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DATE/ 2015.10.04

親しくなれる人数の限界が「150人」な理由とは?

 「ダンバー数」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ヒトが社会のなかで互いを理解し合い、複雑な関係を維持できる集団の大きさの限界を示す数字で、150人である。

複雑な関係を維持できるのは、150人

 一見、この数字には根拠がなさそうに思える。フェイスブックには、1000人以上の友達がいる人が別に珍しくない。社員10000人を超える会社がいくつもあり、都市には何百万人、何千万人が共に生きている。150という数字はどこにも見当たらないようだ。

 しかし、いまだに狩猟採集民として暮らす約20の部族社会では、氏族や村といった集団の平均人数は153人であることが分かった。アメリカで厳しい宗教戒律に基づいた独自の共同体を形成する「アーミッシュ」は、構成員の平均が110人で、人数が150人を超えると共同体を二つに分けてしまう。

 ビジネス組織論では、1950年代から、組織の規模が150~200人を越えるとさぼりや病欠がぐっと増えることが知られてきた。うまく機能しているヒトの集団は、どこでも150人程度なのである。

脳の新皮質のサイズが、ダンバー数を決定

 一体なぜ、ダンバー数は150人なのか。実は、脳の大きさに秘密がある。動物の集団サイズと、脳の「新皮質」と言われる部分のサイズに、強い相関関係があるのだ。つまり、脳が大きいサルほど、集団が大きくなるのである。当然、ヒトの集団サイズが最も大きい。それが150人なのである。

 このことから予想できるのは、実は、複雑な社会こそ脳の発達を促した原因ではないかということだ。ヒトの脳がこれほど発達したのは、大きく複雑な集団を作るためだったとも考えられる。

敵から身を守るために、大集団を作る

 では、なぜ霊長類は大きな集団を作ってきたのか。最大の理由は、敵から身を守るためである。

 ヒヒ、アカク、チンパンジーなど、地上で生活する時間が長く、敵に出会うリスクが大きいサルほど、集団を大きくすることが分かっている。ほぼすべての時間を地上で生活するヒトが、大集団を作るのは当然のことだ。「ヒトは独りでは生きられない」とよく言うが、はるか昔は、今よりずっと切実に、ヒトは独りでは生きられなかったのである。

巨大組織では、全員を知らなくてもよい

 こう考えると、ヒトが150人を越える大組織を次々に作ってきたことは興味深い。巨大組織もダンバー数から逃れることはできないから、10000人の大企業でも、細かく見ていけば必ず100~200人程度の小集団に分かれているはずだ。

 しかし一方で、ダンバー数を越えたところでは、巨大組織は複雑な人間関係を築かなくても済むような仕組みで作られている。隣の部署や隣町のことがほとんど分からなくても、うまく回るように設計されているのだ。

 ダンバー数を踏まえると、フェイスブックで1000人の友達がいる人気者も、結局お互いをよく知っている友達はおそらく150人、多くても200人だと予想がつく。あとはきっと、友達の友達とか、昔の友達とか、ちょっとした仕事上の知り合いのはず。お互いに信頼できる友達の数には限界があるのだ。

<参考文献>
・『友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学』(ロビン・ダンバー著 インターシフト)
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授