社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.06.13

人口たった5人?自称国家「ワイ公国」とは

「国家」は誰でもつくれるの?

 世界の国家の数は日々変化していますが、2023年3月20日現在の外務省のデータによると、日本を含めて196か国となっています。これは日本が正式に承認している国家の数であり、最も近年では2015年にオセアニアの島国・ニウエが承認されています。国家が国家として存在するには、このように他国から認められる必要があり、その条件は基本的に「領土」、「国民」、「主権」の三要素を満たしていることとされています。「領土」はその国が領有している土地、「国民」はその国に住んでいる人、そして「主権」はその国の運営を他国に干渉されず、独自に決定する権利を指します。

 それではこの三要素さえあれば、どんな国家でも国家と見なされるのでしょうか。残念ながら、実際にはなかなかそうはいきません。たとえ国家の体裁が整っていても、政治的な理由や外交的な問題があればやはり承認は難しいですよね。しかし実は、「国家をつくること」自体は誰にでも可能。独立宣言さえすれば建国できるのです。このような、国家として承認されていないけれど独立を主張している国家のことを「自称国家」、「ミクロネーション」といいます。自称国家は正式な国家ではないので、地図には記載されません。このため正確な数はわかっていませんが、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど世界中に存在しています。

 自称国家には、領土が「国王」の寝室からスタートしたタロッサ王国や、海上要塞として使われていた人工島に「建国」されたシーランド公国など、小規模でユニークなものがたくさんあります。今回はその中でも「国民」が5人しかいないという、群を抜いて小さな「ワイ公国」をご紹介します。

小さな自称国家「ワイ公国」はどんな国?

 ワイ公国は2004年に建国された自称国家で、オーストラリア南東部の都市・シドニーのモスマン市にあります。国家元首はポール・デルプラット1世。ポール公、ワイ・デルプラット公とも呼ばれます。「ワイ」とはオーストラリアの先住民族・アボリジニの言葉で「私が」という意味なので、ワイ公国とは「私が公国」と名乗っている国名なのですね。気になる5人の国民は、ポール公とポール公の公妃である妻、そしてポール公夫妻の娘2人と息子1人。つまり、ポール公の家族のみとなっています。さらに領土はポール公の自宅の敷地とされており、面積は約700平方メートル。プロ野球の内野にあたるダイヤモンドが約750平方メートルなので、その中におさまってしまうくらいの広さですね。

 このように小さな自称国家であるワイ公国ですが、建国の背景にはポール公にとって重大な事情がありました。時はさかのぼり、1993年のこと。モスマン市の都市開発計画によって、すべての住宅の周辺に舗装道路が敷かれることになりました。そこでポール公(当時は一般人のポール・デルプラット氏)も舗装の希望を申請したのですが、行政側の手違いでこの申請が却下されてしまったのです。そこでポール公は「自分のものである道路が自由にできないのはおかしい」と激怒し、ワイ公国として独立を宣言しました。オーストラリアはこの独立宣言を認めていませんが、なんとモスマン市長からは認められています。ただし、2013年の裁判で「公共利用に支障が出る」というモスマン市側の主張が認められたため、道路舗装は実現していません。

 ポール公の戦いはまだ続きそうですが、国家を運営するとなると必要なのがお金ですよね。ワイ公国ではどのように資金調達しているのかというと、実はポール公の職業が芸術家で、自身が経営している美術学校の収入を資金源にしているのだとか。ポール公は国旗や国歌「Wy is an Answer」も自作しており、まさに芸術家の本領発揮というところでしょうか。「Wy is an Answer」=「私が答えだ」と高らかに宣言するポール公。その意思の強さは見習いたいですね。

<参考サイト>
・テンミニッツTV 「自称」国家、ミクロネーションとは
https://10mtv.jp/pc/column/article.php?column_article_id=3060
・ダヴィンチweb 人口はたった5人! ワイ公国という不思議な国家があるって本当?/毎日雑学
https://ddnavi.com/serial/617891/a/
・外務省 世界と日本のデータを見る
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/world.html
・加地都市鑑定所 土地の面積の目安
http://kajitosi.main.jp/column/col28.html
・Daily Telegraph  Prince of Wy Paul Delprat loses driveway court battle
https://www.dailytelegraph.com.au/newslocal/north-shore/prince-of-wy-paul-delprat-loses-driveway-court-battle/news-story/45ed4e062cdeb539d51600d10529eec7
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,700本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由

カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由

平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』

平和のための「国家連合」。このアイデアの源はサン=ピエールなのだが、現在ではカントの著作『永遠平和のために』が起源だともてはやされることが多い。その理由としては、「なぜ国家連合が必要なのか」「そもそもなぜ平和が...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/22
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
2

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方

2025年8月、米露、米ウクライナ、EUの首脳会談が相次いで実現した。その成果だが、中でもロシアにとって大成功と呼べるものになった。ディール至上主義のトランプ政権を手玉に取ったロシアが狙う「ベルト要塞」とは何か。事実上...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/12/21
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる

「逆境とは何に逆らうことなのか」「人はそもそも逆境でしか思考しないのではないか」――哲学者鼎談のテーマは「逆境に対峙する哲学」だったが、冒頭からまさに根源的な問いが続いていく。ヨーロッパ近世、ヨーロッパ現代、日本...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/19
4

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
5

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地

日進月歩の進化を遂げている生成AIは、私たちの生活や仕事の欠かせないパートナーになりつつある。企業における生成AI技術の利用に焦点をあてる今シリーズ。まずは世界的な生成AIの導入事情から、日本の現在地を確認しよう。(...
収録日:2024/11/05
追加日:2024/12/24
渡辺宣彦
コグニザントジャパン株式会社代表取締役社長CEO