社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.04.16

ハウステンボスを救った100万本のバラ

「失敗は成功のモト」である

 なぜハウステンボスは最短で黒字化を達成できたのか。秘密は「失敗は成功のモト」という昔からのことわざにあった。

 うまくいかないことには、必ず原因があり、それを裏返せば成功につながる。それが、エイチ・アイ・エス会長澤田秀雄氏の「裏腹の哲学」なのである。

タダでもお客様が来ない最初の失敗

 ハウステンボス1年目は、「格安航空券方式」の値下げ失敗で幕を開ける。

 航空券なら、割引すればするほど需要が増える。それを当て込み、当時5000円台だった入場料を4000円台に、夕方からの料金は、3000円の時間帯を2000円、2000円を1000円、1000円の時間帯はなんと無料で開放することに…。

 結果は大ハズレで、タダにしても入場者は増えない。「面白くなければ、人は来ない」と気づいた最初の失敗である。

金食い虫の「バラ園」から最初のヒット

 有田の陶器市を模したイベントにも人は集まらず、くさっていた澤田氏は園内に漂う芳香に気づく。バラの季節が始まっていたのだ。

 管理と手入れに莫大なコストがかかる「金食い虫」として、アウトレットへの転用を考えていたバラ園が、もう一度見直しの対象になる。

 これほど素晴らしいバラ園を、なぜ人は見に来ないのか。徹底的な原因調査で「名前がわかりにくいのでは?」と盲点に気づいた澤田氏は、「100万本のバラ」をイベント名にする。

だだっ広さが「花の王国」の強みになった

 「100万本のバラ」は最初のヒットとなり、集客は5割増し。本格的に季節の花で園内をつないでいく案がまとまり、「花の王国」が整備される。

 ここで、スタート前から弱点と言われてきた「だだっ広さ」は逆転して強みを見せる。同時に澤田氏のチームには「イメージの湧くわかりやすいキャッチを」という教訓が残り、今もさまざまに生かされている。

寒さ・暗さを逆手にとった「光の王国」

 テーマパークというもの、日照時間にも左右される。11月から2月の「寒く・暗い」時期には、客入りも「寒く・暗く」なるのが通例だ(クリスマスや年末の時期は例外)。

 「光の王国」は、この欠点を逆にとらえ、「寒く・暗い」冬の夜を光によって「暖かく・明るく」演出したものだ。

 企画は図に当たり、12月の入場者数が8月を上回る。「冬場はテーマパークの枯れ場」という従来の常識を、年々塗り替える記録が更新されているのだ。

オンリーワンか、ナンバーワンか

 最初の1年を振り返ってみると、澤田氏に突きつけられたのは「何が人を呼ぶ面白い企画か」という難題だった。出した答えは「オンリーワンか、ナンバーワンか」。

 100万本のバラ園は、誰も観たことがないからこそ、誰もが見たくなる光景。そして「光の王国」のイルミネーションは、スタート時点で「日本一」の数を誇り、今や世界一の球数に達している。

 失敗の裏に必ず成功は潜んでいる。問題は、それをいかに見抜くか。ハウステンボス1年目の失敗と成功は、その見事な縮図となった。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

ネット古書店で便利に買える時代…「歴史探索」の意義とは

ネット古書店で便利に買える時代…「歴史探索」の意義とは

歴史の探り方、活かし方(3)古書店巡りからネット書店へ

古本のインターネット書店が充実し、史料探しはずいぶん楽になった現在だが、地方にある書店の地元出版コーナーも見逃せない。新書などの文献目録を参考にするという手もあると中村氏は言う。ではそうして歴史を調べ、たどって...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/21
3

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
4

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
5

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは

ある国について、あるいはその社会についての詳細な実状は、なかなか外側からではわからないところがあります。やはり、その国についてよくよく知るためには、そこに住んでみるのがいちばんでしょう。さらにいえば、たんに住む...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/20