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『英語の読み方 リスニング篇』で本物の英語力を身につける
日本人の英語学習への情熱には驚くべきものがあります。それは書店の語学学習コーナーを見れば明らかです。初心者向けから上級者向けまで、多種多様な英語学習書がぎっしりと並んでいます。英会話の基本からビジネス英語、TOEICやTOEFLといった試験対策用の参考書、大学受験用の教材まで幅広く取りそろえられており、英語を身につけたいと願うあらゆるニーズに応えています。
また、近年では英語の学習環境にも大きな変化が見られます。特に、インターネットやアプリを活用した学習方法が一般的になってきています。これにより、いつでもどこでも英語を学べるようになりました。海外に行かなくても、自宅で気軽に外国人講師と直接話すこともできます。学習に効果的な音声や動画素材も手軽に入手できるようになり、英語学習が以前よりもずっとやりやすくなりました。
それでは、日本人の英語力が向上してきているかというと、必ずしもそうではなさそうです。英語が苦手だと感じる人はいまだに多く、特にリスニングやスピーキングなどの音声英語への抵抗感は根強いのです。どうすれば英語をスルスルと聴き取ることができるのでしょうか。今回ご紹介する『英語の読み方 リスニング篇 話し言葉を聴きこなす』(北村一真著、中公新書)は、リスニング力向上のためのポイントを豊富な実例とともに解説してくれます。
さて、本書ですが、「リスニングの本なのに新書形式?」と疑問に思う方もいるかもしれません。新書ですから、もちろんCDなどが付属しているわけではありません。かつては語学書にCDが同梱されるのが一般的でしたが、最近ではMP3データをダウンロードする方式が増えてきています。この本では、それよりもさらに簡単に音声を利用できるようになっています。まず、掲載されている英文のほとんどがインターネット上で簡単に試聴できるものです。そして、各英文素材には動画や音声のページに直接アクセスできるQRコードが付いています。このため、読者は面倒なダウンロード作業をする必要がなく、スマートフォンやタブレットを使って直接リンク先で英文を聞くことができます。
また、北村氏は、リーディングの素材と音声言語の連続性を強調しています。「大学受験の参考書に書いてあるような重箱の隅をつつくような文法は、ネイティブは使わないから無意味!」といった意見をよく目にしますが、これはまったくの誤解だと北村氏は言います。比較的カジュアルな英会話の場面でも、それなりに難度の高い表現や言い回しが使われることがあるというのです。
実例をひとつ、北村氏のX(旧Twitter)から紹介しましょう。
大学受験対策の問題集にはいわゆる「クジラの構文」というものがよく載っています。「こんなものは受験問題くらいでしか見かけない!生きた英語ではない!」と批判する人たちに対して、北村氏は「そんなことないよ」と映画「Vフォー・ヴェンデッタ」のセリフを引用して応えています。
“I am no more that face than I am the muscles beneath it, or the bones beneath them.”(その顔は私ではない。顔の下の筋肉や、その下の骨が私でないとの同様に)
口頭のセリフですが、「難構文」と言われたりもするクジラの構文が普通に使われています。「生きた英語」のリスニングにも、文法力や構文力が欠かせないのです。
第1章「話す英語の本質」では、会話の中などで用いられる音声言語の特徴について説明されます。第2章「まずは読む力」では、リスニングを念頭に置いた、英文の読み方について解説されます。第3章「スピーディに読む技法」からは、実際の英文を用いた解説が始まります。話される英語を「先読み」する鍵は文法にあり! 高校までに学習した英文法の知識をリスニングに活用する技術を学びます。
ここで、第3章の内容を少しだけ見てみましょう。最初に解説されるのは「動詞による構造の予測」です。「英語では動詞がその先の文の進行を予言する重要なポイント」になるため、動詞に注目することで英文の内容を理解しやすくなります。
例として、2021年に3度目の緊急事態宣言が出されたときのNippon TV News 24の報道が使われています。抜粋された英文では、「The government is expanding the scope of establishments that will be asked to limit their operations.(政府は営業活動を制限するよう求める施設の範囲を拡大する方針です)」という文の後に、It will ask… と続いていきます。
ここで、「動詞による先読みの力」が試されます。Itがthe governmentを指すだろうと考えることができれば、「政府が何かを求める意向である」という内容だと予測できます。それを踏まえて先を見ると、restaurants that serve…という名詞句があると気づきます。「レストランを求める」では意味が不明確となるので、これは「レストランに…することを求める」という構造ではないだろうかと予測できます。
そこで重要になってくるのが、動詞の語法の知識です。askという動詞はask O to doという形で「Oに…するよう頼む、求める」という意味になります。この知識があれば、restaurantsから始まる名詞句が終わったところで、「…すること」を意味するto不定詞句が登場するはずだとあらかじめ準備しておくことができるのです。
実際の英文は、It will ask restaurants that serve alcohol or offer Karaoke facilities and sores with floorspace of over 1000 square meters to close during the 17-day period. となっています。動詞askとto不定詞句to close…の間に長い関係詞節や等位接続詞andによる並列が挟まったりしていますが、事前にto不定詞句の出現を予測しておければ、音声だけでも「レストランに休業することを求める」という趣旨を無理なく理解することができます。このように、本書では実際の英文が丁寧に解説されていきます。
続く第4章「定型表現は武器だ」では、イディオムや構文、コロケーション(定型表現)について扱われます。よく使われる表現を「丸暗記」することで、ずっと英語が聞き取れるようになります。第5章「結論が見える」は、より大きな視点からの内容予測についてです。文章構成法のパターンを知っておくことで、この後どんな話が展開していくのかを推理することができます。
最後の第6章「アドリブ力を高める」では、ルールや文法から外れた破格的な表現の対処法が説明されます。巻末付録の「カタマリで覚えて理解力を上げる定型表現20」も学習者にはありがたいですね。
ということで、英語のリスニングが上手になりたければ、まずは文法と読解をしっかりと学習してから。つまり、普遍性のある学習方法が結局のところ最も効率的であり、王道こそが最短の道であると本書は教えてくれます。『英語の読み方 リスニング篇』を手にとって、「独学の王道」を歩み始めてみてはいかがでしょうか。
また、近年では英語の学習環境にも大きな変化が見られます。特に、インターネットやアプリを活用した学習方法が一般的になってきています。これにより、いつでもどこでも英語を学べるようになりました。海外に行かなくても、自宅で気軽に外国人講師と直接話すこともできます。学習に効果的な音声や動画素材も手軽に入手できるようになり、英語学習が以前よりもずっとやりやすくなりました。
それでは、日本人の英語力が向上してきているかというと、必ずしもそうではなさそうです。英語が苦手だと感じる人はいまだに多く、特にリスニングやスピーキングなどの音声英語への抵抗感は根強いのです。どうすれば英語をスルスルと聴き取ることができるのでしょうか。今回ご紹介する『英語の読み方 リスニング篇 話し言葉を聴きこなす』(北村一真著、中公新書)は、リスニング力向上のためのポイントを豊富な実例とともに解説してくれます。
「生きた」英語でリスニングを独学しよう
著者の北村一真氏は、杏林大学で外国語学部准教授を務める新進気鋭の英語学者です。英文法や語法などに関心をもち、『英文解体新書』(研究社)、『英文読解を極める 「上級者の思考」を手に入れる5つのステップ』(NHK出版新書)など一般向けの英文解釈の書籍を多数執筆しています。学生時代から塾講師としての豊富な経験があり、複雑な英語の文構造を論理と文法を用いて鮮やかに解き明かす技術に長けた方です。また、X(旧Twitter)での活動も活発で、有益な内容が日々投稿されているため、英語学習に関心のある方はチェックしてみてはいかがでしょうか。さて、本書ですが、「リスニングの本なのに新書形式?」と疑問に思う方もいるかもしれません。新書ですから、もちろんCDなどが付属しているわけではありません。かつては語学書にCDが同梱されるのが一般的でしたが、最近ではMP3データをダウンロードする方式が増えてきています。この本では、それよりもさらに簡単に音声を利用できるようになっています。まず、掲載されている英文のほとんどがインターネット上で簡単に試聴できるものです。そして、各英文素材には動画や音声のページに直接アクセスできるQRコードが付いています。このため、読者は面倒なダウンロード作業をする必要がなく、スマートフォンやタブレットを使って直接リンク先で英文を聞くことができます。
リスニングにこそ文法は重要だ!――基礎を大事にする普遍的な学習法
本書の特徴は、リスニング能力の向上においても「英語を読む力」を重視していることです。本書のタイトルは『英語の読み方 リスニング篇』であり、以前に出版された『英語の読み方 ニュース、SNSから小説まで』(中公新書)の続編という位置づけです。北村氏は、一定の速度で英文を読むことができれば、おのずとリスニングも上達すると言います。逆に、リスニングができない人は、聞き取り以前に読解力の段階で問題がある人が多いということになります。第2章のタイトルは「まずは読む力―リスニングを意識して読む―」です。基礎固めからしっかりと学べる手厚さもありがたいですね。また、北村氏は、リーディングの素材と音声言語の連続性を強調しています。「大学受験の参考書に書いてあるような重箱の隅をつつくような文法は、ネイティブは使わないから無意味!」といった意見をよく目にしますが、これはまったくの誤解だと北村氏は言います。比較的カジュアルな英会話の場面でも、それなりに難度の高い表現や言い回しが使われることがあるというのです。
実例をひとつ、北村氏のX(旧Twitter)から紹介しましょう。
大学受験対策の問題集にはいわゆる「クジラの構文」というものがよく載っています。「こんなものは受験問題くらいでしか見かけない!生きた英語ではない!」と批判する人たちに対して、北村氏は「そんなことないよ」と映画「Vフォー・ヴェンデッタ」のセリフを引用して応えています。
“I am no more that face than I am the muscles beneath it, or the bones beneath them.”(その顔は私ではない。顔の下の筋肉や、その下の骨が私でないとの同様に)
口頭のセリフですが、「難構文」と言われたりもするクジラの構文が普通に使われています。「生きた英語」のリスニングにも、文法力や構文力が欠かせないのです。
本書の内容――実例を用いた解説
本書の構成を簡単にご紹介しましょう。第1章「話す英語の本質」では、会話の中などで用いられる音声言語の特徴について説明されます。第2章「まずは読む力」では、リスニングを念頭に置いた、英文の読み方について解説されます。第3章「スピーディに読む技法」からは、実際の英文を用いた解説が始まります。話される英語を「先読み」する鍵は文法にあり! 高校までに学習した英文法の知識をリスニングに活用する技術を学びます。
ここで、第3章の内容を少しだけ見てみましょう。最初に解説されるのは「動詞による構造の予測」です。「英語では動詞がその先の文の進行を予言する重要なポイント」になるため、動詞に注目することで英文の内容を理解しやすくなります。
例として、2021年に3度目の緊急事態宣言が出されたときのNippon TV News 24の報道が使われています。抜粋された英文では、「The government is expanding the scope of establishments that will be asked to limit their operations.(政府は営業活動を制限するよう求める施設の範囲を拡大する方針です)」という文の後に、It will ask… と続いていきます。
ここで、「動詞による先読みの力」が試されます。Itがthe governmentを指すだろうと考えることができれば、「政府が何かを求める意向である」という内容だと予測できます。それを踏まえて先を見ると、restaurants that serve…という名詞句があると気づきます。「レストランを求める」では意味が不明確となるので、これは「レストランに…することを求める」という構造ではないだろうかと予測できます。
そこで重要になってくるのが、動詞の語法の知識です。askという動詞はask O to doという形で「Oに…するよう頼む、求める」という意味になります。この知識があれば、restaurantsから始まる名詞句が終わったところで、「…すること」を意味するto不定詞句が登場するはずだとあらかじめ準備しておくことができるのです。
実際の英文は、It will ask restaurants that serve alcohol or offer Karaoke facilities and sores with floorspace of over 1000 square meters to close during the 17-day period. となっています。動詞askとto不定詞句to close…の間に長い関係詞節や等位接続詞andによる並列が挟まったりしていますが、事前にto不定詞句の出現を予測しておければ、音声だけでも「レストランに休業することを求める」という趣旨を無理なく理解することができます。このように、本書では実際の英文が丁寧に解説されていきます。
続く第4章「定型表現は武器だ」では、イディオムや構文、コロケーション(定型表現)について扱われます。よく使われる表現を「丸暗記」することで、ずっと英語が聞き取れるようになります。第5章「結論が見える」は、より大きな視点からの内容予測についてです。文章構成法のパターンを知っておくことで、この後どんな話が展開していくのかを推理することができます。
最後の第6章「アドリブ力を高める」では、ルールや文法から外れた破格的な表現の対処法が説明されます。巻末付録の「カタマリで覚えて理解力を上げる定型表現20」も学習者にはありがたいですね。
ということで、英語のリスニングが上手になりたければ、まずは文法と読解をしっかりと学習してから。つまり、普遍性のある学習方法が結局のところ最も効率的であり、王道こそが最短の道であると本書は教えてくれます。『英語の読み方 リスニング篇』を手にとって、「独学の王道」を歩み始めてみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
『英語の読み方 リスニング篇 話し言葉を聴きこなす』(北村一真著、中公新書)
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2024/03/102797.html
<参考サイト>
北村一真氏のTwitter(現X)
https://x.com/Kazuma_Kitamura
※引用元:本文で掲載したセリフ
https://x.com/Kazuma_Kitamura/status/1119550354448740352
『英語の読み方 リスニング篇 話し言葉を聴きこなす』(北村一真著、中公新書)
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2024/03/102797.html
<参考サイト>
北村一真氏のTwitter(現X)
https://x.com/Kazuma_Kitamura
※引用元:本文で掲載したセリフ
https://x.com/Kazuma_Kitamura/status/1119550354448740352
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