社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
増える「息子介護」の実態
「息子介護」が増えている
「息子介護」という言葉をご存じだろうか。平山亮氏の『迫りくる「息子介護」の時代』(光文社新書)という本に詳しく紹介されている新しい言葉だ。家族のなかで息子がいちばん介護に「手を出している」場合を指す。息子介護は、ここ数十年間、着実に増えてきた。データによれば、1977年から2010年までの30年強の間に、主介護者が息子の割合は6倍弱にまで増えたが、1977年から2004年までのデータを見ると、娘が主に介護する割合はそれほど変わらず、嫁の割合は4割ほど減っているそうだ。
もしあなたが(特に40代以降の)男性で、父親・母親が存命なら、息子介護は他人ゴトではない。息子介護を行なければならない状況がいつ訪れても不思議ではないと思ったほうがよいだろう。ここでは、息子介護の現状について、分かっていることをいくつか説明していきたい。
原因は、兄弟姉妹の減少と晩婚化・非婚化
息子介護がなぜ増えているか。いくつかの理由が挙げられるが、主に「子どもの数の減少」と「晩婚化・非婚化」が挙げられる。子どもの数が少なくなれば、そもそも娘が一人もいないという家も増えてくるという理由だ。特に男性の一人っ子の場合、息子介護の可能性は当然高くなる。晩婚化・非婚化によって、嫁を迎えないあいだに親が要介護状態になる息子が激増していることも大きい。なかでも、パラサイトシングル(親元で、親に頼って生活する非婚者)の息子は、やはり息子介護の可能性が高くなる。
息子介護をステレオタイプで語るのは危険
しかし、息子介護といっても一様ではない。冒頭で紹介した書籍『迫りくる「息子介護」の時代』には、息子介護を行っている28名へのインタビューがまとめられているが、妻がいるか、妻の協力がどの程度あるか、仕事を辞めたか辞めていないか、介護者の近くに住んでいるかなど、さまざまな状況によって、抱える問題も大きく異なるという。そのため、息子介護をステレオタイプで語るのは危険だ。むしろ、息子介護にはいろいろなカタチがあると考えたほうがよい。
例えば、これまで息子介護者は、虐待を行う「問題介護者」という先入観を持たれてしまうことが少なく無かった。しかし、当たり前のことだが、息子介護だからといって、必ずしも問題があるわけではない。息子介護の現実を見つめるためには、先入観を取っ払って考えていくことが重要だ。
息子介護は、ある日突然やって来る!
ただし1点、平山氏によると。多くの息子介護者に共通しているのは、「用意周到な息子はまれである」ということだ。誰しもが状況に追い込まれたときに戸惑いを感じることになる。「まさか自分がこんなこと(=親の介護)をすることになるなんて、正直、思ってもいなかった」という言葉を聞くことは、決して少なくないという。息子介護は、ある日突然やって来る。だからこそ、もし可能性があるのなら、息子介護についていまから学び、少しずつ準備を進めておいて損はないだろう。
一つだけアドバイスを書いておくと、息子介護という状況に陥ったとき、できれば仕事は辞めないほうがよい。実は職場には、いろいろと相談に乗ってもらえる先輩の介護経験者が意外と多い。そして何よりも、仕事は介護ストレスを発散できる格好の場なのである。仕事が介護者を「物心ともに」支えているケースが多いという。
来るべき息子介護の時代に向けて準備を怠ることなく、勇気をもって臨んでいただきたい。
<参考文献>
・『迫りくる「息子介護」の時代』(平山亮著 光文社新書)
・『男性介護者白書 家族介護者支援への提言』(津止正敏・斎藤真緒著 かもがわ出版)
・『迫りくる「息子介護」の時代』(平山亮著 光文社新書)
・『男性介護者白書 家族介護者支援への提言』(津止正敏・斎藤真緒著 かもがわ出版)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
「人的資本経営」という言葉が、よく聞かれるようになりました。端的にいえば、「人材=コスト」ではなく「人材=資本」として捉え、人を大切にしていこうという考え方です。
「人を大切にする」というのは別に新しい...
「人を大切にする」というのは別に新しい...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/11/06
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー・ミュージックエンタテインメント(ジャパン)は、アメリカのコロムビアレコードと1968年に創業した、日本初の外資とのジョイントベンチャーである。ソニーはもともとエレクトロニクスの会社だったが、今のソニーグルー...
収録日:2025/05/08
追加日:2025/10/20


