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匿名美術家「バンクシー」とは何者なのか
バンクシー(Banksy)は、イギリスのロンドンを中心に活動する匿名美術家です。神出鬼没に発表される社会風刺や政治的メッセージが強い作品が世界的な話題となり、時の人ともいえる美術家ですが、イギリス出身の男性ということしか公にされていません。
「グラフィティ(graffiti)」とは“落書き”を意味し、グラフィティ・アートは狭義のストリート・アートに分類されます。発表の場をストリート(街路、ひいては公の場や通りに面した建造物など)としている点は同じですが、本来、ストリート・アートはリーガル(合法)であること対し、グラフィティ・アートはイリーガル(非合法)なものです。
そして、グラフィティの描き手は“グラフィティ・ライター”とも呼ばれます。グラフィティ・ライターは非合法行為者であることも、バンクシーの匿名性に関係していると考えられています。
しかしながら、バンクシーの基本として、グラフィティは欠かせません。バンクシーの有名なグラフィティを、発表(もしくは発見)年代順に5点紹介します。
1.「The Mild Mild West(マイルド・マイルド・ウェスト)」(1999年)
テディベアが3人の機動隊隊員に向けて火炎瓶を投げているグラフィティ。バンクシーの出身地といわれるイギリスのブリストルで、当時無許可のレイブパーティー(大音量で音楽をかけるイベント)が流行し、警察の弾圧を受けたことが背景にあるとされている。バンクシーとしてはめずらしいフリーハンド作品。
2.「Girl with Balloon(風船と少女)」(2002年)
赤いハート形の風船が少女の手から離れて空に飛んでいく様子を描いたグラフィティ。ロンドンのウォータールー橋を上る階段に描かれおり、技法にはバンクシーのトレードマークともいえる「ステンシル」(用意した型紙の上からスプレーを吹き付ける)が用いられている。なお、「風船と少女」はバンクシーの代表的なモチーフで人気も高く、またいくつかのバージョンが存在し、後述する「シュレッダー事件」のメインモチーフとしても登場する。
3.「Well Hung Lover(上手にぶら下がる恋人)」(2006年)
全裸の男が窓に片手でぶらさがり、窓にはスーツを着た男性が裸の男性に気づかずよそ見をし、さらには男性の隣には下着姿の女性が描かれたグラフィティ。ブリストルのクリニックの外壁に描かれている。グラフィティでありながら、市民の強い要望によって“リーガル(合法)”に残されることが決まった。
4.「Bridge Farm Primary School(ブリストルの小学校)」(2016年)
ブリストルにある小学校に描かれた、燃えるタイヤを転がす女の子のグラフィティ。校舎の名前を「バンクシー」と命名したことに感謝し、「覚えておいて、許可を得るより許しを請うほうが簡単だってことを」と書かれた直筆の手紙とともに、貴重なサイン入りの本作を御礼として贈った。
5.「傘を差して旅行鞄を持ったネズミ」(2019年)
東京・日の出駅近くの防潮扉で発見されたネズミ(ラット)のグラフィティ。公式作品集『Wall and Piece』にも掲載されているためバンクシー作である可能性は高いが、本物の確証はない。小池百合子都知事のTwitterで拡散され、現在は日の出ふ頭の2号船客待合所(シンフォニー乗り場)で展示されている。ネズミ(ラット)もバンクシーの代表的なモチーフで、いくつかのバージョンが各地に存在する。
1.「Napalm(ナパーム弾)」(2004年)
報道写真家ニック・ウト氏の「戦争の恐怖」から、ベトナム戦争下のナパーム弾から全裸で逃げる少女の写真をモチーフとして抜き出し、左右にアメリカ文化と資本主義のアイコンとしてディズニーのミッキーマウスとマクドナルドのドナルドを配したシルクスクリーン作品。
2.「Flower Thrower(花束を投げる男)」(2015年)
パレスチナのベツレヘムに描かれたグラフィティ。インティファーダ(イスラエルの占領に対するパレスチナ人の民衆蜂起)をモチーフとし、覆面をした男が火炎瓶の代わりに花束を投げ入れようとしている。パレスチナにはだまし絵シリーズや「仔猫」「身体検査」「爆弾の傷跡」「狙われた鳩」など、多くのバンクシー作品が存在する。
3.「Dismaland(ディズマランド)」(2015年)
「悪夢のテーマパーク」をコンセプトに、期間限定でイギリスのウェストン=スーパー=メアにオープンした“反”テーマパーク。転倒したシンデレラのかぼちゃの馬車に群がるパパラッチを模したバンクシー作品、難民船のアトラクション、食肉偽装の風刺としてのメリーゴーランド、真っ黒な油で汚れたセルロイドのアヒルを釣るゲームなどが楽しめた。
4.「The Walled Off Hotel(世界一眺めの悪いホテル)」(2017年)
直訳すると「壁で遮断されたホテル」。ニューヨークの高級ホテルWaldorfをもじって名付けられた。 ベツレヘムのヨルダン川西岸地区にイスラエルが作った“現代のベルリンの壁”などと揶揄される分離壁の真正面にあり、エントランスや内装などにバンクシー作品と思われるアートワークが多数展示されている。
5.「シュレッダー事件」(2018年)
最も権威あるオークションハウス・サザビーズのオークションにかけられた額装の「Girl with Balloon(風船と少女)」が104万ポンド(約1.5億円)で落札された直後、額縁の下部に内蔵されていた自動シュレッダー装置が作動し下半分が裁断された。さらに一連の様子がバンクシーによって撮影のうえインターネットに投稿され、瞬時に世界中に広まった。作品名はその後、「Love Is in the Bin(愛はごみ箱の中に)」と変更され、落札者に購入された。
例えば、2020年には、新型コロナウイルスと戦う医療従事者を讃える「Game Changer(ゲーム・チェンジャー)」がイギリスのサウサンプトン総合病院に寄贈されています。描かれた少年は現在(今この瞬間)のスーパーヒーローとして黒人の看護師人形を左手で掲げ、その傍らのゴミ箱に旧時代のスーパーヒーローの象徴としてのバットマン人形とスパイダーマン人形を捨てており、世界中から多数の共感や関心を集めました。
バンクシーの特徴や作品をざっと見ただけでも、もはや表現する場所もストリートや地元だけではなく、カウンターカルチャー(扇動的でゲリラ的なアート)もハイカルチャー(権威的なアート市場)も関係なく、ストリートも国境も越え、アート市場やSNSなど既存の社会やシステムを効果的に活用しながらオフラインの活動とオンラインでの発信を融合し、リーガルもイリーガルも混在させ、過激でありながらもユーモアを感じさせる手法でシステムや枠組み自体にも爪痕を残す、境界を超越する時代の表現者としての活躍がうかがえてきました。
しかしながら、バンクシーの最大の魅力は匿名性にあるともいえます。つまり、現時点の作品もメッセージ性も影響力も、すべて偽物だったと作品化できるほどの大いなる可能性すら秘めています。匿名美術家「バンクシー」とは何者なのか。最初の問いに立ち返りつつ、変わり続ける現在的な視点で注目し続けることで、あなたにとってのバンクシーの真の姿が見えてくるのではないでしょうか。
イリーガル(非合法)グラフィティ・ライター
バンクシーは、出身地とされるイギリスのブリストルで美術家としてのキャリアをスタートし、発表した“グラフィティ・アート”で、アート市場やサブカルチャーの注目を集めるようになっていきます。「グラフィティ(graffiti)」とは“落書き”を意味し、グラフィティ・アートは狭義のストリート・アートに分類されます。発表の場をストリート(街路、ひいては公の場や通りに面した建造物など)としている点は同じですが、本来、ストリート・アートはリーガル(合法)であること対し、グラフィティ・アートはイリーガル(非合法)なものです。
そして、グラフィティの描き手は“グラフィティ・ライター”とも呼ばれます。グラフィティ・ライターは非合法行為者であることも、バンクシーの匿名性に関係していると考えられています。
しかしながら、バンクシーの基本として、グラフィティは欠かせません。バンクシーの有名なグラフィティを、発表(もしくは発見)年代順に5点紹介します。
1.「The Mild Mild West(マイルド・マイルド・ウェスト)」(1999年)
テディベアが3人の機動隊隊員に向けて火炎瓶を投げているグラフィティ。バンクシーの出身地といわれるイギリスのブリストルで、当時無許可のレイブパーティー(大音量で音楽をかけるイベント)が流行し、警察の弾圧を受けたことが背景にあるとされている。バンクシーとしてはめずらしいフリーハンド作品。
2.「Girl with Balloon(風船と少女)」(2002年)
赤いハート形の風船が少女の手から離れて空に飛んでいく様子を描いたグラフィティ。ロンドンのウォータールー橋を上る階段に描かれおり、技法にはバンクシーのトレードマークともいえる「ステンシル」(用意した型紙の上からスプレーを吹き付ける)が用いられている。なお、「風船と少女」はバンクシーの代表的なモチーフで人気も高く、またいくつかのバージョンが存在し、後述する「シュレッダー事件」のメインモチーフとしても登場する。
3.「Well Hung Lover(上手にぶら下がる恋人)」(2006年)
全裸の男が窓に片手でぶらさがり、窓にはスーツを着た男性が裸の男性に気づかずよそ見をし、さらには男性の隣には下着姿の女性が描かれたグラフィティ。ブリストルのクリニックの外壁に描かれている。グラフィティでありながら、市民の強い要望によって“リーガル(合法)”に残されることが決まった。
4.「Bridge Farm Primary School(ブリストルの小学校)」(2016年)
ブリストルにある小学校に描かれた、燃えるタイヤを転がす女の子のグラフィティ。校舎の名前を「バンクシー」と命名したことに感謝し、「覚えておいて、許可を得るより許しを請うほうが簡単だってことを」と書かれた直筆の手紙とともに、貴重なサイン入りの本作を御礼として贈った。
5.「傘を差して旅行鞄を持ったネズミ」(2019年)
東京・日の出駅近くの防潮扉で発見されたネズミ(ラット)のグラフィティ。公式作品集『Wall and Piece』にも掲載されているためバンクシー作である可能性は高いが、本物の確証はない。小池百合子都知事のTwitterで拡散され、現在は日の出ふ頭の2号船客待合所(シンフォニー乗り場)で展示されている。ネズミ(ラット)もバンクシーの代表的なモチーフで、いくつかのバージョンが各地に存在する。
アート・テロリストとしての活躍
他方、バンクシーにはグラフィティ以外でも特筆すべき点があります。冒頭でも述べたように、時代を象徴するような社会風刺や政治的メッセージの強い作品を数多く発表し、“アート・テロリスト”とも称されています。アート・テロリストとしてのバンクシーの代表作を、発表年代順に5点紹介します。1.「Napalm(ナパーム弾)」(2004年)
報道写真家ニック・ウト氏の「戦争の恐怖」から、ベトナム戦争下のナパーム弾から全裸で逃げる少女の写真をモチーフとして抜き出し、左右にアメリカ文化と資本主義のアイコンとしてディズニーのミッキーマウスとマクドナルドのドナルドを配したシルクスクリーン作品。
2.「Flower Thrower(花束を投げる男)」(2015年)
パレスチナのベツレヘムに描かれたグラフィティ。インティファーダ(イスラエルの占領に対するパレスチナ人の民衆蜂起)をモチーフとし、覆面をした男が火炎瓶の代わりに花束を投げ入れようとしている。パレスチナにはだまし絵シリーズや「仔猫」「身体検査」「爆弾の傷跡」「狙われた鳩」など、多くのバンクシー作品が存在する。
3.「Dismaland(ディズマランド)」(2015年)
「悪夢のテーマパーク」をコンセプトに、期間限定でイギリスのウェストン=スーパー=メアにオープンした“反”テーマパーク。転倒したシンデレラのかぼちゃの馬車に群がるパパラッチを模したバンクシー作品、難民船のアトラクション、食肉偽装の風刺としてのメリーゴーランド、真っ黒な油で汚れたセルロイドのアヒルを釣るゲームなどが楽しめた。
4.「The Walled Off Hotel(世界一眺めの悪いホテル)」(2017年)
直訳すると「壁で遮断されたホテル」。ニューヨークの高級ホテルWaldorfをもじって名付けられた。 ベツレヘムのヨルダン川西岸地区にイスラエルが作った“現代のベルリンの壁”などと揶揄される分離壁の真正面にあり、エントランスや内装などにバンクシー作品と思われるアートワークが多数展示されている。
5.「シュレッダー事件」(2018年)
最も権威あるオークションハウス・サザビーズのオークションにかけられた額装の「Girl with Balloon(風船と少女)」が104万ポンド(約1.5億円)で落札された直後、額縁の下部に内蔵されていた自動シュレッダー装置が作動し下半分が裁断された。さらに一連の様子がバンクシーによって撮影のうえインターネットに投稿され、瞬時に世界中に広まった。作品名はその後、「Love Is in the Bin(愛はごみ箱の中に)」と変更され、落札者に購入された。
境界を超越する時代の表現者
グラフィティ・ライターから始まり、アート・テロリストと呼ばれ、今やバンクシーの影響力は一美術家の活動としての評価に留まりません。時代の寵児として注目され、芸術によってグローバル社会への警鐘を鳴らす、オピニオン・リーダー的な役割を担っている(担わされている)ようにすら感じます。例えば、2020年には、新型コロナウイルスと戦う医療従事者を讃える「Game Changer(ゲーム・チェンジャー)」がイギリスのサウサンプトン総合病院に寄贈されています。描かれた少年は現在(今この瞬間)のスーパーヒーローとして黒人の看護師人形を左手で掲げ、その傍らのゴミ箱に旧時代のスーパーヒーローの象徴としてのバットマン人形とスパイダーマン人形を捨てており、世界中から多数の共感や関心を集めました。
バンクシーの特徴や作品をざっと見ただけでも、もはや表現する場所もストリートや地元だけではなく、カウンターカルチャー(扇動的でゲリラ的なアート)もハイカルチャー(権威的なアート市場)も関係なく、ストリートも国境も越え、アート市場やSNSなど既存の社会やシステムを効果的に活用しながらオフラインの活動とオンラインでの発信を融合し、リーガルもイリーガルも混在させ、過激でありながらもユーモアを感じさせる手法でシステムや枠組み自体にも爪痕を残す、境界を超越する時代の表現者としての活躍がうかがえてきました。
しかしながら、バンクシーの最大の魅力は匿名性にあるともいえます。つまり、現時点の作品もメッセージ性も影響力も、すべて偽物だったと作品化できるほどの大いなる可能性すら秘めています。匿名美術家「バンクシー」とは何者なのか。最初の問いに立ち返りつつ、変わり続ける現在的な視点で注目し続けることで、あなたにとってのバンクシーの真の姿が見えてくるのではないでしょうか。
<参考文献・参考サイト>
・『バンクシー』(毛利嘉孝著、光文社新書)
・『バンクシーを読む』(TJ MOOK、宝島社)
・「今だから知りたい! 「超」入門バンクシー」『一個人』(2020夏号、毛利嘉孝・鈴木沓子著、ベストセラーズ)
バンクシーとは?正体は何者?作品や経歴、シュレッダー事件の真相を解説│男の隠れ家デジタル
https://otokonokakurega.com/learn/secret-base/27650/
・『バンクシー』(毛利嘉孝著、光文社新書)
・『バンクシーを読む』(TJ MOOK、宝島社)
・「今だから知りたい! 「超」入門バンクシー」『一個人』(2020夏号、毛利嘉孝・鈴木沓子著、ベストセラーズ)
バンクシーとは?正体は何者?作品や経歴、シュレッダー事件の真相を解説│男の隠れ家デジタル
https://otokonokakurega.com/learn/secret-base/27650/
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