社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
『人類三千年の幸福論』から考える人類を救うためのヒント
“人類三千年の歴史からひもときながら現代の「幸福論」を探る”――そんな壮大な試みの書籍が発売になりました。それが『人類三千年の幸福論 ニコル・クーリッジ・ルマニエールとの対話』(集英社)です。
著者は、漫画家・文筆家・画家で東京造形大学客員教授のヤマザキマリ氏。ヤマザキ氏は、古代ローマと現代日本がお風呂でつながる『テルマエ・ロマエ』、古代ギリシャと現代日本がオリンピック『オリンピア・キュクロス』、さらに『プリニウス』『スティーブ・ジョブズ』『モーレツ!イタリア家族』などの快作漫画だけでなく、枠にとらわれないエッセイやトークも非常に魅力です。本書はそのヤマザキ氏による対談&エッセイ集です。
そして、ヤマザキ氏が「幸福論」を語り尽くすために選んだ対談相手であり、本書の副題ともなっているニコル・クーリッジ・ルマニエール氏とは、2019年に大英博物館で開催され大好評を博した「マンガ展」の担当キュレーターで美術史家です。
本書のメインとなるヤマザキ氏とニコル氏による全五章の対談では、人類が書いて描いて記録してきた三千年の歴史を、専門の漫画や美術にとどまることのない鳥の目と虫の目をもって、二人の好奇心の赴くままに自由自在に語り尽くしています。
二人は対談の中で、レオナルド・ダ・ヴィンチ、河鍋暁斎、南方熊楠、スティーブ・ジョブズといった時代の先駆者がいつの世にも孤高にして不遇であることと同様に、どんな人であっても想像力を豊かにするのは悲しみと孤独である一方、その想像力をすり減らす同調圧力が社会からなくなることはないと語り合います。
「とはいえ、やはり少しの気づきや努力で生きるのが楽しくなったり喜ばしくなったりするんだったら、その方法は考えないと」とヤマザキ氏は述べます。
さらに「メンタル省エネか、またはダイナミックな躍動か。過去に人類がどのような試行錯誤をくり返してきたのかは、冷静に振り返ればすべて過去に書いてある」とヤマザキ氏が示すと、ニコル氏も「常に歴史の種火は点いている。〈中略〉その種火が人類史に大きな物語を作っていく」と応えます。
さらに、(4)の「人類を救う(かもしれない)ヤマザキマリの七つのヒント」は、ヤマザキ氏の代表作である『テルマエ・ロマエ』の最大のモチーフでもある「風呂」や、一箇所にとどまることなく世界規模で移動するヤマザキ氏の「ノマド体質」だけではありません。ニコル氏との対談でも発揮された「鳥瞰」的知性に宿るユーモアセンスの重要性、「虫」のように意思の疎通ができないものへの共生の眼差しや「壁」のような不条理から見えてくるもの、さらには心の師匠としての「水木しげる」への思慕や「カラスの利他行動」へのシンパシーなど、ヤマザキ氏の偏愛する七項目から、普遍的な人類の幸福を考えることのできるエッセイです。
そして、「しかし、自分の思い通りに運ばない人生の展開を経験するのは大切なことだと思っている。あなたが今、人生先が見えないとぼやいているなら、下手な希望的観測など立てずになるようにしかならんと腹を決めて、例えば『サピエンス全史』でも読んでほしい。人類の歴史を俯瞰で見ると、何千年経とうと、人類はそれほど変化を遂げていないことがわかってくる」と述べています。
ヤマザキ氏の提言(ヒント)からは、いつの時代であっても人類にとって現実は不条理でままならないからこそ、何千年と続く人類の歴史を軽やかに受容し参照し続けることの必要性が見えてきます。
本書は、安易にコスパやタイパで知識やスキルを計算するのではなく、困難なときほど人類三千年の知性に俯瞰しながらコミットすること、人類の歴史で普遍的なユーモアの精神を見失わないこと、そして価値観やバックボーンを共有できない人も含め多様な人と対話することの重要性を、楽しくじんわりと実感することのできる、大いなる学びの一冊なのです。
著者は、漫画家・文筆家・画家で東京造形大学客員教授のヤマザキマリ氏。ヤマザキ氏は、古代ローマと現代日本がお風呂でつながる『テルマエ・ロマエ』、古代ギリシャと現代日本がオリンピック『オリンピア・キュクロス』、さらに『プリニウス』『スティーブ・ジョブズ』『モーレツ!イタリア家族』などの快作漫画だけでなく、枠にとらわれないエッセイやトークも非常に魅力です。本書はそのヤマザキ氏による対談&エッセイ集です。
そして、ヤマザキ氏が「幸福論」を語り尽くすために選んだ対談相手であり、本書の副題ともなっているニコル・クーリッジ・ルマニエール氏とは、2019年に大英博物館で開催され大好評を博した「マンガ展」の担当キュレーターで美術史家です。
未来の「幸福論」もすべて歴史に書いてある…
本書の構成は、(1)ヤマザキ氏によるプロローグ、(2)ヤマザキ氏とニコル氏による全五章の対談「失敗や破綻はすべて過去に書いてある」、(3)ヤマザキ氏の漫画「美術館のパルミラ」、(4)ヤマザキ氏のエッセイ「人類を救う(かもしれない)ヤマザキマリの七つのヒント」、(5)ニコル氏によるエピローグ――となっています。本書のメインとなるヤマザキ氏とニコル氏による全五章の対談では、人類が書いて描いて記録してきた三千年の歴史を、専門の漫画や美術にとどまることのない鳥の目と虫の目をもって、二人の好奇心の赴くままに自由自在に語り尽くしています。
二人は対談の中で、レオナルド・ダ・ヴィンチ、河鍋暁斎、南方熊楠、スティーブ・ジョブズといった時代の先駆者がいつの世にも孤高にして不遇であることと同様に、どんな人であっても想像力を豊かにするのは悲しみと孤独である一方、その想像力をすり減らす同調圧力が社会からなくなることはないと語り合います。
「とはいえ、やはり少しの気づきや努力で生きるのが楽しくなったり喜ばしくなったりするんだったら、その方法は考えないと」とヤマザキ氏は述べます。
さらに「メンタル省エネか、またはダイナミックな躍動か。過去に人類がどのような試行錯誤をくり返してきたのかは、冷静に振り返ればすべて過去に書いてある」とヤマザキ氏が示すと、ニコル氏も「常に歴史の種火は点いている。〈中略〉その種火が人類史に大きな物語を作っていく」と応えます。
オマージュと偏愛から考察する普遍
(3)の「美術館のパルミラ」は、ルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9~漫画、9番目の芸術~」発表作品で、漫画ですがせりふ(吹き出し)のない絵だけで表現されたノンバーバルな短編です。ルーヴル美術館が収蔵するパルミラ遺跡の美術品をテーマに、イスラム国(IS)によって惨殺された「ミスター・パルミラ」と呼ばれたパルミラ出身の考古学者ハレド・アサドへのオマージュ作品です。さらに、(4)の「人類を救う(かもしれない)ヤマザキマリの七つのヒント」は、ヤマザキ氏の代表作である『テルマエ・ロマエ』の最大のモチーフでもある「風呂」や、一箇所にとどまることなく世界規模で移動するヤマザキ氏の「ノマド体質」だけではありません。ニコル氏との対談でも発揮された「鳥瞰」的知性に宿るユーモアセンスの重要性、「虫」のように意思の疎通ができないものへの共生の眼差しや「壁」のような不条理から見えてくるもの、さらには心の師匠としての「水木しげる」への思慕や「カラスの利他行動」へのシンパシーなど、ヤマザキ氏の偏愛する七項目から、普遍的な人類の幸福を考えることのできるエッセイです。
「人類の歴史を俯瞰で見ると、何千年経とうと、人類はそれほど変化を遂げていない」
いまやワールドワイドに活躍するヤマザキ氏ですが、「未だかつて自分が望む土地に暮らしたことがない」として、「イタリアを含め、世界中の行く先々でいろんな壁にぶち当たって不条理の洗礼を受けてきた」といいます。そして、「しかし、自分の思い通りに運ばない人生の展開を経験するのは大切なことだと思っている。あなたが今、人生先が見えないとぼやいているなら、下手な希望的観測など立てずになるようにしかならんと腹を決めて、例えば『サピエンス全史』でも読んでほしい。人類の歴史を俯瞰で見ると、何千年経とうと、人類はそれほど変化を遂げていないことがわかってくる」と述べています。
ヤマザキ氏の提言(ヒント)からは、いつの時代であっても人類にとって現実は不条理でままならないからこそ、何千年と続く人類の歴史を軽やかに受容し参照し続けることの必要性が見えてきます。
本書は、安易にコスパやタイパで知識やスキルを計算するのではなく、困難なときほど人類三千年の知性に俯瞰しながらコミットすること、人類の歴史で普遍的なユーモアの精神を見失わないこと、そして価値観やバックボーンを共有できない人も含め多様な人と対話することの重要性を、楽しくじんわりと実感することのできる、大いなる学びの一冊なのです。
<参考文献>
『人類三千年の幸福論 ニコル・クーリッジ・ルマニエールとの対話』(ヤマザキマリ著、集英社)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771819-5
<参考サイト>
ヤマザキマリ氏のOfficial Site
https://yamazakimari.com/
ヤマザキマリ氏の公式ツイッター
https://twitter.com/THERMARI1
『人類三千年の幸福論 ニコル・クーリッジ・ルマニエールとの対話』(ヤマザキマリ著、集英社)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771819-5
<参考サイト>
ヤマザキマリ氏のOfficial Site
https://yamazakimari.com/
ヤマザキマリ氏の公式ツイッター
https://twitter.com/THERMARI1
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
“死の終りに冥し”…詩に託された『十住心論』の教えとは
空海と詩(4)詩で読む『秘蔵宝鑰』
“悠々たり悠々たり”にはじまる空海『秘蔵宝鑰』序文の詩文。まことにリズミカルな連呼で、たたみかけていく文章である。このリフレインで彼岸へ連れ去られそうな魂は、選べる道の多様さと迷える世界での認識の誤りに出会い、“死...
収録日:2024/08/26
追加日:2024/11/23
国家は助けてくれない…「三田会」誕生への大きな経験
独立と在野を支える中間団体(6)慶應義塾大学「三田会」の起源
中間集団として象徴的な存在である慶應義塾大学「三田会」について考える今回。三田会は単に同窓会組織として存在しているわけではなく、「公」に頼れない場合に重要な役割を果たすものだった。その三田会の起源について解説す...
収録日:2024/06/08
追加日:2024/11/22
日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化
日本文化を学び直す(1)忘れてはいけない縄文文化
大転換期の真っ只中にいるわれわれにとって、日本の特性を強みとして生かしていくために忘れてはいけないことが二つある。一つは日本が森林山岳海洋島国国家であるというその地理的特性。もう一つは、日本文化の根源としての縄...
収録日:2020/02/05
追加日:2020/09/16
国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題
教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担
人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像
日本語と英語で味わう『源氏物語』(1)紫式部の人物像と女房文学
日本を代表する古典文学『源氏物語』と、その著者である紫式部は、NHKの大河ドラマ『光る君へ』の放映をきっかけに注目が集まっている。紫式部の名前は誰もが知っているが、実はその半生や人となりには謎が多い。いったいどのよ...
収録日:2024/02/18
追加日:2024/10/14
対談 | 林望/ロバート キャンベル