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人生で大切なことは『教養としての歴史小説』から学ぶ
長期化するロシア・ウクライナ紛争。その遠因は「チンギス・ハンにあり」とするのが、直木賞作家・今村翔吾氏です。チンギス・ハンはいうまでもなく13世紀最強のモンゴル帝国を建設した英雄。その支配はロシアやウクライナにも及び、もともと別の国として別の文化を築いていた地域が一緒くたに統一されたのです。モンゴル支配の2世紀余りは「タタールの軛(くびき)」と呼ばれ、ロシア帝国統一の推進力となりました。そのような歪んだ発端が現在にまで影響していると見るのは、歴史小説家ならではの教養です。
「人生で大切なことは歴史小説に教わった」で始まる本書の内容は、根っからの歴史小説好きで、「読む作品がなくなると困る」という思いから第7世代の歴史小説家として熱い作品を読者に届ける今村氏の揺るぎない思いに支えられています。
かつて高度成長期には、歴史小説や大河ドラマによって日本史のエピソードが国民に共有され、共通の話題となっていました。当時(1960年代)の日本人にはアイデンティティを失ったという自覚があり、それをもう一度構築するために歴史小説に答えを求めました。その要望に応える形で、藤沢周平、司馬遼太郎、池波正太郎の「一平二太郎」をはじめとするいろいろな書き手が誕生していきました。
ところが今はどうか、と今村氏は問いかけます。歴史小説に代わって若者や壮年世代と歴史をつなぐ役割を担っているのはゲーム。織田信長や豊臣秀吉は、ゲームキャラクターとして人気を誇っていますが、それを成立させるための歴史は改変されすぎているので、本当の歴史と接し、学びとすることはできないのだといいます。
日本ほど長い歴史を持つ国は世界でもまれで、アメリカなど歴史の浅い国の人から羨ましがられる存在。そうした共有財について知らず、そこから学びとれていないのは国家的に大きな損失だと今村氏は強調しています。
大学卒業後は父親の手伝いとしてダンス・インストラクターや作曲の仕事に励んでいましたが、「いつかは歴史小説家に」との夢を手放すことはありませんでした。そんな今村氏の背中を押してくれたのは、ダンスを教えている中学生の「先生だって、夢をあきらめてるやん」という一言だったと著者は振り返ります。
最近、著者が講演で歴史の話をすると、子どもたちから「歴史を学んで何か得することありますか?」とよく聞かれるのだそうです。「終わったことを学んでも意味がない」という現代っ子特有のタイパ意識かもしれませんが、今村氏は歴史の知識を「人生のカンニングペーパー」だと捉えています。
人はいつの時代も似たような選択に迫られ、悩みや葛藤の淵に立たされます。たとえば「戦場での生死をかけた戦い」と「会社の社運をかけたプロジェクト」は、どちらも勝負に挑むという意味で共通する問題です。歴史には、サンプルとして過去の人たちが成功したデータと失敗したデータが無数に残されており、なかでも際立った人物が歴史小説の主人公に取り上げられます。
つまり、歴史を知ることには、人生のリスクをあらかじめ回避するという効果があるのです。しかも、主人公が水先案内人を務めてくれて一緒に歩けるため、「その時代にタイムトラベルしたような視点」で歴史の出来事を理解できるのが歴史小説のメリット。学生時代の年号暗記で歴史嫌いになった社会人にこそお勧めしたいポイントです。
たとえばリーダーシップについて学ぶなら、幕末期に館林藩士の岡谷繁実が16年がかりで書き上げた『名将言行録』。戦国時代の武将から江戸時代中期の大名まで192名のエピソードが取り上げられ、現代語訳やダイジェスト版も多数出版されています。
優れたリーダーに肝心なのが「引き際」。本書では、「承継に失敗した組織は必ず潰れる」という信念のもと、歴史上の人物の引き際と承継のドラマを伝える三谷幸喜『清洲会議』、司馬遼太郎『豊臣家の人々』に始まる10冊余りを紹介しています。
さらに歴史からイノベーションを学ぶ方法、歴史小説を通して語彙を増やす効用、グローバル時代だからこそ日本を世界に伝えるために最低これだけは読んでおきたい10冊も完備。最後に「教養としての歴史小説ガイド」という章にまとめられたデータベースなど、かゆいところに手が届く周到ぶりを、本書でぜひ体験してください。
今村氏自身、過去の英雄のなかに人生のロールモデルをいくつも持ち、坂本龍馬の享年(33歳)を超えたときに「自分は龍馬になれなかった」とショックを受け、次へのスプリングボードとしてデビュー作を出版しました。次のタイミングは織田信長の享年(49歳)だろうと考えている著者は10年後、どんなピークを迎えるのか楽しみです。
歴史小説のヘビーな読み手も、まったくビギナーの読み手もともに満足できる貴重な一冊といえるでしょう。
人生で大切なことは歴史小説に?
アニメやゲームで育った世代の密かな悩みは「自分には教養がないのでは?」ということだと耳にします。チャットGPTなどの生成AI台頭に敏感になるのも、その一端。しかし、教養コンプレックスに悩まされるのは、教養へのあこがれがあるからです。ビジネスの場で「教養のない人」と思われないために、まず読みたいのが今村翔吾氏の書いた『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)です。「人生で大切なことは歴史小説に教わった」で始まる本書の内容は、根っからの歴史小説好きで、「読む作品がなくなると困る」という思いから第7世代の歴史小説家として熱い作品を読者に届ける今村氏の揺るぎない思いに支えられています。
かつて高度成長期には、歴史小説や大河ドラマによって日本史のエピソードが国民に共有され、共通の話題となっていました。当時(1960年代)の日本人にはアイデンティティを失ったという自覚があり、それをもう一度構築するために歴史小説に答えを求めました。その要望に応える形で、藤沢周平、司馬遼太郎、池波正太郎の「一平二太郎」をはじめとするいろいろな書き手が誕生していきました。
ところが今はどうか、と今村氏は問いかけます。歴史小説に代わって若者や壮年世代と歴史をつなぐ役割を担っているのはゲーム。織田信長や豊臣秀吉は、ゲームキャラクターとして人気を誇っていますが、それを成立させるための歴史は改変されすぎているので、本当の歴史と接し、学びとすることはできないのだといいます。
日本ほど長い歴史を持つ国は世界でもまれで、アメリカなど歴史の浅い国の人から羨ましがられる存在。そうした共有財について知らず、そこから学びとれていないのは国家的に大きな損失だと今村氏は強調しています。
「人生のカンニングペーパー」?
今村氏は1984年生まれ、2022年『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞しましたが、歴史小説と出会ったのは小学5年生の7月だそうです。それは、古本屋の軒先に積まれた『真田太平記』池波正太郎の全16巻セットでした。難しい漢字や単語にめげず夏休み中に読破してしまった今村少年は、歴史と小説の面白さに開眼し、以来、歴史小説ばかりを読み続ける青春時代を送ります。大学卒業後は父親の手伝いとしてダンス・インストラクターや作曲の仕事に励んでいましたが、「いつかは歴史小説家に」との夢を手放すことはありませんでした。そんな今村氏の背中を押してくれたのは、ダンスを教えている中学生の「先生だって、夢をあきらめてるやん」という一言だったと著者は振り返ります。
最近、著者が講演で歴史の話をすると、子どもたちから「歴史を学んで何か得することありますか?」とよく聞かれるのだそうです。「終わったことを学んでも意味がない」という現代っ子特有のタイパ意識かもしれませんが、今村氏は歴史の知識を「人生のカンニングペーパー」だと捉えています。
人はいつの時代も似たような選択に迫られ、悩みや葛藤の淵に立たされます。たとえば「戦場での生死をかけた戦い」と「会社の社運をかけたプロジェクト」は、どちらも勝負に挑むという意味で共通する問題です。歴史には、サンプルとして過去の人たちが成功したデータと失敗したデータが無数に残されており、なかでも際立った人物が歴史小説の主人公に取り上げられます。
つまり、歴史を知ることには、人生のリスクをあらかじめ回避するという効果があるのです。しかも、主人公が水先案内人を務めてくれて一緒に歩けるため、「その時代にタイムトラベルしたような視点」で歴史の出来事を理解できるのが歴史小説のメリット。学生時代の年号暗記で歴史嫌いになった社会人にこそお勧めしたいポイントです。
ビジネスに役立つ歴史小説とは?
本書には、今村氏の「歴史愛」「小説愛」だけではなく、歴史小説のどんな点をビジネスに生かせるか、そのためにどんな本を読むべきかという具体的な提案が詰まっています。たとえばリーダーシップについて学ぶなら、幕末期に館林藩士の岡谷繁実が16年がかりで書き上げた『名将言行録』。戦国時代の武将から江戸時代中期の大名まで192名のエピソードが取り上げられ、現代語訳やダイジェスト版も多数出版されています。
優れたリーダーに肝心なのが「引き際」。本書では、「承継に失敗した組織は必ず潰れる」という信念のもと、歴史上の人物の引き際と承継のドラマを伝える三谷幸喜『清洲会議』、司馬遼太郎『豊臣家の人々』に始まる10冊余りを紹介しています。
さらに歴史からイノベーションを学ぶ方法、歴史小説を通して語彙を増やす効用、グローバル時代だからこそ日本を世界に伝えるために最低これだけは読んでおきたい10冊も完備。最後に「教養としての歴史小説ガイド」という章にまとめられたデータベースなど、かゆいところに手が届く周到ぶりを、本書でぜひ体験してください。
今村氏自身、過去の英雄のなかに人生のロールモデルをいくつも持ち、坂本龍馬の享年(33歳)を超えたときに「自分は龍馬になれなかった」とショックを受け、次へのスプリングボードとしてデビュー作を出版しました。次のタイミングは織田信長の享年(49歳)だろうと考えている著者は10年後、どんなピークを迎えるのか楽しみです。
歴史小説のヘビーな読み手も、まったくビギナーの読み手もともに満足できる貴重な一冊といえるでしょう。
<参考文献>
『教養としての歴史小説』(今村翔吾著、ダイヤモンド社)
https://www.diamond.co.jp/book/9784478118528.html
<参考サイト>
今村翔吾氏のサイト:歴史小説・時代小説家「今村 翔吾」
https://www.zusyu.co.jp/
今村翔吾氏のツイッター(現X)
Twitter:https://twitter.com/zusyu_kki
『教養としての歴史小説』(今村翔吾著、ダイヤモンド社)
https://www.diamond.co.jp/book/9784478118528.html
<参考サイト>
今村翔吾氏のサイト:歴史小説・時代小説家「今村 翔吾」
https://www.zusyu.co.jp/
今村翔吾氏のツイッター(現X)
Twitter:https://twitter.com/zusyu_kki
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