社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.12.14

世界のインターネット自由度ランキング

 インターネット上の自由は、オフラインと同様に守られるべき。その原則を掲げて「インターネット上の自由度ランキング」を毎年発表する団体があります。いったいどんな組織なのか、今年選ばれた優良国はどんな顔ぶれなのかなど、調べてみました。

どんな団体が、どんな手法で調べているのか

 2020年版「インターネット上の自由度ランキング」が発表されています。調査しているのは国際NGOフリーダム・ハウス(Freedom House)。1941年にワシントンDCに設立された「世界規模で自由を守る」ために活動する、米国では初の組織として知られています。創設メンバーはジャーナリスト、学者、政治家、労働党指導者たち。当時のファーストレディだったエレノア・ルーズベルトとウェンデル・ウィルキーが名誉共同議長を務めました。

 2009年に15か国を対象としてつくったパイロット版以来、フリーダム・ハウスでは毎年「Freedom on the Net」を発表。最新の2020年版では対象地域は65か国にわたり、世界のインターネット人口の87%をカバーしています。

 レポートでは、世界中の政府や非国家主体がオンライン上で市民の権利を制限しているかどうかを調べるため、三つのカテゴリを設けています。

 一つ目は「アクセス障害」で、インフラや経済面、法令面などによる規制がなされているかどうかが問われます。二つ目は「内容(コンテンツ)の制約」。検閲やフィルタリング、ブロッキング、自主規制などが問われます。三つ目は「個人の権利侵害」で、ユーザーへの監視やプライバシー侵害が起こっていないか、サイバー攻撃なども含め、オンライン上の言論や活動に対する自由を精査していきます。

 以上3つのカテゴリに対して用意されたチェック項目は100に上り、団体内の専門家により「自由」「やや自由」「不自由」の判定がなされます。そうして出されたスコアに対し、対象国の専門家や学者、一般市民の代表などによる国際電話会議や検討会が開催されて、調整されていきます。

2020年版、最もネット上の自由度の高いベスト10は?

 では、「Freedom on the Net 2020」を確認していきましょう。インターネット上の自由度の高いベスト10は以下の順、カッコ内は(アクセス障害、内容制約、個人の権利障害)の各ポイントです。

1位:アイスランド 95ポイント(25, 34, 36)
2位:エストニア 94ポイント(25, 32, 37)
3位:カナダ 87ポイント(23, 32, 32)
4位:ドイツ 80ポイント(22, 30, 28)
5位:イギリス 78ポイント(23, 30, 25)
6位:フランス 77ポイント(23, 30, 24)
7位:オーストラリア 76ポイント(23, 28, 25)
7位:ジョージア 76ポイント(19, 31, 26)
7位:イタリア 76ポイント(21, 30, 25)
7位:アメリカ合衆国 76ポイント(21, 30, 25)

 日本はこの表に次ぐ11位で、アルメニアと同じ75ポイント(21, 28, 26)となっています。トップ集団より低い評価がなされたのは「内容制約」の点で、ネット言論に何らかの規制が感じられます。

 またワースト5は、総合ポイントの低い順に中国10ポイント(8, 2, 0)、イラン15ポイント(7, 5, 3)、シリアポイント(6, 8, 3)、ベトナム22ポイント(11, 7,4)、キューバ22ポイント(5, 10,7)。個人の権利が顧慮されていない点、不自由極まると言わざるをえません。

躍進するe-エストニアのまねたい部分は?

 今回のレポートには新型コロナのパンデミックが大きな影を落としています。そんななか、最先端の電子政府として名を馳せたのが2位のエストニア。バルト三国のひとつで、ロシア、ラトビアと国境を接し、北はフィンランド湾、西はバルト海に面しています。

 今や「e-エストニア(電子国家エストニア)」を名乗る、人口約132万人の小国が電子内閣に踏み切ったのは2000年。その後、電子投票、学校でのオンライン学習、行政手続きやヘルスケアサービスのデジタル化を進めました。

 今般のコロナ禍においてもデジタル公共サービスの多くは中断されることなく、3月初旬からのロックダウンの間も、政府サービスの99%がオンラインで提供されました。パンデミックに関する質問の自動応答サービス、実際に支援を必要としている人とボランティアを結びつけるプラットフォームなどが生まれ、市民生活の不安解消に一役買いました。

 エストニアでは、パンデミック以前から電子化ソリューションを活用していた学校が87%に上り、2015年までにすべての教材がデジタル化されています。世界中の10代の若者たちの学習到達度を測るテスト「PISA」で、エストニアは2018年にヨーロッパで1位になりました。今回の危機下で多くの国が休校と学習の遅れに悩むなか、デジタル教育に数歩秀でていたエストニアは、今後も注目すべき存在といえるでしょう。
<参考サイト>
・Freedom on the Net | Freedom House
https://freedomhouse.org/report/freedom-net
・電子国家「e-Estonia」 へようこそ
https://e-estonia.com/wp-content/uploads/2828-e-estonia-introduction-presentation-jap-estonian-design-team-19121622.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群

ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルラ...
収録日:2022/04/12
追加日:2023/07/23
鎌田東二
京都大学名誉教授
3

「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」

「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」

エンタテインメントビジネスと人的資本経営(5)「チーム戦と新規ビジネス」の要点

経営は個人戦でなくチーム戦であり、経営メンバーは「人材の組み合わせ」が大事である。かつて本田宗一郎には藤沢武夫、井深大には盛田昭夫がいたからホンダもソニーも大きくなれた。また、新規ビジネスを始めるときは大事なの...
収録日:2025/05/08
追加日:2025/11/03
水野道訓
元ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役CEO
4

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ

算数が苦手な子どもが多く、特に分数でつまずいてしまう子どもが非常に多いというのは世界的な問題になっているという。いったいどういうことなのか。そこで今回は、私たちが言語習得の鍵となる「スキーマ」という概念を取り上...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題

半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24