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AI時代に求められる〈新しい能力〉を手に入れる
人工知能(AI)が発達し、人間の仕事を奪ってしまうのではないか、人類を滅ぼしてしまうのではないか……。シンギュラリティ(技術的特異点)問題が叫ばれだして久しくなります。そのような時代に、どのような能力を身につければ、これからの時代を生きのびていけるのでしょうか。「人工知能に負けない能力」、そのための「教育」と「学習」とは、どういうものなのでしょうか。
そう説明するのは、東北大学大学院教育学研究科教授で、『AIに負けない「教育」』の著者・渡部信一氏です。今後、人工知能やロボットの台頭により大量の失業者が生まれると予想されています。そのような時代の大きな流れに影響されてか、このところ教育現場でも変化が起こってきているというのです。
「近年、教育現場でも単に表面的な『学力』だけではなく、人間の『知』や『能力』のより深いところに着目しようという気運が高まっている。例えば、『生きる力』『人間力』『社会人基礎力』『学士力』、そしてそれらを総称した〈新しい能力〉が話題になっている」(渡部氏)
渡部氏は先述の著書の中で、このような人間の教育現場とAIの研究開発をめぐる動きを比較し、両者の相似と相違に着目しています。
ポイントは、人間が人工知能に対して猫の定義を教えなかったという点です。これが猫だよ、と教えて覚えさせたわけではないにもかかわらず、人工知能は、膨大な画像データの中から猫という存在(概念)を発見し、容姿を特定して猫そのものを判別できるように、自律的に学習していきました。つまり、「先生」がいなくとも学べるのです。同じように学習を進めていけば、人工知能も人間と同じように様々な知識を自律的に獲得することが可能であることを証明したことになります。また、もしかしたら「まだ誰も知らないこと」にも到達できる可能性すら見えてくるわけです。
2016年に囲碁のイ・セドル棋士を破って世界を騒然とさせた「アルファ碁」、2017年に佐藤天彦名人に連勝した対人戦最強の将棋ソフト「ポナンザ」も、こうした自律学習で指数関数的な進化を遂げた人工知能です。この流れはもう止めることのできないことだといえるでしょう。
その時に参考になるものとして、渡部氏は、スポーツや芸能を取り上げます。例えばサッカーでは、試合の状況や、相手チーム・自チームの各選手の動きを総合的に判断し、即座に自分の動きを決定する必要があります。そのため、「正しい答えを時間をかけて出す」よりも「そこそこ正しい答えを即座に出す(そして行動する)」ことが求められます。
また、民俗芸能の神楽では、師匠の手本を見て「見て覚えろ」「わざを盗め」と指導されます。手本はあるけれどもどうすれば良いのかは、学習者が自ら考える必要があります。ところが、師匠の手本はいつも同じとは限りません。季節が変わったら変わる。師匠が風邪をひいたら変わる。年を取って腰が痛くなるとまた変わる。それをコピーするのではなく、そうした手本を見て、学習者は自ら学び、「『そのような様々な状況(文脈)』において、『いつでも上手に舞うことができる』という『能力』」を獲得していくのです。
「『主体的に考える力』を育成するためには、そして『どんな環境においても〈答えのない問題〉に最善解を導くことができる能力』を育成するためには、『教師にとって想定外の学び』こそ本来は尊重されるべきであり、また『失敗すること』は『次の段階への大きな一歩』を意味するのである」(渡部氏)
しかし、思えば現実の世界だって似たようなものです。複雑であいまいで予測不能。間違った情報もたくさん存在している。ならば、この考え方、処し方は、人間が現実に処する方法としても参考になり、そういう能力を人工知能に獲得させるための研究開発は、人間の教育・学習にとっても、大いに参考になるのではないでしょうか。
先述のサッカーや神楽の例もまさにそうでした。状況に応じて「そこそこ正しい行動を起こす」とか「だいたい正しく舞う」、いわば「イマココ」で「いい感じに動く」力です。現状の小学校、中学校、高校のテストで「だいたい正しい」という評価がありえるとは思えません。ですが、じつは渡部氏はかねてからそうした能力と学びが教育にとって大切であると主張していました。
「そもそも『状況(文脈)』というものは常に流動的な性格を持つので、『状況(文脈)』に依存した『知識(意味システム)』はどうしても「よいかげん」にならざるを得ない。このような『知識』を私は『よいかげんな知』と呼び、これまで『教育』の対象に加えることの重要性を主張してきた」
そして、人工知能に対して人類が求めるのは、人工知能の「存在自体が『心地よい』とか『ハッピーである』と感じること」と言います。つまり、「役に立つ」とか「便利である」といった機能的な面ではなく、存在自体が人に喜ばれるものになることです。
このことは人間にとっても示唆に富む指摘です。なぜなら、テクノロジーが進化すればするほど「機能より存在自体」になることは、人間にこそ当てはまることだからです。そう考えると、もしかしたら、これからの時代を生きるうえで最も必要な「能力」において、人工知能と人間の違いはなくなっていくのかもしれません。
渡部氏は「これまでの『教育』は、本当に人間としての『知』や『学び』に焦点を当ててきたのだろうか?」と疑問を投げかけます。人間が学ぶべき本当の「知」、そのための「学び」。皆さんはどのようなものだと思いますか。
教育現場で話題の<新しい能力>
「実際に歴史を振り返ってみても、新しいテクノロジーが人間から仕事を奪い取ったという例は珍しくない。18世紀後半から始まる産業革命では綿工業の機械化が進み、手工業者の多くが失業した。そして、1960年代には工場のオートメーション化が普及し、工場労働者の数が一気に減少した」そう説明するのは、東北大学大学院教育学研究科教授で、『AIに負けない「教育」』の著者・渡部信一氏です。今後、人工知能やロボットの台頭により大量の失業者が生まれると予想されています。そのような時代の大きな流れに影響されてか、このところ教育現場でも変化が起こってきているというのです。
「近年、教育現場でも単に表面的な『学力』だけではなく、人間の『知』や『能力』のより深いところに着目しようという気運が高まっている。例えば、『生きる力』『人間力』『社会人基礎力』『学士力』、そしてそれらを総称した〈新しい能力〉が話題になっている」(渡部氏)
渡部氏は先述の著書の中で、このような人間の教育現場とAIの研究開発をめぐる動きを比較し、両者の相似と相違に着目しています。
自力で学習しはじめた人工知能
2012年に話題を呼んだ「Googleの猫」というニュースを覚えている人は多いでしょう。人工知能「Googleの猫」が自律的に「猫の概念」を学習したというものです。ポイントは、人間が人工知能に対して猫の定義を教えなかったという点です。これが猫だよ、と教えて覚えさせたわけではないにもかかわらず、人工知能は、膨大な画像データの中から猫という存在(概念)を発見し、容姿を特定して猫そのものを判別できるように、自律的に学習していきました。つまり、「先生」がいなくとも学べるのです。同じように学習を進めていけば、人工知能も人間と同じように様々な知識を自律的に獲得することが可能であることを証明したことになります。また、もしかしたら「まだ誰も知らないこと」にも到達できる可能性すら見えてくるわけです。
2016年に囲碁のイ・セドル棋士を破って世界を騒然とさせた「アルファ碁」、2017年に佐藤天彦名人に連勝した対人戦最強の将棋ソフト「ポナンザ」も、こうした自律学習で指数関数的な進化を遂げた人工知能です。この流れはもう止めることのできないことだといえるでしょう。
近代教育的パラダイムは終わった
では、人間の教育・学習はどうでしょうか。「『近代教育』では、高度経済成長期の『発展・競争・効率』重視という価値観を基礎にして、『正しい知識を簡単なものから複雑なものへ、ひとつひとつ系統的に積み重ねてゆく』という考え方を中心に据えて『教育』が行われてきた。教師は『正しいとされる知識』をできるだけ短時間で効率よく子どもたちに『教え込む』ことにより、多くの『優秀な子どもたち』を育成してきた。しかし今、社会は大きく変わろうとしている」と、前出・渡部氏は指摘します。その時に参考になるものとして、渡部氏は、スポーツや芸能を取り上げます。例えばサッカーでは、試合の状況や、相手チーム・自チームの各選手の動きを総合的に判断し、即座に自分の動きを決定する必要があります。そのため、「正しい答えを時間をかけて出す」よりも「そこそこ正しい答えを即座に出す(そして行動する)」ことが求められます。
また、民俗芸能の神楽では、師匠の手本を見て「見て覚えろ」「わざを盗め」と指導されます。手本はあるけれどもどうすれば良いのかは、学習者が自ら考える必要があります。ところが、師匠の手本はいつも同じとは限りません。季節が変わったら変わる。師匠が風邪をひいたら変わる。年を取って腰が痛くなるとまた変わる。それをコピーするのではなく、そうした手本を見て、学習者は自ら学び、「『そのような様々な状況(文脈)』において、『いつでも上手に舞うことができる』という『能力』」を獲得していくのです。
「やわらかな評価」と「待つ」姿勢
このとき、非常に重要になるのが教育者の想定を超えた学びに対する評価、すなわち「やわらかな評価」と、何もせずに「待つ」という姿勢であると渡部氏は言います。「『主体的に考える力』を育成するためには、そして『どんな環境においても〈答えのない問題〉に最善解を導くことができる能力』を育成するためには、『教師にとって想定外の学び』こそ本来は尊重されるべきであり、また『失敗すること』は『次の段階への大きな一歩』を意味するのである」(渡部氏)
「役に立つ」よりも大事な能力
ウェブ上に膨大にあるビッグデータを扱う人工知能の研究開発領域では、「だいたい正しければ良い」という考え方があります。ウェブ上のデータがすべて正しいとは限らない。間違った情報もたくさん存在していることを前提に、そうした「間違い」に振り回されないための合理的な方法です。画像や音声や言語といったあいまいで複雑な分野における人工知能開発のブレークスルーを可能にしたパラダイムシフトでした。しかし、思えば現実の世界だって似たようなものです。複雑であいまいで予測不能。間違った情報もたくさん存在している。ならば、この考え方、処し方は、人間が現実に処する方法としても参考になり、そういう能力を人工知能に獲得させるための研究開発は、人間の教育・学習にとっても、大いに参考になるのではないでしょうか。
先述のサッカーや神楽の例もまさにそうでした。状況に応じて「そこそこ正しい行動を起こす」とか「だいたい正しく舞う」、いわば「イマココ」で「いい感じに動く」力です。現状の小学校、中学校、高校のテストで「だいたい正しい」という評価がありえるとは思えません。ですが、じつは渡部氏はかねてからそうした能力と学びが教育にとって大切であると主張していました。
「そもそも『状況(文脈)』というものは常に流動的な性格を持つので、『状況(文脈)』に依存した『知識(意味システム)』はどうしても「よいかげん」にならざるを得ない。このような『知識』を私は『よいかげんな知』と呼び、これまで『教育』の対象に加えることの重要性を主張してきた」
そして、人工知能に対して人類が求めるのは、人工知能の「存在自体が『心地よい』とか『ハッピーである』と感じること」と言います。つまり、「役に立つ」とか「便利である」といった機能的な面ではなく、存在自体が人に喜ばれるものになることです。
このことは人間にとっても示唆に富む指摘です。なぜなら、テクノロジーが進化すればするほど「機能より存在自体」になることは、人間にこそ当てはまることだからです。そう考えると、もしかしたら、これからの時代を生きるうえで最も必要な「能力」において、人工知能と人間の違いはなくなっていくのかもしれません。
渡部氏は「これまでの『教育』は、本当に人間としての『知』や『学び』に焦点を当ててきたのだろうか?」と疑問を投げかけます。人間が学ぶべき本当の「知」、そのための「学び」。皆さんはどのようなものだと思いますか。
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