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DATE/ 2023.03.21

なぜ世界には「3色」の国旗が多いのか

 国旗とは、国家の象徴として制定された旗を指します。国旗にはさまざまな型(パターン)や色が使われていますが、最も多く制定されている型は三分割のパターンです。

 そして、三分割された箇所を「3色」に染めわけた旗を、「三色旗(さんしょくき)」といいます。

 ではなぜ、世界には「3色」の国旗が多いのでしょうか?

世界初の「3色」の国旗制定国・オランダ

 世界初の「3色」の国旗制定国はオランダといわれ、由来は16世紀後半まで遡るとされています。

 当時のオランダは無敵艦隊を擁するスペインに占領され、宗教的にも弾圧を受けていました。しかし、「オランダ建国の父」と称されるオラニエ公ウィレム1世を中心とした独立運動が起こります。その時シンボルとなった旗が、オラニエ家の紋章にちなんだ、上からオレンジ・白・青の横三分割の「3色」の旗でした。

 独立戦争はオランダ側が勝利し、1581年に独立を宣言するにいたります。その際に、シンボルとなった「3色」の旗は国旗として制定され、世界初となる「3色」の国旗が誕生しました。その後、オランダは貿易と商工業が盛んな豊かな国となり、さらに17世紀後半には当時の最先進海上帝国へと発展しました。

 ただし、1630年代になると、オラニエ(オレンジ)から採られたオレンジ色は、海上での識別のしにくさや褪色しやすいなどの理由から赤に変更となったといわれています。そのため、現在へと続くオランダの国旗は、赤・白・青の「3色」の国旗となりました。

「3色」の国旗を手本とした国・ロシア

 オランダが最先進海上帝国へと発展していた17世紀末、偽名を用い変装したロシアのピョートル1世は、ロシアの近代化を図ろうと西ヨーロッパ諸国を訪問していました。

 1697年、海運技術の近代化推進や造船技術習得のため、オランダにも滞在します。その際、「3色」の国旗を掲げた国民が懸命に働き活躍している様子に感動したといわれています。

 そして、帰国後にオランダの「3色」の国旗を手本に、現在のロシアでも制定されている、上から白・青・赤の横三分割の「3色」の国旗を作り、1705年に制定しました。

 さらに1848年、チェコのプラハで開かれたスラブ会議(※)にて、白・青・赤がスラブ諸国の色に選ばれます。そこから、オランダ生まれ、ロシア経由の横三分割の白・青・赤の「3色」の国旗が、特に西ヨーロッパのスラブ諸国に広まりました(※スラブ:インド‐ヨーロッパ語族の中の、スラブ語を使う民族の総称。ヨーロッパ諸民族中最大の民族集団)。

世界に「3色」の国旗を広めた国・フランス

 以上のように「3色」の国旗が誕生し、西ヨーロッパ諸国に広まった背景をみてきました。しかしながら、「トリコロール」の愛称で親しまれ、おそらく世界一有名な「3色」の国旗は、左から青・白・赤の縦三分割の「3色」のフランス国旗です。

 「3色」の国旗を世界中に広めた立役者は、やはりフランスの「3色」の国旗といわれています。そして、フランスで「3色」の国旗が制定された背景には、世界的な大事件であるフランス革命が挙げられます。

 1789年、バスティーユ襲撃をきっかけに、自由・平等・博愛をスローガンとしたフランス革命が勃発します。その際、後に国民軍総司令官となるラ・ファイエットが市民に与えた赤・白・青の帽章が、「3色」のフランス国旗の由来といわれています。

 1790年にフランスの国旗として制定された際は、左から赤・白・青の縦三分割の「3色」でしたが、1792年に現在へと続く左から青・白・赤の縦三分割の「3色」の国旗に変更されました。

 以後、フランスの「3色」の国旗は、独立や革命のシンボルとして多くの国の国旗に影響を与え、ヨーロッパ諸国に留まらず、世界中の国々で「3色」の国旗が制定されるようになりました。

 2023年3月現在、例えば国連加盟国でも196カ国と世界にはたくさんの国が存在していますが、50カ国以上が「3色」の国旗を制定しています。

<参考文献・参考サイト>
・『世界の国旗ビジュアル大事典』(吹浦忠正著、学研)
・『世界の国旗・国章歴史大図鑑』(苅安望、山川出版社)
・『世界一おもしろい国旗の本』ロバート・G.フレッソン絵と文、小林玲子訳、河出書房新社)
・国旗のパターンと三色旗の歴史
https://www.world-national-flags.com/study/three-color.html
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