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DATE/ 2019.09.13

男性のがん「前立腺がん」が急増している理由

 2019年1月、厚生労働省により発表された「全国がん登録」の結果によると、2016年に新たに「がん」(上皮内がんを除く)と診断された患者は99万5,132例であり、うち男性が56万6,575例(56.9%)となっています。さらに男性の部位別の罹患数は、1)胃(16.4%)、2)前立腺(15.8%)、3)大腸(15.8%)、4)肺(14.8%)、5)肝(5.0%)――の順に多いことがわかりました。

 「全国がん登録」は2016年に開始され、今回が初めての結果公表となります。そこで2014年における「地域がん登録」に基づくデータと比較したところ、罹患数の女性における順位は同じでしたが、男性においては2位と4位が入れ替わり、「前立腺がん」が増え、「肺がん」が減ったという結果が判明しました。

 実は「前立腺がん」は、もともと日本であまり多くみられるがんではありませんでした。しかし近年では、もっとも増加しているがんのひとつとして注目されており、2020~2024年(年平均)には「前立腺がん」罹患数は105,800人となり、男性がんの罹患数1位になるとも予測されています。

「前立腺」および「前立腺がん」とは?

 では「前立腺がん」になる「前立腺」とは、いったいどんな器官なのでしょうか。

 「前立腺」は男性生殖器の一部で、膀胱(ぼうこう)の下方に接し、尿道の始部を輪状に囲む臓器です。半分が筋肉、そして半分は甲状腺や副腎と同じような内分泌の機能を持っている非常に特殊な臓器であり、かつ尿を切ると同時に精巣を守る免疫器官でもあります。形状は、大きさも形もクルミに似ているといわれています。

 「前立腺」の最大の役割を、順天堂大学医学部大学院教授で泌尿器科医の堀江重郎氏は「前立腺液という精液の成分を分泌すること」と述べています。具体的には、精巣から送り出された精液の素に「前立腺液」が加わることによってサラサラの精液になり、精子が受精しやすい状態に仕上がります。ほかにも、尿の排泄にも関わっています。

 また、「前立腺液」には非常に殺菌効果が強いという特徴があり、重要な器官である精巣(睾丸)や膀胱の手前で細菌をブロックしてくれます。そのため、精巣炎や男性の膀胱炎は比較的起こりにくくなっています(ただし、尿道や前立腺の炎症は多くなる)。

 これらの「前立腺」の優れた機能について堀江氏は、「前立腺」は「精巣の“前”に“立”って、守ってくれているのです。<中略>体の入り口で警備に当たり、自ら炎症を起こすリスクを抱えながらも前線を守り抜く」器官として、「もっと感謝の念を持つべきだと思う」と述べています。

 そのような大切な器官である「前立腺」に発生する悪性腫瘍が、「前立腺がん」です。

 「前立腺がん」は高齢になるほど急速に増えるがんで、特に65歳以上の高齢者に多いがんです。しかし早期に発見すれば治癒することが可能であり、また、多くの場合比較的ゆっくり進行します。例えば、2018年9月に国立がん研究センターが公表した、2008年と2009年にがんと診断されて治療を受けた約50万人のデータを分析した5年後の生存率データによると、「前立腺がん」は最も高い98.4%という結果が出ています。

 さらに、潜在性の悪性化しないがんも多いとされています。ただし、適切な治療を怠れば近くのリンパ節や骨に転移することが多く、肺、肝臓などに転移することもあります。また、まれに40代での発症もみられます。

「前立腺がん」の増加要因と治療の多様化

 多様ながんの中で、なぜ「前立腺がん」が特に増えてきているのでしょうか。背景には、アジア圏や先進国での「前立腺がん」の急増があります。

 「前立腺がん」は、アメリカや日照のよくない北欧やスイスなどに多い反面、アジア圏やヨーロッパでもイタリアやスペインなど地中海に面した国の罹患率が低いがんでした。しかし、日本でも、1)高齢化、2)食生活の欧米化、3)“PSA検査”の導入による早期発見――の主な三要因によって、「前立腺がん」患者は急増しています。

 ただし、1)高齢化は、そもそも「前立腺がん」が典型的な高齢者のがんであることやそれまで他の大病をせずに生活できたことなども含んでおり、3)“PSA検査”の導入による早期発見は、初期に適切な治療を行えば生存率の高い「前立腺がん」にとっては、むしろ福音であると捉えることもできます。

 しかし、2)食生活の欧米化については、個々人の年齢やライフスタイルにあわせた対策が必要になってきます。こちらの対策については、後述したいと思います。

 一方、「前立腺がん」の治療法も、多様化・高度化・細分化しています。

 「前立腺がん」の一般的な治療法には大きく、1)手術療法、2)放射線療法、3)薬物療法、4)超音波療法――があり、どの治療法を選択するかは前立腺がんの進行度によります。このように、「前立腺がん」には多くの治療法があり、それぞれにメリットとデメリットがあるため、その人に応じたテーラーメードの治療法を選択することが、何よりも重要となっています。

 ただし、がんが前立腺内にとどまっている段階までなら、体力的な問題や手術によって悪影響の生じる合併症がないかぎり、1)手術療法が第一選択となります。特に高齢者以外の場合は、根治のためにもベストだといわれています。また、近年は非常に細かな作業を可能にする、手術支援ロボットの導入も広がっています。

「前立腺がん」対策の二本柱

 最後に、「前立腺がん」を対策の視点から見てみましょう。「前立腺がん」の対策には、大きな2本柱があります。

 1本目の柱は、“検査・診断を受けること”です。「前立腺がん」と診断されるプロセスは、1)スクリーニング(PSA検査、直腸診、超音波検査、MRI検査)、2)確定診断(針生検)、3)病期診断――となっています。

 その中でも増加要因でも述べた、1)スクリーニングに含まれる“PSA検査(PSA:prostate specific antigen;前立腺特異抗原)”は、採血のみの比較的低負担で安価でありながらも、血液に含まれる酵素の量を調べることができる頼りになる検査方法であるため、「前立腺がん」早期発見のためのファーストオプションとして推奨されています。

 2本目の柱は、“食生活で予防をすること”です。「前立腺がん」の危険因子には、高齢化とともに動物性脂肪過剰摂取が指摘されています。特に中年以上は要注意とされており、具体的には牛乳や乳製品、加熱した鶏肉の脂、サラダ油やコーン油などの摂取を控えることが推奨されています。

 反対に摂取が推奨されている食品もあります。堀江氏が「前立腺がん」の予防において、「これまでの研究で、最も強いエビデンスがある食べ物」として推奨する食品はトマトです。トマトに含まれるリコピンをはじめとした、さまざまな抗酸化物質がよいと考えられています。

 一方、大豆も「前立腺がん」予防に効果が高いとされています。特に味噌や納豆よりも、発酵していない豆腐、枝豆や煮込んだもののほうがよいそうで、大豆に含まれる大豆イソフラボンという成分が、腸内細菌の作用で発がん作用を抑えるエコールという物質に変わるためといわれています。

 ただし、近年の日本の若者は腸内細菌が減少傾向にあるため、大豆製品だけでなくエコールを直接サプリで摂取することなども推奨されています。そして、どの食品であっても、常識の範囲内で適度に摂取することが大切になります。

 いかがでしょうか。気になる人や気になる人が周りにいる方はぜひ一度、“PSA検査”について調べたり、食生活の見直しをしたりしてみてください。

<参考文献・参考サイト>
・がん登録 - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_toroku.html
・最新のがん統計:男性では前立腺がんが上位に
https://www.carenet.com/news/general/carenet/47373
前立腺がん 基礎知識:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/index.html
・疫学 ~前立腺がんは増えている?~|What's前立腺がん
https://www.zenritsusen.jp/epidemiology/
・「前立腺」、『日本国語大辞典』(小学館)
・「前立腺がん」、『イミダス 2018』(渡邊昌著、集英社)
・『男性の病気の手術と治療』(堀江重郎著、かまくら春秋社)
・『ヤル気が出る!最強の男性医療』(堀江重郎著、文春新書)
・『前立腺がんは「ロボット手術」で完治を目指す!〈改訂版〉』(大堀理・権藤立男・竹内尚史・豊永洋一郎・鏑木直人・夏山隆夫著、青月社)
・「特集 がんに勝つ薬 前立腺がん5年生存率98% 膵臓がんは10%」、『エコノミスト』(2018年11月13日号、下桐実雅子著、毎日新聞出版)
・がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html
・「PSA検査」、『イミダス 2018』(太田惠一朗著、集英社)
(10MTV編集部)

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