社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.12.14

JR会長が語った!「新幹線のココが凄い」

 50年前の今日、1964年10月1日、東海道新幹線が開通した。戦後復興のただ中で日本の高度経済成長を支えた高速鉄道は、当時「夢の超特急」と呼ばれた。

 高速鉄道ならフランス・ドイツなどヨーロッパにもある。フランスのTGVしかり、ドイツのICEしかり。だが実は、それら欧州の高速鉄道と新幹線では、しくみそのものが根本的にちがうのだという。そうなのか。知らなかった。

 いったい東海道新幹線は、何が、どう、スゴいのか。JR東海の葛西敬之名誉会長は、こう語る。

 まず、線路が専用線であること。
 在来線には、さまざまな速度、重さ、長さ、停車パターンの列車が入り混じって走ります。そこに高速鉄道が加わるのは、効率が悪く、危険もあります。

 そこで我々は、独立した高速旅客列車専用線をつくりました。そこは平面交差がなく(線路や道路と交わらず)、物理的にも法律的にも厳重に守られた空間で、他のものは一切入ってくることができません。そのなかできわめて高性能な制御装置を駆使し、世界で初めて、「衝突回避」の原則確立に成功したのです。

 のべ56億人を乗せた半世紀の歴史の中で、列車事故による旅客の死傷ゼロ。完全な安全記録を維持してきました。

 次に、徹底した効率化です。現在、東海道新幹線では、ベースとなる車両は700系、N700系の2種類のみ。全ての列車が16両編成です。そして、その全ての車両の長さ、ドアの位置、座席数が決まっていて、いかなる編成も皆その形になっています。このきわめて高い互換性、汎用性が、抜群の高効率化をもたらしています。

 しかしヨーロッパでは、これができません。なぜか。19世紀に飛躍的に発展したヨーロッパでは、当時たくさんの鉄道網が敷かれ、今もそれが使われているからです。もちろん、新設区間は高速列車専用にします。しかし、列車は、19世紀につくられた在来線にもそのまま乗り入れます。そんな環境で「衝突回避」はむずかしい。安全性を高めるため、むしろ衝突しても列車の乗客は大丈夫なようにと、さまざまな対策がなされ、大きく、重く、頑丈な列車ができてきました。ヨーロッパの都市のなりたちからすれば、それは自然で妥当な選択です。しかし、日本の東海道新幹線のような安全性、高効率性、省エネ性(車輛が軽いのでエネルギーが少なくてすむ)は望めません。

 ひとくちに「高速鉄道」といっても、そんなにも別物だということに驚いた。葛西会長は言う。

「東海道新幹線開業50周年を機に、われわれが今やろうとしていることは、東海道新幹線の持っているその特性を、一つの国際的な高速鉄道技術の標準にして世界に発信するということです」

 たしかに、アジアをはじめ、古い鉄道網をもっていない国は多い。いや、持っている国こそ少ないだろう。そこに日本の高効率システムを導入すればいいという発想だ。うむ、なるほど。

 東海道新幹線、半世紀。「夢の超特急」は、いま、新たな「夢」をのせて、今度は世界にはばたこうとしている。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題

半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24
2

チャーリー・カーク暗殺事件とは?その真相と政権への影響

チャーリー・カーク暗殺事件とは?その真相と政権への影響

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(2)戦争省とチャーリー・カーク暗殺事件

トランプ政権は、国防総省を戦争省に名称変更した。そのことは、国益を最優先として、指揮系統を軍隊的にすることを意味している。そして、その変更直後に起きたチャーリー・カーク暗殺事件。これも今後の政権の動向に大きな影...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/05
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法

なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法

エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性

人的資本経営で非常に大事なのが人事評価制度である。しかし、正解はなく、会社や環境に応じて、形を変える必要がある。ポイントは、短期評価と長期的人材育成を踏まえた二本立ての評価制度設計をすること。たとえばクリエイテ...
収録日:2025/05/08
追加日:2025/11/04
水野道訓
元ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役CEO
5

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授