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DATE/ 2018.11.19

日本のスタートアップのチャンスはどこにあるのか?

 最近、よく耳にする「スタートアップ」ですが、ベンチャーとの違いをご存知ですか?
どちらも新たなビジネス展開という点では共通していますが、スタートアップの特徴を一言に集約すれば、「イノベーション」が必須であるということ。イノベーションを通じて、よりよい人々の生活や社会の実現を目指して、新たな市場を開拓するビジネスモデルがスタートアップなのです。

学生に起業マインドを根づかせる

 このスタートアップを、日本流のイノベーションを通じて、日本の大学から起こしていこうと支援活動をしているのがTomyK Ltd.代表で株式会社ACCESS共同創業者の鎌田富久氏です。

 鎌田氏はマイクロソフト社などの急成長に触発されて、1984年にソフトウェアのベンチャー企業「アクセス」(現・株式会社ACCESS)の設立に参画し、東証マザーズ上場、その後の経営にも関わってきた人物です。さらに、自身の会社「TomyK」を立ち上げ、AIやロボットなどのイノベーションといった強みを生かして、スタートアップを支援しています。

 その鎌田氏が、ここ数年、東京大学発のスタートアップを波にのせるべく、尽力しているというのです。実は東大では、「アントレプレナー道場」という学生向けのスタートアップ指南道場とでもいうべきプログラムを、ここ10年ほど実施しています。鎌田氏はその中で、その名もずばり「アントレプレナーシップ」の講義で、起業やスタートアップとはどういうことかを学生に説いてきました。今、学生が就職したいと思えるような大企業が減っていると言われています。ならば、在学中から起業マインドを築いてもらおうという狙いがあるのです。

海外の見本市デビュー、そしてスタートアップへ

 さらに、具体的なモノづくりのための支援も行っており、たとえば、「Todai to Texas」というプロジェクトがあります。これは、「おもしろいものは世界でデビューさせよう」という試み。イノベーティブで有望なプロダクトやサービスの提案があれば、アメリカ・オースティン(テキサス州)で開催されるサウスバイ・サウス・ウェストという大イベントの見本市に連れていきます。今までにロボットや義手、ウェアラブルの展示を行い、現地のメディアに取り上げられたりして、よい反応が出ているそうです。

 こうやって、海外の見本市で手ごたえが得られれば、いよいよ次は実際にスタートアップに乗り出そうということになります。「Todai to Texas」プロジェクトを始めてからの5年間で約40チームが参加して、その半分ほどが起業しているというのですから、かなりの割合でスタートアップしているということになります。ここまで来ると、鎌田氏もアドバイスだけでなく、投資をすることもあるそうで、かなり実践的な段階といえるでしょう。

日本ならではのスタートアップを追求するには

 こうやって、学生のスタートアップの後押しをしてきた中で、これからはハードウェアとソフトウェアの融合が日本のスタートアップのチャンスとなると、鎌田氏は言います。緻密さと根気強さが要求されるハードウェア開発では、モノづくりに長けた日本の強みが生かせます。しかし、ハードウェアオンリーでは、どうしても価格競争で中国、韓国、台湾といった国に遅れをとってしまいます。そこで、ハードウェアとソフトウェアを融合させ、技術、ソフトの両面で開発、プラットフォーム化を進めることで、国際競争で優位に立つ可能性が出てくるというわけです。

 今、医療や、バイオ、ヘルスケア分野でスタートアップが増えつつあります。特に、超高齢化社会の日本にとって、医療分野の問題は最も優先すべき課題です。医療周辺の介護やヘルスケアも含めると、技術革新だけでなくコスト削減など解決すべき点は数え切れません。しかし、この医療分野でスタートアップが続々と出ているというのは、嬉しい兆しです。課題の裏返しはチャンス。東大生ばかりでなく、多くの若者にスタートアップに向けて始動してもらいたいものです。

<参考サイト>
Todai to Texas
https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/activity/venture/sxsw.html
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授