社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.07.07

銀行から預金が引き出せなくなる日

 ギリシャ金融危機は、国家が財政破綻するとどうなるかについて、非常に多くのことを教えてくれている。その内の1つが銀行の預金についてだ。

 ギリシャ国民が経験したのは、バンクホリデー(銀行の休日)と1日60ユーロまでの引き出し制限。不安を抱えた預金者が一斉にお金を引き出しにくることを「とりつけ騒ぎ」というが、バンクホリデーと引き出し制限は、両方ともそれを予防するための措置だ。

 実は銀行は、全預金者の残高を合わせた額の現金を常に用意しているわけではない。預けた額よりも、引き出される額の方が常にずっと少ないだろうという前提で運営されているのだ。つまり、すべての預金者に返すお金を銀行は用意していない。


なぜ私たちは銀行から利子をもらえるのか

 私たちは、ATMと残高さえあれば、いつでも自分たちの預金が引き出せると考えている。なぜなら、その預金は自分のお金だからだ。当たり前過ぎて説明するまでもない。

 しかし、あえてもう少し突っ込んで考えてみよう。たしかに銀行に預け、通帳の残高に記されている数字は私たちのお金だ。じゃあ、なぜ銀行に預けているのだろう?なぜ自宅の金庫に入れておいたり、タンス預金にしておかないのか。

 ひとつは、家においておくと、心配だからだろう。泥棒に入られるかも知れないし、火事で燃えてしまうかも知れない。その点、銀行に預けておけば安心だ。個人宅よりもしっかりした金庫があるし、お金のプロが管理している。

 でも、それだけじゃない。もし、それだけなら私たちは銀行に金庫代や管理料を払うべきだ。しかし実際は、お金を取られるどころか、利子という名目で微々たる額だが、お金をもらっている!

 そう。私たちが銀行に預けているお金は、銀行に貸しているのだ。銀行は私たちから借りたお金を元手に商売を回し、その利益を貸主である私たち預金者に還元しているわけだ。

 保管料を払って預けたお金は、返せと言った時に返ってこなければ、たしかに怒っていい。しかし、ビジネスの元手として貸したお金が返ってこない時は、同じように怒っていいのだろうか?


お金を貸すことにはリスクが伴う

 保管料を払って預けたお金が返ってこないとおかしいのは、保管したお金を預かる側が使うのはおかしいからだ。しかし、利子をもらうということは、預かる側、つまり借りる側がそのお金を使う前提である。使ったお金が必ず返ってくるということはまずない。それは100%成功する投資という意味になってしまうからだ。世の中にそんな旨い話はない。

 冒頭で述べたように、預金者の残高を全て合わせた現金を銀行が用意していないのも当たり前だ。なぜなら、貸し出しているから。

 経済が上手く回っている間は、ことさらそういうことは気にしなくても良い。銀行はただの便利な金庫に見える。

 しかし、一度ギリシャのように国家財政が破たんするなどして、国の経済が回らなくなるとお金を単に預けているわけでなく、貸していることのリスクを嫌というほど味わうだろう。  ちなみにギリシャ政府の債務は対GDP比で177%だが、日本政府の債務は現在230%である。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,700本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由

カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由

平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』

平和のための「国家連合」。このアイデアの源はサン=ピエールなのだが、現在ではカントの著作『永遠平和のために』が起源だともてはやされることが多い。その理由としては、「なぜ国家連合が必要なのか」「そもそもなぜ平和が...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/22
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
2

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方

2025年8月、米露、米ウクライナ、EUの首脳会談が相次いで実現した。その成果だが、中でもロシアにとって大成功と呼べるものになった。ディール至上主義のトランプ政権を手玉に取ったロシアが狙う「ベルト要塞」とは何か。事実上...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/12/21
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる

「逆境とは何に逆らうことなのか」「人はそもそも逆境でしか思考しないのではないか」――哲学者鼎談のテーマは「逆境に対峙する哲学」だったが、冒頭からまさに根源的な問いが続いていく。ヨーロッパ近世、ヨーロッパ現代、日本...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/19
4

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
5

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地

日進月歩の進化を遂げている生成AIは、私たちの生活や仕事の欠かせないパートナーになりつつある。企業における生成AI技術の利用に焦点をあてる今シリーズ。まずは世界的な生成AIの導入事情から、日本の現在地を確認しよう。(...
収録日:2024/11/05
追加日:2024/12/24
渡辺宣彦
コグニザントジャパン株式会社代表取締役社長CEO