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NHKとJASRACに見る「徴収形ビジネス」の問題点
インターネットが当たり前のものになり、私たちは以前よりも多くの情報に触れられるようになりました。かつては新聞やテレビ番組の報道を通してしか知ることができなかった事柄も、今では無数の情報にアクセスができます。
同時に、従来の大手メディアや組織のあり方が多くの人々に問われるようにもなりました。中でも注目されているのがNHKとJASRACです。かたや公共放送、かたや音楽の著作権管理と、なくてはならない業務をつかさどる組織ですが、ウェブ上ではしばしば炎上、「既得権益集団」の代表のようにバッシングを受けています。いったいどのような背景があるのでしょうか。
反感の一因になっているのは受信料徴収です。NHKの運営は、《協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。》という、放送法64条第1項に基づいて徴収される受信料で行われています。「NHKを観ようと観なかろうと、受信できる環境であれば契約する義務がある」と。ほぼ拒否権はありません。お金を払った契約者以外は観られないようにするスクランブル放送にすれば良いという意見もありますが、公共放送の在り方に反すると退けられています。
格差社会に生きる人々の困窮を社会問題としてとりあげ報道している組織が、個別の経済事情を加味することなく、経済的な理由での支払い免除に厳しい条件を突き付けているのはいかがなものか……。法的根拠を盾に一律徴収を行いながら、「格差社会の苦しみ」の番組を流すスタンスは、矛盾した組織という印象を視聴者に抱かせるのかもしれません。
そんな不満に追い打ちをかけるように2019年3月、テレビを視聴可能なワンセグ携帯でも契約義務が発生するのかを争点に裁判が行われました。東京高裁は「契約義務がある」と判決をくだし、上告は棄却されています。また、NHKは過去に、インターネットから視聴ができるならそこからも徴収を行えるようにしようとしたこともあり、ウェブ上に多くの反対意見が根付いたようです。
JASRACに対してネットで炎上騒ぎが起きたのは2017年の「音楽教室からも著作権料を徴収する」と宣言したことが始まりでした。これに対して音楽教室事業者は「音楽教育を守る会」を結成し、2017年6月にJASRACを相手取り「音楽教室における演奏については、使用料を請求しない」と確認を求める訴訟を起こします。約57万人の署名を文化庁に提出し、著名なミュージシャン達も賛同の声をあげました。しかし、JASRACの行動自体にはなんら法的な問題はなく、東京地裁は音楽教室にも使用料を払う必要があると判決を下し、上告を棄却しています。
法的にはなんら問題がない……ここに著作権管理の難しさがあります。日本は諸外国に比べて著作権法がかなり厳しいと言われており、結果的に音楽産業全体の首を絞めているのではないかという懸念が専門家から寄せられています。
そんな中、音楽の著作権管理業界にはNexToneが新規参入し、今後の動向が注目されています。JASRACは依頼人より著作権を「信託譲渡」する形で業務を行っていますが、NexToneは著作権の管理を音楽出版社から「委託」される形で請け負っているので、融通が効くというメリットがあります。ただ、現時点では作詞・作曲家個人では入会できない、ライブでの演奏の権利などは管轄外であるなど課題が残されている状態です。
同時に、従来の大手メディアや組織のあり方が多くの人々に問われるようにもなりました。中でも注目されているのがNHKとJASRACです。かたや公共放送、かたや音楽の著作権管理と、なくてはならない業務をつかさどる組織ですが、ウェブ上ではしばしば炎上、「既得権益集団」の代表のようにバッシングを受けています。いったいどのような背景があるのでしょうか。
テレビだけでなくネットまで、受信料徴収問題
ご存知NHKこと日本放送協会は総務省の外郭団体である公共放送機関です。放送法に基づいて運営される公共放送として、社会問題から幼児向け番組、朝ドラなど、お茶の間メディアとして今日まで続いてきました。しかし、近年は『NHKより国民を守る党』という名前の通りのアンチ政党が議席を確保、それを支持する有権者層が少なからず居ることが明るみに出ました。反感の一因になっているのは受信料徴収です。NHKの運営は、《協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。》という、放送法64条第1項に基づいて徴収される受信料で行われています。「NHKを観ようと観なかろうと、受信できる環境であれば契約する義務がある」と。ほぼ拒否権はありません。お金を払った契約者以外は観られないようにするスクランブル放送にすれば良いという意見もありますが、公共放送の在り方に反すると退けられています。
格差社会に生きる人々の困窮を社会問題としてとりあげ報道している組織が、個別の経済事情を加味することなく、経済的な理由での支払い免除に厳しい条件を突き付けているのはいかがなものか……。法的根拠を盾に一律徴収を行いながら、「格差社会の苦しみ」の番組を流すスタンスは、矛盾した組織という印象を視聴者に抱かせるのかもしれません。
そんな不満に追い打ちをかけるように2019年3月、テレビを視聴可能なワンセグ携帯でも契約義務が発生するのかを争点に裁判が行われました。東京高裁は「契約義務がある」と判決をくだし、上告は棄却されています。また、NHKは過去に、インターネットから視聴ができるならそこからも徴収を行えるようにしようとしたこともあり、ウェブ上に多くの反対意見が根付いたようです。
法的には問題のないJASRAC……著作権法は誰のためにあるのか
同様に徴収を行うビジネスモデルの組織にJASRAC(ジャスラック)があります。著作権者が音楽活動に専念できるよう、著作権者より著作権を「譲渡信託」し、管理・手続きを代行する役割を担う、業界の90%のシェアを占める大手です。しかし、近年はその在り方に疑問の声が上がっています。JASRACに対してネットで炎上騒ぎが起きたのは2017年の「音楽教室からも著作権料を徴収する」と宣言したことが始まりでした。これに対して音楽教室事業者は「音楽教育を守る会」を結成し、2017年6月にJASRACを相手取り「音楽教室における演奏については、使用料を請求しない」と確認を求める訴訟を起こします。約57万人の署名を文化庁に提出し、著名なミュージシャン達も賛同の声をあげました。しかし、JASRACの行動自体にはなんら法的な問題はなく、東京地裁は音楽教室にも使用料を払う必要があると判決を下し、上告を棄却しています。
法的にはなんら問題がない……ここに著作権管理の難しさがあります。日本は諸外国に比べて著作権法がかなり厳しいと言われており、結果的に音楽産業全体の首を絞めているのではないかという懸念が専門家から寄せられています。
そんな中、音楽の著作権管理業界にはNexToneが新規参入し、今後の動向が注目されています。JASRACは依頼人より著作権を「信託譲渡」する形で業務を行っていますが、NexToneは著作権の管理を音楽出版社から「委託」される形で請け負っているので、融通が効くというメリットがあります。ただ、現時点では作詞・作曲家個人では入会できない、ライブでの演奏の権利などは管轄外であるなど課題が残されている状態です。
根底にあるのは時代に追いついていない法整備
NHK、JASRACの問題の根底にあるのは、現代に生きる人々の感覚と法律の間に大きな溝があることでしょう。徴収される側の抱く「おかしいのではないか」という問いに対して、徴収する側は「法律ですから」と回答し噛み合わなくなっています。現代社会にそぐわなくなっている放送法・著作権法の改定と、それに合わせた社会・組織の変革が求められています。<参考文献・参考サイト>
・『音楽はどこへ消えたか? 2019改正著作権法で見えたJASRACと音楽教室問題』(城所岩生著、みらいパブリッシング)
・「よくある質問集 NHKが受信料をとる法的根拠は何か」
https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/01/02-01-03.html
・「よくある質問集 なぜ、スクランブルを導入しないのか」NHK
https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/01/02-01-08.html
・「よくある質問集 生活が苦しいので受信料を免除してもらいたい」
https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/02/02-02-20.html
・『NHK問題、なにが軸なのか』ITmedia NEWS
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1906/07/news010.html
・『JASRACは何と戦っているのだろうか』日経BP
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00030/
・『NexToneとJASRACはどう違うの?』INTERNET Watch
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/music_copyright/1108544.html
・『「著作権集中管理団体の功罪をめぐる論争について : JASRACの「音楽教室からの料金徴収問題」を題材に」』田中辰雄 北海道大学
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/72119/1/51_03tanaka.pdf
・『音楽はどこへ消えたか? 2019改正著作権法で見えたJASRACと音楽教室問題』(城所岩生著、みらいパブリッシング)
・「よくある質問集 NHKが受信料をとる法的根拠は何か」
https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/01/02-01-03.html
・「よくある質問集 なぜ、スクランブルを導入しないのか」NHK
https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/01/02-01-08.html
・「よくある質問集 生活が苦しいので受信料を免除してもらいたい」
https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/02/02-02-20.html
・『NHK問題、なにが軸なのか』ITmedia NEWS
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1906/07/news010.html
・『JASRACは何と戦っているのだろうか』日経BP
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00030/
・『NexToneとJASRACはどう違うの?』INTERNET Watch
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/music_copyright/1108544.html
・『「著作権集中管理団体の功罪をめぐる論争について : JASRACの「音楽教室からの料金徴収問題」を題材に」』田中辰雄 北海道大学
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/72119/1/51_03tanaka.pdf
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