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DATE/ 2021.07.23

無糖炭酸水が売れている理由

 スーパーやコンビニの飲料コーナーで、無糖炭酸水のラインナップがことのほか充実していることにお気づきでしょうか。実は今、無糖炭酸水が売れに売れており、2019年の市場規模は約500億円で生産量は10年前の2009年に比べ約8倍にも増加したといいます。

 コロナ禍も、その人気は衰えるどころかますます活況を見せており、飲料の総市場が前年割れする中、炭酸水市場は過去最大の販売数に達したといいます。

 無糖炭酸水は、なぜこれほどまでに人気となったのでしょうか?

キーワードは「健康志向」「リフレッシュ」「宅飲み」

 自動販売機の台数の減少や天候不順、スーパーやドラッグストアなどでの激安販売などが影響し、近年の飲料業界は収益環境の悪化に苦しめられてきました。2019年の炭酸飲料市場は、前年比96%とマイナスに。これは先の要因もさることながら、全体の約8割が砂糖入りの炭酸飲料が占めるため、健康志向の高まりから砂糖入り飲料が消費者に敬遠されているのも一因といわれています。

 そのような中、無糖炭酸水は「ヘルシー」「満腹感が得られやすい」「爽快感がある」といった特徴から主に働き盛りの40~50代の消費者の支持を集め、苦戦する飲料市場の中でも飛び抜けて元気なカテゴリとして急成長しています。

 この無糖炭酸水ブームを牽引するのが、2011年に発売されて以来、今なおトップシェアを誇る『ウィルキンソン タンサン(アサヒ飲料)』です。これまで炭酸水は「お酒の割り材」としてのイメージが強く、業務用としてビン売りされるのが通常でした。しかしアサヒ飲料は、より手に取りやすいペットボトル入りを発売。さらに“刺激、強め。”というキャッチコピーで炭酸の強い刺激と爽快感をアピールしました。

 ウィルキンソンは閉塞感漂う世の中において手軽にストレス発散、リフレッシュを求める消費者のニーズにマッチし、たちまち大ヒット。無糖炭酸水人気の火付け役となったのでした。

 近年ではコロナ禍の影響も大きく、外出自粛による運動不足から健康志向がますます高まり無糖炭酸水が選ばれる傾向に。さらに「宅飲み」需要の増加で、自分でお酒を炭酸水で割って飲む人が増えたことも無糖炭酸水の人気を押し上げているようです。

フレーバー入り炭酸で間口が拡大。“付加価値”がついた炭酸水も

 人気絶好調の無糖炭酸水市場の活性化にともない、各メーカーは新商品、新ブランドを続々投入しています。

 もはや無糖炭酸水のスタンダードともいえるアサヒ飲料の『ウィルキンソン タンサン』は、海外の歴史ある老舗無糖炭酸飲料であることや、炭酸の強さを徹底アピール。信頼と品質を押し出すことで、ブランドイメージの強化と新規消費者層の拡大を狙っています。

 無糖炭酸水は現在このウィルキンソンの一人勝ち状態ともいえますが、ウィルキンソンと並ぶ存在として脚光を浴びるのが、サントリーの『サントリー天然水 スパークリング』です。サントリーといえば『南アルプスの天然水』をはじめとしたミネラルウォーターが人気の飲料メーカー。炭酸よりも“水の良さ”をアピールすることで、フレッシュで開放的なイメージを与えています。

 いっぽう、商品のラインナップが増えつつあるのがフレーバー入りの無糖炭酸水です。砂糖は欲しくないけどプレーンな炭酸飲料では物足りない、という消費者に人気で、レモンやグレープフルーツといったさわやかな柑橘系のフレーバーが主流です。

 プレーンの炭酸水にフレーバーをつけたタイプの商品が多い中、既存のレモン炭酸飲料を無糖化するケースも。キリンは主力商品である『キリンレモン』の無糖バージョン『キリンレモン スパークリング 無糖』を発売したところ、発売後わずか4週間で530万本を突破。レモン商品を長年手がけるポッカサッポロの代表ブランド『キレートレモン』シリーズからは、『キレートレモン 無糖スパークリング』が登場。レモン1個分の果汁を含む「“新”無糖果汁炭酸」として話題を集めました。
いずれも歴史あるブランドイメージと直結するレモンの品質と味に徹底的にこだわっていて、単なる「レモン風味の炭酸水」ではない、レモンそのものの特徴を活かした味わいとなっています。

 最近のトレンドとしては、複数のビタミンを含めた伊藤園の『無糖強炭酸水 Get’s VITAMIN』に代表されるように、独特の付加価値をつけるパターンも増加。日本コカ・コーラの『アイシー・スパーク from カナダドライ』は、水を冷やすと気体が溶けやすくなる(炭酸が強くなる)性質に着目した「冷却スパーク技術」によって、日本コカ・コーラ史上最強の刺激(日本コカ・コーラPET製品の充填時ガスボリュームにおいて過去最高)になったとし、炭酸の強さを全面に売り出しています。

炭酸水の飲み過ぎで、健康を損なうリスクはある?

 炭酸水といえば「飲み過ぎると骨が溶ける」「炭酸が歯のエナメル質を溶かす」などという話を聞いたことがある人もいるでしょう。実際のところ、飲み過ぎて健康を損なうということはあるのでしょうか。また、水の代わりに炭酸水を飲むことで、十分な水分補給となるのでしょうか。

 結論からいえば、炭酸水による体への影響はほとんどなく、通常の水と同じように体内に吸収されるので、基本的には水の代わりにゴクゴク飲んでOK!ただし炭酸のガスにより満腹感を感じやすくなるため、運動中などより水分を多く摂取する必要があるときは普通の水のほうがよいでしょう。
また炭酸ガスによって胃がふくらむため、胃酸が逆流する、胃潰瘍があるなど胃になんらかのトラブルを抱えている人も、控えたほうが無難です。

 骨が溶ける説については、炭酸ガスと骨密度の変化とは無関係ということが分かっており、まったくの迷信です。歯のエナメル質についても、炭酸水程度の酸性ではほとんど影響がない(有糖の清涼飲料水の100分の1以下)という研究結果が出ており、問題にならないレベルです。もちろん、同じ炭酸水でも有糖だと虫歯のリスクが高くなるので気をつけましょう。

 まさに「無糖炭酸水戦国時代」ともいえる現在。無糖炭酸水は、不況の飲料業界を救う存在となるのでしょうか。今後のラインナップに期待です。

<参考サイト>
コロナ禍で無糖炭酸水が市場拡大、リフレッシュメントと割材利用で家庭内需要高まる│食品産業新聞社
https://www.ssnp.co.jp/news/beverage/2020/06/2020-0623-1214-15.html
アサヒ飲料HP ウィルキンソンブランドサイト
https://www.asahiinryo.co.jp/wilkinson/sp/
キリンビバレッジHP キリンレモンブランドサイト
https://www.kirin.co.jp/products/softdrink/kirinlemon/

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今井むつみ
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松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授