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DATE/ 2019.01.22

年間ベストセラーに見る人の読書の傾向は?

 2018年11月30日、出版取次大手のトーハンが、「2018年 年間ベストセラー」(集計期間=2017年11月26日~2018年11月24日)を発表しました(以下、順位はすべて「トーハン調べ」)。

 ベストセラーの集計ジャンルは、1)総合、2)文庫総合、3)単行本(文芸書/ノンフィクション・教養書他/ビジネス書/ゲーム攻略本/児童書/実用書)、4)新書(ノベルス/ノンフィクション)、5)全集、5部門・11分野です。なお、1)総合には、文庫・全集は含まれません。

 栄えある平成最後の年間ベストセラー総合1位は、『漫画 君たちはどう生きるか』(吉野源三郎原作・羽賀翔一画、マガジンハウス)でした。

2018年ベストセラー・総合トップ3

 『漫画 君たちはどう生きるか』は、1937年の出版から80年間にわたって読み継がれてきた歴史的名著を、気鋭の編集者と注目の漫画家が初の漫画化に真っ向から挑み、話題作となりました。

 2017年8月刊行以来、5カ月弱でミリオンを達成し、2017年にも総合20位にランクイン。その後も継続して版を重ね続けるロングセラーとなり、2018年11月30日現在で累計発行部数は204万部のダブルミリオンを突破。2位以降に圧倒的な差をつけて、堂々2018年の総合1位となりました。

 なお、同時発売された新装版の原作『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著、マガジンハウス)も、総合9位にランクインしています。

 2位は『モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット』(佐久間健一著、サンマーク出版)。2017年5月の刊行から話題となり、人気テレビ番組などでも特集され反響を呼びました。

 こちらもミリオンセラーの120万部を突破。人気カテゴリーで数多あるダイエット本の中で突き抜けた一冊となった理由に、一般女性の多くが使えていない「モデル体幹筋」に注目したことや、「1エクササイズ1分」「2週間で回数を減らす」「2か月でやめてもOK」という手軽さなどがあると考えられています。

 3位の『大家さんと僕』(矢部太郎著、新潮社)は、お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎氏が、二世帯住宅の“ひとつ屋根の下”で同居する87歳の老婦人「大家さん」との日常を描いた、傑作エッセイ漫画です。

 ほっこりとしつつももの哀しさのあるユニークな“二人暮らし”が人気を呼び、2017年10月の刊行から版を重ね、75万部を突破。各種メディアで取り上げられ、SNSでも大きな話題となり、手塚治虫文化賞・短編賞も受賞しています。

2009~2018年・平成後期のベストセラー傾向は?

 平成の後期にあたる2009~2018年は、年々落ち込む書籍の推定販売金額と並行してミリオンセラーも減少、ベストセラーの部数水準も大きく低下していきました(『出版指標年報』)。

 文芸書では、村上春樹氏の『1Q84(1・2)』(2009年・総合1位)『1Q84(3)』(2010年・総合5位)、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(2013年・総合2位)、『騎士団長殺し(第1部・第2部)』(2017年・総合7位)がベスト10にランクイン。また、芥川賞受賞作の又吉直樹氏『火花』(2015年・総合1位)が、240万部のスマッシュヒットを記録しています。

 ほかにも、直木賞と本屋大賞W受賞作の恩田陸氏『蜜蜂と遠雷』(2017年・総合3位)、映画ドラマアニメなど映像化もされた百田尚樹氏『海賊とよばれた男(上・下)』(2013年・総合4位)や住野よる氏『君の膵臓をたべたい』(2016年・総合5位)など、話題作やベストセラー作家が目立ちました。

 一方、ビジネス書では『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海著、2010年・総合1位)や『まんがでわかる7つの習慣』シリーズ(フランクリン・コヴィー・ジャパン監修/小山鹿梨子まんが、2014年・総合8位)のような、古典的名著をわかりやすく現代風にアレンジした作品が話題となりました。

 実用書の『医者に殺されない47の心得』(近藤誠著、2013年・総合1位)『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』(鬼木豊監修・槙孝子著、2014年・総合1位)、『体脂肪計タニタの社員食堂』シリーズ(2010年・総合3位、2011年・総合2位3位、2012年・総合4位)といった、健康関連本がベストセラーの上位を多数占めています。

 他方、定期的なベストセラーを出している新書からは、『伝える力』(池上彰著、2010年・総合7位)、『聞く力』(阿川佐和子著、2012年・総合1位)、『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(ケント・ギルバート著、2017年・総合4位)、『応仁の乱』(呉座勇一著、2017年・総合8位)など、多様なテーマがランクインしています。

 ノンフィクション・教養書他では、『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子著、2012年・総合2位ほか)、『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子、2017年・総合1位)といった、独自の視点をもって確固たる生き方を実践している人達の魅力的なエッセイが人気を集めました。

 そして、少子化でありながらも2013年頃を底に、右肩上がりのトレンドを見せているのが児童書など、主に子どもを対象とした書籍です。『アナと雪の女王』(サラ・ネイサン、セラ・ローマン作/しぶやまさこ訳、2014年・総合9位)、『ざんねんないきもの事典』シリーズ(今泉忠明監修、2018年・総合4位)などのほか、学参のドリルや絵本などもロングセラーを記録しています。

読書による傾向

 歴史社会学・教育社会学が専門で関西大学名誉教授の竹内洋氏は、「ネットの普及で“情報”は雑誌、書籍にストックされるものから、フロー化が急激に加速した。<中略>かつては、ベストセラーで時代が語れる雰囲気があったが、今はそれがなくなった」と述べつつも、「直接、勉強には関係ない難解な本を読んででも、答えを探したいという層は、決してなくならない」と提言しています(『日本経済新聞 電子版』)。

 古代ローマの政治家にして哲学者で雄弁家としても名を馳せたキケロは、「書物なき部屋は、魂なき肉体の如し」という格言を残しています。

 知的特権階級の専有物であった本が大衆化され、ベストセラーが時代を象徴していた頃からまた時代が巡って、ふたたび本は“個人的なもの”に戻ってきているのかもしれません。本が消費財の役目を終えた今こそ、自室に置く本や読書の傾向が、ダイレクトに自身の内面に映えてくるのではないでしょうか。

<参考文献・参考サイト>
・『出版指標年報』(2009~2018年版、全国出版協会出版科学研究所)
・「活字離れ、本に反転攻勢の動き」、『日本経済新聞 電子版』(2018年12月22日付)
・年間ベストセラーアーカイブ | ベストセラー | 株式会社トーハン
http://www.tohan.jp/bestsellers/past.html
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