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DATE/ 2022.08.02

『子どもの問題行動へのエビデンスある対応術』を学ぶ

「思い通りにならないと、かんしゃくを起こす」「隣の子にちょっかいを出してケンカになる」など、教室での子どもの問題行動が指摘されると、親は戸惑ってしまいます。ましてや教師から与えられるアドバイスが「愛情不足では」「そっと見守りましょう」「ときには毅然とした態度で接しましょう」といった漠然としたものだと、逆にどうしていいのかと不安がつのり、育児の正解をめぐって家庭内トラブルにも発展しがちです。

 そんなとき、一つひとつの行動を「いい・悪い」と決めつけるのではなく、具体的で実行しやすいアドバイスはないのか、という悩みにこたえてくれる貴重な書籍が『子どもの問題行動へのエビデンスある対応術 ケースで学ぶ応用行動分析学』(長澤正樹著、明治図書出版)です。

身近な親だからこそプロの対応術を学びたい

 本書は、いま教育現場で注目されている応用行動分析学(ABA)の技法を、さまざまな事例に当てはめていく実践的な一冊。「目に見える行動をよりどころとし(分析)」「どうしたらよくなるか目標を定め(検討)」「みんなで子どもにかかわっていく(対応)」の3ステップを軸としているため、子どもに寄り添いつつ、その変化が実感できます。

 著者の長澤正樹氏は、新潟大学大学院教育実践学研究科の教授。養護学校(現特別支援学校)の教育を16年務めた後、新潟大学の教員として教員養成の仕事にかかわってきました。専門は特別支援教育で、本書も書店や図書館の棚では「教育」関係のなかでも「特別支援教育」に分類されます。そのため、これまでは一般読者の目に触れにくい存在でしたが、ネット通販で本を買う時代となり、このような専門書が入手しやすくなりました。

 数多くのケースと接してこられた長澤氏の肉声が響くようなこの一冊は、図版も多く、教育者を目指す人々はもちろん、子どもの行動に悩む親にも大いに役立つことでしょう。「自分の子だから」というバイアスを取り除くためにも、さまざまなケースが参考になります。親子関係は、いったんもつれると厄介なものですが、プロの手法を取り入れていくことが解決の一助となるのではないでしょうか。

問題行動とはだれにとってのどんなものか

 そもそも「問題行動」とは、どのようなものを指すのでしょうか。学校の先生、保護者、警察など、立場が異なればとらえ方はさまざまです。はっきりといえるのは「ある状況で大多数の人はしない行為であって、当事者にかかわる人や周囲の人が迷惑もしくは不安になる行為」だと長澤氏は定義しています。さらに、そのことが本人のためになっていないことも重要なポイントです。

 問題行動は「問題だ」という視点だけで対処されがちですが、子どもにとって「間違った自己主張」「未熟な自己表現」であるという視点も欠かせません。その上で、「本当に問題なのか」「年齢、習慣、環境からみて問題なのか」「誰にとって問題なのか」「障害特性ではないのか」「本人以外に明確な理由や原因はないのか」の5箇条を確かめることが必要だといいます。

 たとえば「忘れ物が多い」のは本人にとって困ることのはずですが、忘れても誰かから借りて対応しており、本人にその自覚がない場合、話し合わねばなりません。「障害特性」には、注意欠如多動症(ADHD)の子の不注意、自閉スペクトラム症(ASD)の子の状況を考えない発言などが相当します。「本人以外の理由や原因」とは、虐待やいじめなどが潜んでいることを示しています。

 この5箇条はどちらかというと教育現場向けですが、問題と決めつけることが子どもにとって不幸せな結果につながる可能性については、親も教師も忘れたくないものです。

応用行動分析学(ABA)とはどんなものか

 本書のタイトルで「応用行動分析学(ABA)」という言葉に初めて出会った方も少なくないでしょう。1970年代以降に大きく発展してきた心理学の一体系で、主に発達障害や挑戦的行動に対して活用されているほか、AppleのMacintoshにおけるユーザーインタフェース開発にも利用されているそうです。

 その特徴は、「観察できる事象のみを採用する」「行動とその前後の様子を観察し、その意味を解釈する」「周囲からの働きかけで、子ども(ユーザー)の行動を変える」「周囲からの働きかけで、子ども(ユーザー)に新たな行動を獲得させる」と、よけいな感情や性急に正解を求める姿勢を排しています。

 さらに、以下の4つの基本ルールに沿って、問題行動についての考えを一歩ずつ進めていきます。

(1)問題行動の前とあとのできごとを記述する
(2)行動に対する働きかけの役割(機能)を理解する
(3)行動の学習パターンを見極める
(4)行動の役割(機能)に注目する

 たとえば、散歩先で自動販売機があると大泣きする5歳のY君。(1)の問題行動は「大泣き」、前は「散歩」、後は「ジュースを買ってもらう」ということになります。

 この行動は、どんな役割(機能)を果たしたのか。その後、Y君は自販機を見ると泣くようになります。学習パターンとしては、「好きなジュースが買ってもらえる」であり、役割(機能)としては「ほしいものを得ることができた」というように見ていくわけです。

解決のために、いまできることをする

 さて、Y君の問題は、どのようにして解決することができたのでしょうか。ありがちなのは、「泣いたからジュースを買うような母親の甘やかしが悪い」という責め方や、「時期が来れば直るから、様子を見よう」という根拠のない楽観です。問題行動のとらえ方や見方は多種多様ですが、大切なのはそれが子どもの健全な発達につながるかどうかということ。いま問題だと悩んでいるのなら、ただ見ているのではなく、できることをやってみるべきだということです。

 応用行動分析学では、Y君の問題を分析し、その気持ちを考えるところからスタートします。問題行動の機能としては、「注目:自分を見てもらいたい」「要求:何かをしてほしい」「逃避:しなければならないことをしたくない」「自己刺激:何もすることがなく退屈」などがあるといわれます。このなかでY君の場合は「要求」ととらえて、その後、指導計画を作っていくのですが、問題行動と「望ましい行動」の間に「ギリギリ許せる行動」を設定するのが成功の秘訣です。そこで、Y君の場合、「ベソをかく、(けれども)通り過ぎる」というワンクッションを決めます。さらに本人との間で「ジュースとおやつは家で」と約束をし、約束カードを持って散歩する、自販機のない散歩コースを選ぶなどの方法を取っていきます。

 約束が守れたら褒める、あるいはご褒美をあげる。そのご褒美はモノではなく、「トークンシステム」といって、何ポイントかを貯めることで効力を発することが望ましいといいます。

 子どもの問題行動にだけ目を向けるより、「いい行動」ができたときに、なぜそれができたのかを分析することも重要です。ぜひ本書を読んで、日常の育児に取り入れてみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
『子どもの問題行動へのエビデンスある対応術 ケースで学ぶ応用行動分析学』(長澤正樹著、明治図書出版)
https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-176241-4

<参考サイト>
新潟大学大学院 教育実践学研究科 長澤研究室
http://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/

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