社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.11.06

日本で役員報酬を1億円以上貰っているのは何人?

 世の中には報酬1億円以上をもらう人たちが存在します。東京商工リサーチの資料によると、上場企業の2019年の3月期決算で、1億円以上の役員報酬を開示した企業は280社、570人、3年連続で企業数・人数ともに最多記録を更新中です。ここではこの資料をもとに、もう少し詳しく、どういった企業のどんな人が報酬をもらっているのか、見てみましょう。

企業別では三菱電機が最多

 開示した企業のうち、最多は三菱電機の21人。三菱電機は2014年3月期から6年連続トップです。2位は日立製作所で17人、3位はファナックで10人となっています。以降は、東京エレクトロン9人、三菱商事8人、バンダイナムコホールディングス8人、大和ハウス工業7人、三井物産7人、大東建託7人、ソフトバンクグループ7人、となっています。上位に電気機器メーカーなどが入っています。ちなみに役員報酬1億円以上の個別開示制度は、2010年3月期から開始され、この10年連続で登場している役員は73人とのこと。

役員報酬額トップは32億6,600万円

 2019年3月期の役員報酬の最高額は、ソフトバンクグループのロナルド・フィッシャー副会長で、32億6,600万円です。なお前年同期は20億1,500万円だったので、1.6倍増となっています。2位は新日本建設の金綱一男会長で23億4,300万円、3位はソフトバンクグループのマルセロ・クラウレ副社長(COO)で18億200万円。4位は武田薬品工業のクリストウェバー社長17億5,800万円。5位は日産のカルロス・ゴーン元会長(役員報酬の虚偽記載(過少記載)などで東京地検に逮捕)で16億5,200万円(12億3,700万円は支払い繰り延べ)となっています。

 外国人役員が多いことがわかります。東京商工リサーチの分析によると、賞与や業績連動報酬の他、ストックオプションなどの非金銭報酬で多額の報酬を得るケースが目立つとしています。一方、日本人役員では、今回2位に入っている新日本建設の金綱一男会長がいますが、この役員報酬の大半(22億円超)は退職慰労金だったようです。ちなみにソフトバンクループからはトップ10に5人がランクインしています。
 

役員と従業員の格差は平均30倍

 従業員の平均給与と比較して考えてみましょう。格差がもっとも大きかったのは日産自動車のカルロス・ゴーン元会長、日産の平均給与は815万4,000円なので、およそ200倍です。2位は日本調剤の三津原博元社長(報酬額6億6,300万円)で、従業員の平均給与545万7,000円のおよそ120倍、3位はソフトバンクグループのマルセロ・クラウレ副社長(COO)(報酬額11億9,200万円)で、従業員の平均給与1,253万3,000円の95倍となっています。全体の平均は、報酬総額でおよそ30倍の差があるようです。

 このあたりの数字を海外まで広げてみると、1000倍を越えることもあるようです。役員の報酬が高い理由は、大きくはその責任の重さによるものです。決断次第で企業の収益は一気に変わります。新しい分野で巨額の収益を上げる可能性もあれば、失敗して会社を潰すリスクも負っています。もっと言えば、一般の労働者一人が生み出しうる生産性と、役員の生産性に差があるから、報酬もそれだけ異なる、という考えのようです。ただ、問題はこの報酬がどれだけ正当なのかということです。

 いまは、世界中から業種を問わず、経営のプロがヘッドハンティングされます。こうなると会社の収益を改善する事のできる経営者はある意味スーパースターとなり、世界中の企業からもっと多額の報酬でヘッドハンティングを受けます。こうなるとさらに提示される報酬額は上昇します。他にもさまざまな要素が絡んでいるようですが、少なくともこういった一流スポーツ選手と似た構図によって、上昇スパイラルが生まれ、報酬が上がっているという形はあります。

 こういった状況の一方、講談社マネー現代の記事によると、CEO報酬とCEOが生み出す付加価値との間の相関性は多くの場合、否定的であるという研究が出ているとのことです。役員報酬の正当性に関しては、もう少し細かい精査が必要と言えますが、少なくとも日本企業での役員報酬は年々上昇しているようです。

<参考サイト>
・2019年3月期決算「役員報酬1億円以上開示企業」調査
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190719_01.html
・最大5000倍!社長と従業員の「報酬格差 」が止まらないカラクリ|マネー現代
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56646
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法

「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
3

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
4

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉

実際に史料をどうやって読み解いていけばいいのか。今回から具体的な史料の読み解き方をケース・スタディしていく。最初は『太閤記』に関する参考資料を用いて、太閤・豊臣秀吉と関白・秀次の関係を考える。そもそも『太閤記』...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/22
5

不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?

不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実

改革開放当時の中国には技術も資本もなく、工場を建てる土地があるだけだった。経済成長とともに市民が不動産を複数所有する時代となり、地価は高騰し続けた。だが、習近平政権による総量規制は不動産価格を低下させ、消費低迷...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/16
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使