テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.12.27

心が楽になる!『REAPPRAISAL』で学ぶ最先端脳科学の思考法

 いつの時代も人間は感情との付き合い方に悩まされてきました。不安、恐怖、緊張、焦燥……。ネガティブな感情は時として私たちを振り回し、日常生活に影響を及ぼすことがあります。感情を上手にコントロールして、充実した心穏やかな生活を送りたいと願う人は少なくないでしょう。

 今回ご紹介する『REAPPRAISAL(リアプレイザル) 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(内田舞著、実業之日本社)はそのような願いに答えてくれる一冊です。脳科学の専門家が科学的な根拠に基づいた感情のコントロール方法を解説してくれます。著者の経験談やわかりやすい具体例などを交えながら平易な言葉で説明してくれるため、とても読みやすくなっています。

現役ハーバード大学医学部准教授が教える感情との付き合い方

 著者の内田舞先生は現在ハーバード大学医学部の准教授として活躍している小児精神科医です。北海道大学医学部を卒業後、イェール大学での研修を経て、日本人として史上最年少で米国の臨床医となるという卓越した経歴の持ち主です。専門知識を生かして一般向けの本も執筆しており、『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)などの著書があります。

 本書の内容を目次に沿って簡単にご紹介しましょう。まず第1章「課題の発見」では、人はなぜ不安を感じるのかについて説明されます。脳科学の観点から脳と感情のメカニズムについて学ぶことができます。

 第2章「解決の手法」では、感情に支配されず、自分をコントロールする方法について解説されています。本書のタイトルにもなっている「リアプレイザル(Reappraisal)」についても具体例を交えて紹介されています。

 第3章「レジリエンスを育てるために」では、困難を乗り越え、レジリエンスを育成するための実践的なアドバイスが示されます。「回復力」とも訳され、近年ビジネスシーンでも注目されている「レジリエンス」ですが、この力はどのようにすれば身につくのでしょうか。

 第4章「メンタルヘルスが崩れたときに」では、心の調子が崩れてしまったときの対処法が、主に医学的な観点から解説されます。

 最後の第5章「揺れ動く社会と再評価」では、複雑化する現代社会の中で、自分の心の安定を保つ方法に焦点が当てられています。社会問題について発信し続けてきた内田先生の洞察が光る章です。

「リアプレイザル(Reappraisal)」とは何か

 本書の重要概念である「リアプレイザル(Reappraisal)」とはいったい何を意味するのでしょうか。一言で言えば、それは「嫌な気持ちの扱い方」だと内田先生は言います。

 具体的には、不安などのネガティブな感情を抱いてしまった時、「どうして今このように感じているのか」や、「その背景にある考え方や自分の経験とはどんなものなのか」、そして「その感情や考え方から起きている行動を変えることができるだろうか」といった問いを自らに投げかけることで、感情に対処し、コントロールするのです。これが「再評価」とも訳される「リアプレイザル(Reappraisal)」という思考法です。

 この手法において重要なのは、ネガティブな感情を感じた時に、一度「立ち止まること」です。人間の脳は、好きか嫌いか、快いか不快かを瞬時に判断するようにできています。脳の仕組みがそうなっている以上、それは避けようがありません。ですが、人間は心に湧いた感情のままに、直情的に行動を起こすだけの生き物ではありません。「この感情に従うべきだろうか、行動すべきだろうか」あるいは「立ち止まるか」という、行動への判断が大切なのです。

「リアプレイザル」の実践例――「水をこぼした息子と一緒に」

 この「再評価」について、内田先生は自身の実践例を紹介しています。

 ある日、内田先生が仕事から帰宅したとき、3歳になる息子が保育園で作った工作を見せたがっていました。しかし、内田先生には帰宅後すぐに対応すべきことがあったため、息子の工作を見てあげられませんでした。これに息子は怒り、わざとコップの水を絨毯にこぼしてしまったのです。

 通常ならば、「どうしてそんなことをするの!」と怒りたくなる場面です。ですが、内田先生は息子を抱き上げ、「今何が起きたか一緒に考えてみよう」と提案しました。

 息子は「ママが見てくれないから悲しくて、怒りたくなった」(感情)と言います。「どうして悲しかったのか」と尋ねると、息子は「ママにとって自分が一番大切ではないと感じたから」(考え)と答え、「だから水をこぼした」(行動)と続けました。内田先生は息子に謝り、工作をすぐに見てあげられなかった理由を説明しました。そして、息子が持っていた「ママにとって自分は一番大切ではない」という考えが誤りであることを伝えました。その後、一緒に水を拭いたそうです。

 この対話を通じて、息子のネガティブな「感情」と「行動」がポジティブなものに変化しました。結果として、2人はお互いにハッピーな気持ちでその日を終えることができたのです。このように、イライラしたり、怒りを感じたりしたとしても、一度立ち止まって状況を整理することで、お互いにとって良い結果を得ることができるのです。

 本書は、感情に振り回され、生きにくさを感じているすべての人におすすめできます。「また怒ってしまった……」「何度言ったらわかるの!」「どうせまたうまくいかないよ」など、このような負の感情は誰もが持っているものです。大切なのは、その感情をコントロールすることであり、それがもともとの性格や才能などとは関係なく習得可能な技術だと知ることです。本書を読んで、今よりもきっと心が楽になる思考法「リアプレイザル(Reappraisal)」を試してみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
『REAPPRAISAL(リアプレイザル) 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(内田舞著、実業之日本社)
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-65047-0

<参考サイト>
内田舞先生のツイッター(現X)
https://twitter.com/mai_uchida
内田舞先生の公式サイト
https://maiuchida.com/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

鍵は“きしみ合い”…日本を活気づける中間団体のために

鍵は“きしみ合い”…日本を活気づける中間団体のために

独立と在野を支える中間団体(8)日本を活気づける中間団体をつくる

中間団体が失われつつある現代において、中間団体を新たに再構築するとすれば、どのようなことを第一歩としてとらえればよいのか。また、社会を活性化させる中間団体をつくるためには、どのようなことに気をつければよいだろう...
収録日:2024/06/08
追加日:2024/12/06
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授
2

本当に真っ白な心になれ…神仏の奥義は「宗教的正直さ」

本当に真っ白な心になれ…神仏の奥義は「宗教的正直さ」

東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(3)なぜ「正直」が重要か

松下幸之助が経営の根幹として挙げた「宇宙の理法」とはいったい何か。日本において広く知られる「正直」を深堀りすることで、その理解が得られる。倫理と道徳の極致とも言える「正直」の概念について、詳しく解説する。(全7話...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/12/05
3

超深刻化する労働力不足、解消する方策はあるのか

超深刻化する労働力不足、解消する方策はあるのか

教養としての「人口減少問題と社会保障」(6)労働力の絶対的不足という問題

人口減少によって深刻となる問題の2つ目が「労働力不足」である。今盛んにいわれている女性活用、高齢者活用、外国人労働者受け入れは、労働力の絶対的不足を解消する有効な方法となり得るのか。これからの労働力不足の問題と方...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/12/03
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事
4

江戸文化を育んだ吉原遊郭…版元・蔦屋重三郎の功績とは

江戸文化を育んだ吉原遊郭…版元・蔦屋重三郎の功績とは

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(2)「公界」としての吉原

江戸時代の吉原を語る上で欠かせない人物が、吉原で生まれ育ち、出版界で名を馳せた蔦屋重三郎だ。蔦屋の活躍によって様々な身分の人々の交流の拠点となり、観光地としても人気だった公界(くがい)としての吉原の一面を掘り下...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/25
堀口茉純
歴史作家
5

中国儒教では忠と孝のうち孝のほうが大事

中国儒教では忠と孝のうち孝のほうが大事

宗教で読み解く「世界の文明」(6)中国文明における儒教

伝統中国を基礎づけているのは儒教である。忠と孝という考え方によって、人々の間の序列を明確にし、社会秩序を保つことを可能にしている。現代の中国共産党も、こうした儒教的性質から理解できる。(2019年11月12日開催日本ビ...
収録日:2019/11/12
追加日:2020/05/31
橋爪大三郎
社会学者