、「様々な複合的な要因が関係しているだろう」と調査チームは指摘しつつ、「女性が運動に参加することを促す環境づくりや社会整備」の必要性を訴えています。
ちなみに調査における日本の結果は、男性33.8%・女性37.0%・計35.5%という、3人に1人以上が運動不足に陥っているという状況でした。また、男女別の比較では、特に若い世代の女性で運動不足が目立ちました。
ところで、江戸時代の庶民は現代日本人の約6倍にあたる、3万歩は歩いていたといいます。歩数を比較するだけでも、現代の日本および同様に交通機関が充実したり機械化進んだりしている国での、運動不足の度合いがよくわかります。
さらに上月氏は、「ヒトは30歳をすぎると、1歳年をとるごとに、平均1%ずつ筋肉量や筋力が低下」すること。さらに例えば、トイレと食事以外は横になったままで1日を過ごすと1%、1日完全に安静していると2%、筋肉量・筋力が低下すること、「つまり、たった1日の安静で1~2歳も老化してしまうことになるのです」と警鐘を鳴らしています。
そして、安易に老化を促進しないため、つまり健康寿命を伸ばすために、「障害にわたって適度な運動を長く続けること」の重要性を説きつつ、生活の中に個々人の体力や状況に応じて、症状や部位別の「らくらく運動療法」や筋肉を鍛える低~中強度の運動、スロトレやスロージョギングなどを取り入れることを提案しています。
また、「歩くことはできるけれど、現在は運動不足」という人にまず試してほしい運動に、「ウォーキング」があります。医学博士で健康・スポーツ科学が専門の東京学芸大学名誉教授・宮崎義憲氏は、「現代人の疲労は、動かないための疲労が特徴」であるため、手からつま先までと同時に腰や首などといった様々な筋肉を同時に使うウォーキングは、「全身マッサージ」とも考えられるといいます。
そして歩くことによって、
1)肥満予防(体脂肪燃焼効果)
2)肩こり・腰痛予防(疲労回復効果)
3)ボケ予防(大脳刺激効果)
4)転倒予防(姿勢改善効果)
といった、四つの幸せ効果が訪れると述べています。
そのうえで、橋本氏と斉藤氏は、「心と体と相談しながら快適と感じるスピード(ペース)を探してください。しかし、ここでいう“快適”というのは“不快を感じない”という意味です」といった、言語教示を行いつつ至適運動強度を探す「快適自己ペース(CSEP)」を運動継続の有効な方法の一つとして紹介。特にウォーキングやランニングなどで運動後のポジティブ感情の獲得形成や最大化を導く実験で効果を確認し、ひいては運動の継続化への寄与につながることを発表しています。
さらに橋本氏は健康・体力づくりのための「健康スポーツ」の指導上の注意として、
1)身体活動・運動はできるだけ自己選択・自己決定させる
2)身体活動・運動が楽しくなるよう工夫をする
3)身体活動・運動をする前に目標を設定させる
4)運動の結果や効果を提示・確認し、話し合う
5)成功体験・成就体験を経験させるために、目標設定の調整を考える
といった5点を挙げていますが、これらの注意点を意識する視点は、自身での振り返りやセルフトレーニングでも大いに役立ちます。
運動不足は様々な疾患リスクを高めますが、逆に運動の継続は疾患リスクを軽減し、生活習慣病の予防および改善させ、さらには脳の働きを活性化を促し、ストレス解消・認知症予防・メンタルヘルスなどにも効果的といわれています。上記で紹介したような運動の継続のためにも、次の段階の運動にステップアップする際にも、ポジティブな運動継続のための理論を積極的に活用して、“運動の継続が必ずもたらす効果”をぜひあなた自身のものにしてみてください。
「運動する国」ワースト10・ベスト10
調査では、世界168カ国における、計190万人の18歳以上の成人を対象に実施された358件の調査データを用い、国や地域別に運動不足の人の割合について分析が行われました。なお、調査における「運動不足」の定義は、週に150分の緩い運動、もしくは75分の激しい運動をしないとし、調査方法としては、職場・家庭・余暇・交通移動での運動・身体活動について、自己申告での回答を用いています。調査により発表された、「運動する国」のワースト10とベスト10は以下になります。
まずワースト10こと、運動不足の割合が高かった10の国は割合の高い順に、
1.クウェート67%
2.サモア53.4%
3.サウジアラビア53%
4.イラク52%
5.ブラジル47%
6.コスタリカ46.1%
7.キプロス44.4%
8.スリナム44.4%
9.コロンビア44%
10.マーシャル諸島43.5% となっています。
その反対に、運動不足の割合が少なかった国のベスト10は、
1.ウガンダ5.5%
2.モザンビーク5.6%
3.レソト6.3%
4.タンザニア6.5%
5.ニウエ6.9%
6.バヌアツ8%
7.トーゴ9.8%
8.カンボジア9.8%
9.ミャンマー10.7%
10.トケラウ11.1% となっています。
運動不足の要因と日本における運動不足状況
ところでどうして、運動不足は世界的に蔓延してしまったのでしょうか。その背景には、産業革命以降、厳密にいえば第二次世界対戦後の機械化や工業化や電子化、それらにともなう労働形態・社会システム・ライフスタイルの変容があります。それらによって、労働においても生活においても身体活動が著しく減少してきました。また、調査では、男女間の運動格差も明らかになり、東アジアと東南アジアを除く地域では、女性の方が男性より運動不足の割合が高い国が多い結果が出ました。具体的には、バングラデシュ、エリトリア、インド、イラク、フィリピン、トルコ、アメリカ、イギリスといった国で、その傾向が強くみられたといいます。
男女格差の背景には、女性の方が世界的に家事・育児等の家庭での負担が大きいこと、土地の風習で女性が運動しにくいなど、「様々な複合的な要因が関係しているだろう」と調査チームは指摘しつつ、「女性が運動に参加することを促す環境づくりや社会整備」の必要性を訴えています。
ちなみに調査における日本の結果は、男性33.8%・女性37.0%・計35.5%という、3人に1人以上が運動不足に陥っているという状況でした。また、男女別の比較では、特に若い世代の女性で運動不足が目立ちました。
ところで、江戸時代の庶民は現代日本人の約6倍にあたる、3万歩は歩いていたといいます。歩数を比較するだけでも、現代の日本および同様に交通機関が充実したり機械化進んだりしている国での、運動不足の度合いがよくわかります。
今日から始める運動不足対処法
医学博士でリハ科専門医でもある東北大学大学院医学系研究科教授・上月正博氏は、『「安静」が危ない!1日で2歳も老化する!』で、「運動不足が健康に及ぼすリスク」を「1日につき15分から30分程度の運動をしない人は、平均寿命が3~5年短い」と指摘されていることを紹介しています。さらに上月氏は、「ヒトは30歳をすぎると、1歳年をとるごとに、平均1%ずつ筋肉量や筋力が低下」すること。さらに例えば、トイレと食事以外は横になったままで1日を過ごすと1%、1日完全に安静していると2%、筋肉量・筋力が低下すること、「つまり、たった1日の安静で1~2歳も老化してしまうことになるのです」と警鐘を鳴らしています。
そして、安易に老化を促進しないため、つまり健康寿命を伸ばすために、「障害にわたって適度な運動を長く続けること」の重要性を説きつつ、生活の中に個々人の体力や状況に応じて、症状や部位別の「らくらく運動療法」や筋肉を鍛える低~中強度の運動、スロトレやスロージョギングなどを取り入れることを提案しています。
また、「歩くことはできるけれど、現在は運動不足」という人にまず試してほしい運動に、「ウォーキング」があります。医学博士で健康・スポーツ科学が専門の東京学芸大学名誉教授・宮崎義憲氏は、「現代人の疲労は、動かないための疲労が特徴」であるため、手からつま先までと同時に腰や首などといった様々な筋肉を同時に使うウォーキングは、「全身マッサージ」とも考えられるといいます。
そして歩くことによって、
1)肥満予防(体脂肪燃焼効果)
2)肩こり・腰痛予防(疲労回復効果)
3)ボケ予防(大脳刺激効果)
4)転倒予防(姿勢改善効果)
といった、四つの幸せ効果が訪れると述べています。
運動の継続は必ず効果を生む
他方、運動・スポーツ心理学が専門の熊本学園大学教授・橋本公雄氏と運動生理学が専門の九州大学人間環境学研究院教授・斉藤篤司氏は共著『運動継続の心理学』において、「運動の効果が必ずしも継続につながるとは限らないが、運動の継続は必ず効果を生む」と提言しています。そのうえで、橋本氏と斉藤氏は、「心と体と相談しながら快適と感じるスピード(ペース)を探してください。しかし、ここでいう“快適”というのは“不快を感じない”という意味です」といった、言語教示を行いつつ至適運動強度を探す「快適自己ペース(CSEP)」を運動継続の有効な方法の一つとして紹介。特にウォーキングやランニングなどで運動後のポジティブ感情の獲得形成や最大化を導く実験で効果を確認し、ひいては運動の継続化への寄与につながることを発表しています。
さらに橋本氏は健康・体力づくりのための「健康スポーツ」の指導上の注意として、
1)身体活動・運動はできるだけ自己選択・自己決定させる
2)身体活動・運動が楽しくなるよう工夫をする
3)身体活動・運動をする前に目標を設定させる
4)運動の結果や効果を提示・確認し、話し合う
5)成功体験・成就体験を経験させるために、目標設定の調整を考える
といった5点を挙げていますが、これらの注意点を意識する視点は、自身での振り返りやセルフトレーニングでも大いに役立ちます。
運動不足は様々な疾患リスクを高めますが、逆に運動の継続は疾患リスクを軽減し、生活習慣病の予防および改善させ、さらには脳の働きを活性化を促し、ストレス解消・認知症予防・メンタルヘルスなどにも効果的といわれています。上記で紹介したような運動の継続のためにも、次の段階の運動にステップアップする際にも、ポジティブな運動継続のための理論を積極的に活用して、“運動の継続が必ずもたらす効果”をぜひあなた自身のものにしてみてください。
<参考文献・参考サイト>
・『「安静」が危ない!1日で2歳も老化する!』(上月正博著、さくら舎)
・『健康スポーツの科学 改訂版』(茨城大学健康スポーツ教育専門部会編、大修館書店)
・「健康スポーツの指導上の注意」、『教養としてのスポーツ心理学』(橋本公雄著、徳永幹雄編、大修館書店)
・『運動継続の心理学』(橋本公雄・斉藤篤司著、福村出版)
・ nazology:「日本人の40%が運動不足による疾患リスクを抱えている」とWHOが警鐘
https://nazology.net/archives/19557
・『「安静」が危ない!1日で2歳も老化する!』(上月正博著、さくら舎)
・『健康スポーツの科学 改訂版』(茨城大学健康スポーツ教育専門部会編、大修館書店)
・「健康スポーツの指導上の注意」、『教養としてのスポーツ心理学』(橋本公雄著、徳永幹雄編、大修館書店)
・『運動継続の心理学』(橋本公雄・斉藤篤司著、福村出版)
・ nazology:「日本人の40%が運動不足による疾患リスクを抱えている」とWHOが警鐘
https://nazology.net/archives/19557
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