社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.05.27

池袋も消滅のおそれ!?25年後の日本の自治体


 昨年、人口減から日本の自治体の約半分に「消滅のおそれ」があるという衝撃の予測が発表された。半分になるのは、2040年。今から、わずか25年後の未来だ。

 この予測をまとめたのは、元総務大臣で現在東大客員教授の増田寛也氏。全国約1800ある自治体のうち、実に896もの市区町村が立ちいかなくなるという可能性があるというのだ。


消滅のおそれ=消滅ではない

 この予測は報道のミスリードも手伝い、口コミで広まる間に「2040年に自治体の約半分が消滅する」と誤解されることも多かった。なので、はっきり確認しておきたいことは、「消滅」と、「消滅のおそれ」は違うということである。

 ここで言う「消滅のおそれ」とは、人口があまりに少なくなると、自治体の経営が立ちいかなくなるという意味である。自治体は大きすぎると細やかなサービスが行き届かなかったり、官僚化する公務員弊害が出て困るが、小さ過ぎるのもまずい。


消滅するよりも苦しくなる場合も

 その地域に仕事が無くなると、稼げて納税する能力のある層は、仕事のある地域に流出する。その結果、人口が減り、自治体の提供する行政サービスを必要とする層だけが取り残される。つまり、支出は減りにくいのに、収入は激減するわけだ。

 また、そもそもある程度の規模が保たれていないと、サービスの一人当たりコストは上昇する。カレーを一皿分だけ作るよりも、いっぺんに百皿分作れば、仕入れもガス代も人件費も節約でき、一皿分の価格は安く上がるというのと同じことだ。いわゆる「規模の経済」のメリットが得られにくくなる。

 そうすると、単に消滅するよりも苦しくなることも考えられる。十分な行政サービスが受けられないのに、徴収される税率は変わらないからだ。

 また、公務員の人件費などは真っ先に経費削減の対象になる。現在、地方の場合、公務員は勝ち組と言われることが多いが、そうも言ってられなくなる。現に財政難に苦しむ夕張市では、4割も給料を削減された公務員もいるという。年収500万円なら、実に300万円まで下がるということだ。

 公務員が下がるだけなら、民間は大丈夫…というわけにもいかない。地方自治体は公務員の飲食費や遊興費で経済が活性化している側面もある。国から地方交付税交付金で割り振られたお金が公務員を通じて、町に落ち、サービス業を盛り上げているのだ。その経済循環がダメージを受けると、民間の仕事も先細ってしまう。


東京なら大丈夫というわけでもない

 地方から流出した人口を受け止める東京などの大都市なら大丈夫…と高をくくってもいられない。この調査の特徴は、出産適齢期とされる20~39歳の女性の人口に注目したことである。

 この減少率が5割になると、子どもが増えないということで、人口が減り、自治体の経営が立ちいかなくなるという予測なのだ。この減少率が4割以上の自治体に足立区や杉並区も含まれ、なんとあの池袋を抱える豊島区にいたっては50.8%減、つまり5割以上の消滅するおそれのある自治体ということになったのだ。

 東京などの大都市は、地方からの人口流入により経済を活性化している。言ってみれば、地方の活力を吸い上げて元気を保っているわけだが、日本全体で出生率が下がってくると早晩このモデルも立ちいかなくなる。東京も高齢化を免れないということだ。


逆に過疎地が若返る?

   現在の過疎地域では、次々に人口のボリュームゾーンである高齢者が寿命を迎えている。昨今のIターン、Uターンブームなどにより若年層がそういった地域に流入すると、逆に平均年齢が一気に若返ってしまうということもあるそうだ。

 そうなると、後で高齢化問題を迎える東京よりも、若い地域になるということもあり得る。しがらみのない若返った地域で、これからの人口減社会に合わせた新しい経済モデル、例えば今までの薄利多売モデルとは違う高付加価値商品の創造や、自給自足体制が確立するなどあれば、むしろ、東京よりも先進的な地域になる可能性もある。

 東京に住んでいれば安心ということはない以上、そのような可能性に賭けてみるのも、これからのライフプランの選択肢のひとつになる。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
3

「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード

「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード

内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略

ラストベルトはアメリカの経営者により生まれたが、それは決して攻撃ではなく、合理的な経営判断による必然的なりゆきだった。その一例として島田氏は、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が中国でスピーチした光景を思い出す。世...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/17
4

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
5

図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」

図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」

歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用

公共図書館では質の高い「レファレンス」サービスを提供しているが、活用する人は限られている。だが、実は全国の図書館ネットワークを縦横無尽に活用できる、驚くほどに便利な仕組みなのだ。今回は図書館のレファレンスで何が...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/15