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『世界は経営でできている』で手に入れる価値創造の思考法
「経営」という言葉を耳にしたとき、どのようなイメージを持たれるでしょうか。一人の経営者がすべてを決める「ワンマン経営」、利益追求のための「冷徹な判断」、または「カリスマ経営者のリーダーシップ」といったフレーズが頭に浮かぶかもしれません。スティーブ・ジョブズや松下幸之助、孫正義のような、有名な経営者の顔が思い浮かぶ人もいるでしょう。
たしかに、これらは経営のイメージを表していますが、それだけだと一般の人たちにとってはあまり縁のないことのように感じられてしまいます。でも実は、私たち一人ひとりの生活も経営が深く関わっているのです。つまり、とても身近なことなのです。この点を明らかにしてくれるのが、今回ご紹介する『世界は経営でできている』(岩尾俊兵著、講談社現代新書)です。
父が経営する会社が倒産するという逆境を経て、高校への進学を断念し、中卒のまま自衛官への道を選びました。自衛隊を退職後、さまざまな職を経験しながら学費を貯め、高卒認定試験を経て慶應義塾大学へと進学。さらに大学院は東京大学で学び、2018年には同大学から史上初の経営学博士号を授与されるという快挙を成し遂げています。すでに複数の著作があり、代表的なものとして『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)、『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)、『イノベーションを生む“改善”』(有斐閣)など。
本書『世界は経営でできている』は経営に焦点を当てた書籍でありながら、従来の経営や経営学の本とは一線を画しています。具体的には15の「お題」について書かれたエッセー集ということで、通常、経営関連の書籍で取り上げられることのない「人生経営」について本格的に扱っているという点が特徴的です。
目次を見てみると、すべての章が「〇〇は経営でできている」という形式のタイトルで統一されています。「〇〇」には「貧乏」「家庭」「恋愛」「勉強」「虚栄」「心労」「就活」「仕事」「憤怒」「健康」「孤独」「老後」「芸術」「科学」「歴史」といった、一見して経営とは無関係に思える15のテーマが挙げられています。これらのテーマに対して、身近な「あるある」をユーモアに富んだ文体で描き出し、読者に経営の思考法を伝えるという独自の試みがなされています。
ということで非常に興味深い本書ですが、「人生経営」について、あるいは15のテーマというのはどういうことなのでしょうか。
しかし、現代社会において経営の概念は誤解され、その結果として人生に不条理と不合理が生じていると岩尾氏は指摘します。誤解された経営のイメージ、すなわち他者を出し抜き、利用し、搾取するといった行為は、目的と手段の転倒や手段の過大化による誤った認識です。
なぜこのような誤解が生じてしまうのか。それは「あらゆるものは創造できる」という価値創造思考が現代人に欠けているからだと岩尾氏は言います。誤解は価値が有限であると思いこむことから始まります。価値が有限だと、人々はそれを奪い合います。そこで必要とされるのは短期利益志向と部分最適志向の発想であり、有限な価値を巧妙に奪い取るための狡知に他なりません。こうして、価値有限思考が広まった結果、「価値を誰かから上手に奪い取る技術」がまん延し、自己責任論がはびこり、日本社会は停滞してきました。
本当は誰もが人生を経営する当事者なのに、そのことに誰も気づかない。このままでは個人も社会も豊かになれません。このような強い問題意識のもとで、岩尾氏は経営概念を本来の意味に立ち返って再考する必要があると訴えます。価値は決して有限ではなく、無限に創造できるものなのです。そのことを岩尾氏は、「人間とは、価値創造によって共同体全体の幸せを実現する、『経営人』なのである」と言い表しています。経営は決してビジネスマンや経営者だけのものではなく、現代を生きるすべての人にとって必要不可欠な教養なのです。
子供の生き方について、「A:親が子の生き方を決めつけてしまう」と、「B:親が子の生き方を決めつけない」という二つがあるとします。一見するとこれらは両立不可能に思われます。ですが、こうした対立は価値創造という経営思考を用いることで、新たな解決策を見いだすことが可能になります。
ここでは、AとBという対立の究極の目的が「C:子供に幸せになってほしい」だとすると、「AとBがそれぞれCにどう寄与できるかを考えてみるべき」だというのです。つまり、ポイントは幸せ(=価値)という究極の目的に立ち返り、対立する手段、対立する意見がそれぞれどう目的に寄与しているのかを考えることです。
すると、たとえばAによって「取り返しのつかない失敗をさせない」、Bによって「自由に伸び伸びと育ってもらう」という寄与がありうると気づくかもしれません。その後は、「取り返しのつかない失敗をさせない」ことと「自由に伸び伸びと育ってもらう」ことの両立を考える。それは、AとBの完全な両立は無理でも、「Cへの寄与同士の両立」は可能だからです。
そうするとここでは、たとえばということで〈千四百年以上前に成立した『顔氏家訓』的な「道徳教育を徹底的におこなった後に好きなだけ自由にさせる」〉という解決策が提示されていますが、もちろんそのほかにも家庭ごとでさまざまな解決策が考えられるでしょう。
このように、家庭経営の考え方を採用することで、解決するのが困難だと思われた家庭内の課題に対して、解決への糸口、その道筋を見つけることができるようになるだろうということです。
ということで、本書にはこのような身近な問題、課題についての経営思考が豊富に盛り込まれています。風刺と諧謔あふれる筆致で綴られた経営エッセーをぜひお楽しみください。
たしかに、これらは経営のイメージを表していますが、それだけだと一般の人たちにとってはあまり縁のないことのように感じられてしまいます。でも実は、私たち一人ひとりの生活も経営が深く関わっているのです。つまり、とても身近なことなのです。この点を明らかにしてくれるのが、今回ご紹介する『世界は経営でできている』(岩尾俊兵著、講談社現代新書)です。
東大史上初の経営学博士が綴る経営エッセー
著者の岩尾俊兵氏は1989年生まれの若き経営学者です。現在は慶應義塾大学商学部で准教授として活躍されていますが、それまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。父が経営する会社が倒産するという逆境を経て、高校への進学を断念し、中卒のまま自衛官への道を選びました。自衛隊を退職後、さまざまな職を経験しながら学費を貯め、高卒認定試験を経て慶應義塾大学へと進学。さらに大学院は東京大学で学び、2018年には同大学から史上初の経営学博士号を授与されるという快挙を成し遂げています。すでに複数の著作があり、代表的なものとして『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)、『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)、『イノベーションを生む“改善”』(有斐閣)など。
本書『世界は経営でできている』は経営に焦点を当てた書籍でありながら、従来の経営や経営学の本とは一線を画しています。具体的には15の「お題」について書かれたエッセー集ということで、通常、経営関連の書籍で取り上げられることのない「人生経営」について本格的に扱っているという点が特徴的です。
目次を見てみると、すべての章が「〇〇は経営でできている」という形式のタイトルで統一されています。「〇〇」には「貧乏」「家庭」「恋愛」「勉強」「虚栄」「心労」「就活」「仕事」「憤怒」「健康」「孤独」「老後」「芸術」「科学」「歴史」といった、一見して経営とは無関係に思える15のテーマが挙げられています。これらのテーマに対して、身近な「あるある」をユーモアに富んだ文体で描き出し、読者に経営の思考法を伝えるという独自の試みがなされています。
ということで非常に興味深い本書ですが、「人生経営」について、あるいは15のテーマというのはどういうことなのでしょうか。
今こそ誤解された経営概念の再転換を!
「日常は経営であふれている」という言葉から本書の記述は始まります。ここでの「経営」は、企業経営や利益追求に限定されるものではなく、より広い意味で用いられています。岩尾氏によれば、経営の本来の意味は「価値創造(=他者と自分を同時に幸せにすること)という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質・意義・有効性を問い直し、究極目的の実現を妨げる対立を解消して、豊かな共同体を創り上げること」です。しかし、現代社会において経営の概念は誤解され、その結果として人生に不条理と不合理が生じていると岩尾氏は指摘します。誤解された経営のイメージ、すなわち他者を出し抜き、利用し、搾取するといった行為は、目的と手段の転倒や手段の過大化による誤った認識です。
なぜこのような誤解が生じてしまうのか。それは「あらゆるものは創造できる」という価値創造思考が現代人に欠けているからだと岩尾氏は言います。誤解は価値が有限であると思いこむことから始まります。価値が有限だと、人々はそれを奪い合います。そこで必要とされるのは短期利益志向と部分最適志向の発想であり、有限な価値を巧妙に奪い取るための狡知に他なりません。こうして、価値有限思考が広まった結果、「価値を誰かから上手に奪い取る技術」がまん延し、自己責任論がはびこり、日本社会は停滞してきました。
本当は誰もが人生を経営する当事者なのに、そのことに誰も気づかない。このままでは個人も社会も豊かになれません。このような強い問題意識のもとで、岩尾氏は経営概念を本来の意味に立ち返って再考する必要があると訴えます。価値は決して有限ではなく、無限に創造できるものなのです。そのことを岩尾氏は、「人間とは、価値創造によって共同体全体の幸せを実現する、『経営人』なのである」と言い表しています。経営は決してビジネスマンや経営者だけのものではなく、現代を生きるすべての人にとって必要不可欠な教養なのです。
幸せな家庭は経営によって創り出すことができる!?
ここでは15のテーマのうちから、「家庭は経営でできている」の内容を一部紹介してみましょう。この章では、家庭内のさまざまな対立や問題を経営の視点から解決する方法が提案されています。たとえば、岩尾氏は親子関係の対立を次の例に挙げています。子供の生き方について、「A:親が子の生き方を決めつけてしまう」と、「B:親が子の生き方を決めつけない」という二つがあるとします。一見するとこれらは両立不可能に思われます。ですが、こうした対立は価値創造という経営思考を用いることで、新たな解決策を見いだすことが可能になります。
ここでは、AとBという対立の究極の目的が「C:子供に幸せになってほしい」だとすると、「AとBがそれぞれCにどう寄与できるかを考えてみるべき」だというのです。つまり、ポイントは幸せ(=価値)という究極の目的に立ち返り、対立する手段、対立する意見がそれぞれどう目的に寄与しているのかを考えることです。
すると、たとえばAによって「取り返しのつかない失敗をさせない」、Bによって「自由に伸び伸びと育ってもらう」という寄与がありうると気づくかもしれません。その後は、「取り返しのつかない失敗をさせない」ことと「自由に伸び伸びと育ってもらう」ことの両立を考える。それは、AとBの完全な両立は無理でも、「Cへの寄与同士の両立」は可能だからです。
そうするとここでは、たとえばということで〈千四百年以上前に成立した『顔氏家訓』的な「道徳教育を徹底的におこなった後に好きなだけ自由にさせる」〉という解決策が提示されていますが、もちろんそのほかにも家庭ごとでさまざまな解決策が考えられるでしょう。
このように、家庭経営の考え方を採用することで、解決するのが困難だと思われた家庭内の課題に対して、解決への糸口、その道筋を見つけることができるようになるだろうということです。
ということで、本書にはこのような身近な問題、課題についての経営思考が豊富に盛り込まれています。風刺と諧謔あふれる筆致で綴られた経営エッセーをぜひお楽しみください。
<参考文献>
『世界は経営でできている』(岩尾俊兵著、講談社現代新書)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000385937
<参考サイト>
岩尾俊兵氏のツイッター(現X)
https://x.com/iwaoshumpei?s=20
慶應義塾大学商学部岩尾俊兵研究会
https://pando.life/keioiwao
『世界は経営でできている』(岩尾俊兵著、講談社現代新書)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000385937
<参考サイト>
岩尾俊兵氏のツイッター(現X)
https://x.com/iwaoshumpei?s=20
慶應義塾大学商学部岩尾俊兵研究会
https://pando.life/keioiwao
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