白熱!鳥先生とゴリラ先生の『動物たちは何をしゃべっているのか?』
「本書は鳥になった研究者とゴリラになった研究者が、言語の進化と未来について語り合った記録である」――そんな不思議な書き出しで始まるのが『動物たちは何をしゃべっているのか?』(山極寿一・鈴木俊貴著、集英社)です。
その鈴木氏の対談相手が「ゴリラ先生」という異名をもつ山極寿一氏。元・京都大学総長であり、世界的なゴリラ研究の権威です。本書は2人の動物研究者が「動物たちの言葉について」というテーマを出発点にして、現代社会の問題や目指すべき未来像、果てはAIやTwitter(現X)の炎上まで語り合った、幅広い内容の対談記録になっています。
本書は四つのパートから構成されています。Part1「おしゃべりな動物たち」では、動物たちがどのように会話するのか、シジュウカラの言葉の起源など、動物の言葉についての対談が行われます。Part2「動物たちの心」では、シジュウカラの鳴き声には実は文法があったことや、他の個体の心を推測する動物の能力などについて語られます。Part3「言葉から見える、ヒトという動物」では、「言葉」という視点から人間と動物の違いについて議論されます。Part4「暴走する言葉、置いてきぼりの身体」では、現代のSNS文化や言語と現代社会の問題まで話が及んでいます。
最初のパートでは、鈴木氏の研究である「シジュウカラの言語」について説明されています。鈴木氏は、長野の森の中で長期間にわたってシジュウカラを観察し、その鳴き声に意味があること、つまりシジュウカラは言語をもっていることを突き止めました。シジュウカラは全長14センチメートルほどの小さな鳥です。そのため、ヘビやタカのような天敵には十分注意しないといけません。そこで、天敵を見つけると警戒のための鳴き声を発するのですが、これが天敵ごとに異なるというのです。ヘビなら「ジャージャー」、タカなら「ヒヒヒ」というように。つまり「単に警戒の鳴き声を発しているだけじゃない」のです。
実際に、録音した鳴き声をシジュウカラに聞かせてみると、「ジャージャー」ならヘビがいそうな地面を見回したり、茂みを確認しに行ったりするそうです。ただ、これだけでは、「ジャージャー」が「ヘビ」という意味なのか、それとも「地面に気をつけろ」という意味なのか、わかりません。
そこで、鈴木氏は見間違えを利用した認知実験を行います。ヘビを警戒する音を聞かせながら、ヘビくらいの大きさの枝にひもを付けて木の幹沿いに引き上げてみます。すると、シジュウカラはほぼ確実にヘビと見間違えて驚くのだそうです。「ジャージャー」ではなく他の音声だった場合は特に反応しないため、このことから「ジャージャー」という音声がヘビの視覚的イメージを呼び起こしていることがわかるというのです。面白いですね。
また、録音した音声を編集して「ヂヂヂヂ、ピーッピ」という鳴き声を作り、シジュウカラに聞かせてみました。すると、正しい語順のときにはスピーカーに近寄ってきたシジュウカラが、逆の語順のときには大して警戒もせず、ほとんど近寄ってこなかったというのです。つまり、シジュウカラの言葉では語順が重要であることがわかりました。
これだけではありません。さらに文法に関する実験を続ける鈴木氏。例えば「藪からスティック」「寝耳にウォーター」という文章の場合、英語と日本語が混在していますが、その意味は理解できるでしょう。これらはタレントのルー大柴氏の「ルー語」として知られていますが、「はじめて聞く文章でも、文法のルールを守っていれば理解できる」という文法の特徴によるもので、このことをヒントにして実験を考案しました。
シジュウカラは別種のコガラと群れを成すことがあるそうです(「混群」といいます)。同じ群れの中にいても、種が違えば言語も違います。「集まれ」はシジュウカラ語だと「ヂヂヂヂ」でも、コガラでは「ディーディー」になるといいます。まったく違う音ですが、シジュウカラはコガラ語を理解できるのです。日本人にとっての英語みたいなものだと鈴木氏は言います。
そこで、シジュウカラ語の「ピーッピ(警戒しろ!)」とコガラ語の「ディーディー(集まれ!)」を合わせた音声を作成しました。いわば「鳥のルー語」です。こんな鳴き声を出す鳥は実際にはいませんが、文法的には正しい文になっています。これをシジュウカラに聞かせてみると、なんと通じたのです。こうして、シジュウカラも人間と同様に、文法に基づく言葉(鳴き声)を使ってコミュニケーションを取っていることがわかりました。
鈴木氏と山極氏とやりとりも絶妙で、しかもとても読みやすい。どうですか、お二人が“何をしゃべっているのか?”、気になった方はぜひ手にとってみてください。
「シジュウカラ」と「ゴリラ」の対談
著者の1人である鈴木俊貴氏は、1983年生まれの動物言語学者で、現在は東京大学先端科学技術研究センター准教授です。主な研究対象はシジュウカラ科に属する鳥類であり、フィールドでの行動観察や実験を通じて、鳴き声の意味や文法を研究しています。また、「世界で初めて動物が言葉を使うことができると実証した」研究者としても知られています。その鈴木氏の対談相手が「ゴリラ先生」という異名をもつ山極寿一氏。元・京都大学総長であり、世界的なゴリラ研究の権威です。本書は2人の動物研究者が「動物たちの言葉について」というテーマを出発点にして、現代社会の問題や目指すべき未来像、果てはAIやTwitter(現X)の炎上まで語り合った、幅広い内容の対談記録になっています。
本書は四つのパートから構成されています。Part1「おしゃべりな動物たち」では、動物たちがどのように会話するのか、シジュウカラの言葉の起源など、動物の言葉についての対談が行われます。Part2「動物たちの心」では、シジュウカラの鳴き声には実は文法があったことや、他の個体の心を推測する動物の能力などについて語られます。Part3「言葉から見える、ヒトという動物」では、「言葉」という視点から人間と動物の違いについて議論されます。Part4「暴走する言葉、置いてきぼりの身体」では、現代のSNS文化や言語と現代社会の問題まで話が及んでいます。
シジュウカラの鳴き声には意味があった!
本書の対談内容は多岐にわたりますが、今回は鈴木氏の研究に関する内容をピックアップしてご紹介してみましょう。最初のパートでは、鈴木氏の研究である「シジュウカラの言語」について説明されています。鈴木氏は、長野の森の中で長期間にわたってシジュウカラを観察し、その鳴き声に意味があること、つまりシジュウカラは言語をもっていることを突き止めました。シジュウカラは全長14センチメートルほどの小さな鳥です。そのため、ヘビやタカのような天敵には十分注意しないといけません。そこで、天敵を見つけると警戒のための鳴き声を発するのですが、これが天敵ごとに異なるというのです。ヘビなら「ジャージャー」、タカなら「ヒヒヒ」というように。つまり「単に警戒の鳴き声を発しているだけじゃない」のです。
実際に、録音した鳴き声をシジュウカラに聞かせてみると、「ジャージャー」ならヘビがいそうな地面を見回したり、茂みを確認しに行ったりするそうです。ただ、これだけでは、「ジャージャー」が「ヘビ」という意味なのか、それとも「地面に気をつけろ」という意味なのか、わかりません。
そこで、鈴木氏は見間違えを利用した認知実験を行います。ヘビを警戒する音を聞かせながら、ヘビくらいの大きさの枝にひもを付けて木の幹沿いに引き上げてみます。すると、シジュウカラはほぼ確実にヘビと見間違えて驚くのだそうです。「ジャージャー」ではなく他の音声だった場合は特に反応しないため、このことから「ジャージャー」という音声がヘビの視覚的イメージを呼び起こしていることがわかるというのです。面白いですね。
鳥の言語には文法があった!解明の鍵は「藪からスティック」って?
鈴木氏は、さらに研究を続けて、シジュウカラの言葉に文法があることを証明します。観察により、「ピーッピ、ヂヂヂヂ」という鳴き声が「警戒しろ!」と「集まれ!」という二つの語を組み合わせた文になっているのではないかと推測しました。もしこれが、「ヂヂヂヂ、ピーッピ」と語順を変えてみたとき、シジュウカラが反応しないのであれば、この2語の語順に意味があることに、つまり「文法」が存在することになります。日本語でも、「持って・来て」と「来て・持って」では意味が違ってしまうのと同じことだからです。また、録音した音声を編集して「ヂヂヂヂ、ピーッピ」という鳴き声を作り、シジュウカラに聞かせてみました。すると、正しい語順のときにはスピーカーに近寄ってきたシジュウカラが、逆の語順のときには大して警戒もせず、ほとんど近寄ってこなかったというのです。つまり、シジュウカラの言葉では語順が重要であることがわかりました。
これだけではありません。さらに文法に関する実験を続ける鈴木氏。例えば「藪からスティック」「寝耳にウォーター」という文章の場合、英語と日本語が混在していますが、その意味は理解できるでしょう。これらはタレントのルー大柴氏の「ルー語」として知られていますが、「はじめて聞く文章でも、文法のルールを守っていれば理解できる」という文法の特徴によるもので、このことをヒントにして実験を考案しました。
シジュウカラは別種のコガラと群れを成すことがあるそうです(「混群」といいます)。同じ群れの中にいても、種が違えば言語も違います。「集まれ」はシジュウカラ語だと「ヂヂヂヂ」でも、コガラでは「ディーディー」になるといいます。まったく違う音ですが、シジュウカラはコガラ語を理解できるのです。日本人にとっての英語みたいなものだと鈴木氏は言います。
そこで、シジュウカラ語の「ピーッピ(警戒しろ!)」とコガラ語の「ディーディー(集まれ!)」を合わせた音声を作成しました。いわば「鳥のルー語」です。こんな鳴き声を出す鳥は実際にはいませんが、文法的には正しい文になっています。これをシジュウカラに聞かせてみると、なんと通じたのです。こうして、シジュウカラも人間と同様に、文法に基づく言葉(鳴き声)を使ってコミュニケーションを取っていることがわかりました。
“何をしゃべっているのか?”気になった方はぜひ
ということで、大変興味深い「シジュウカラの言語」の研究について紹介してきましたが、本書の対談内容はもちろんこれだけではありません。シジュウカラがうそをつくことや、歌や音楽と言語の進化の関係、動物の研究から見えてくるヒトの本性など、どれも読み逃せない、とても興味深い内容ばかりです。鈴木氏と山極氏とやりとりも絶妙で、しかもとても読みやすい。どうですか、お二人が“何をしゃべっているのか?”、気になった方はぜひ手にとってみてください。
<参考文献>
『動物たちは何をしゃべっているのか?』(山極寿一・鈴木俊貴著、集英社)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790115-3
<参考サイト>
鈴木俊貴氏の研究室(動物言語学分野鈴木研究室)
https://www.animallinguistics.org/
鈴木俊貴氏のweb site
https://www.toshitakasuzuki.com/top
鈴木俊貴氏のツイッター(現X)
https://twitter.com/toshitaka_szk
『動物たちは何をしゃべっているのか?』(山極寿一・鈴木俊貴著、集英社)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790115-3
<参考サイト>
鈴木俊貴氏の研究室(動物言語学分野鈴木研究室)
https://www.animallinguistics.org/
鈴木俊貴氏のweb site
https://www.toshitakasuzuki.com/top
鈴木俊貴氏のツイッター(現X)
https://twitter.com/toshitaka_szk