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DATE/ 2024.07.26

『努力革命』に学ぶChatGPT 時代の仕事術と活用法


 2022年11月のChatGPT登場から2年近くたちましたが、海外では利用者数が増えている一方、日本では普及が遅れているという話もあります。対話型AIについては、どう使えばいいのか戸惑っている人は結構多いのではないでしょうか。そうした疑問に応えてくれるとともに、ChatGPTをつかって成長するための術を学ぶことができるのが今回紹介する『努力革命 ラクをするから成果が出る! アフターGPTの成長術』(伊藤羊一、尾原和啓著、幻冬舎)という書籍です。

 著者の一人、尾原和啓氏は1970年生まれのIT評論家です。京都大学大学院工学研究科応用システム専攻を修了しています。本文中では「オタクで、AI研究で大学院に住み込み、マッキンゼー、Google、楽天執行役員として常に新しいことをチカラにかえてきました」と紹介されています。

 もう一人の著者である伊藤羊一氏は現在、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長です。2023年6月にはスタートアップスタジオ「Musashino Valley」をオープンし、「次のステップ」に進みたい人の支援を行っています。また単著『1分で話せ』は60万部を越えるベストセラーとなっています。

ChatGPTで壁打ちする

 まず本書で提案されているのは「ChatGPTを壁打ち相手として使う」ことです。壁打ちとは、テニスなどにおいて壁に向かってボールを打ち、跳ね返ってきたボールを打ち返すことで感覚をつかんでいく練習方法です。これと同様に本書ではChatGPTに話を聞いてもらい、返ってきた答えを打ち返すことを繰り返しながら、自分の考えを整理することが推奨されています。

 こうして整理しながら、この先のアイデアを練ったり、問題の解決策を探していくのが練習になります。さらに、このときの対話は次の順番で行うといいとのこと。まずはざっくり聞いて、問題を小分けにする。その後、打ち手を考えて絞り込む。あとはじっくり質問をくりかえす。という手順です。ポイントは返ってきた答えに対して、少しずつ焦点を絞り込んで質問していくことです。

前提となる設定を与えるとより効果的

 また、このとき、ChatGPTへの質問の際に「あなたは○○です」という感じで前提となる設定を与えると、よりその状況に合わせた答えが返ってくるようになります。さらに「10個教えてください」といったように回答数を設定したり、文字数を指定したり、「ビジネスメールに書き換えてください」といった限定を加えたり、また「なるべくたくさんの観点を挙げてください」といった指示を入れたりすることも効果的とのこと。

 注意点として本書で挙げられているのは、ChatGPTは「正解を探すものではない」という点です。ChatGPTに質問しても、間違ったことを堂々と答えることがあります。これは「幻覚(ハルシネーション)」と呼ばれています。ですので、ChatGPTは「対話(チャット)しながら新しいものを一緒に作っていく『共創』のツール」と考えるといいということです。

「頭の良さ」はコピー可能

 本書では、ChatGPTを使えばコピーできるものとして、主に3つ挙げています。「頭の良さ」「経験」「センス」です。そのなかで今回は「頭の良さ」について見ていきたいと思います。

「頭の良さ」とは、「引き出しの多さ(知識量)」とこれを「つなげる力(推論力)」であるといいます。たとえば、ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て「万有引力の法則」を発見しますが、ここでは「ありふれた光景」と「物理学の深い知識」がつなげられています。このことは、日常の具体的事象を世の中の知識を総合して「抽象化」すると、新たな発見につながる可能性があることを意味しています。

 この作業はChatGPTに指示することができます。たとえば、「スターバックスに行列ができている」という事象を見て、「コンビニエンスストアで買うより高いのに、毎朝スターバックスでコーヒーを買ってしまいます。この理由を抽象化し、5個挙げてください」という質問をすると、「体験価値」「ブランドの価値」「社交の場」など5つの理由を挙げて解説した回答が返ってきます。つまり、抽象的な発想を取り出すことができるのです。

AIが最後まで持てないのは「飛ぶ力」

 ということで、ChatGPTを使えばいろいろなことができるようになるのですが、もちろんすべてAIが解決してくれるということではありません。AIは議事録作成やスケジュール調整、市場リサーチ、資料作成などといった場面ではかなりの部分で下支えしてくれますが、注目すべきはそれ以降、意思決定のところです。

 意思決定について、本書には「論理的思考力や合理性によって導き出された答えから『飛ぶ力』」とありますが、AIが最後まで持てないのはこの「飛ぶ力」だというのです。

 たとえば、孫正義さんはソフトバンクグループが赤字を出しているときでも、どんどん設備投資やM&Aをしました。論理的に考えれば「赤字だから、投資はちょっと控えめにして、手元にあるキャッシュをなるべく増やそう」となるところですが、孫さんは「いま勝負に出なければ、千載一遇のチャンスを逃してしまう」という、「勝負師の勘のようなものに従った」のではというのです。

 こういった非合理の判断は一流のリーダーに見られるものですが、このときに「飛ぶ力」が働いているのです。それがどこから生まれるのかというと、自分が「これをやりたい」と強く思うこと、「自分の内から湧き起こる声に従う」ということに尽きるといいます。つまり、意思決定は論理的思考力だけでなんとかなるものではなく、こうして「飛ぶ」のがリーダーの仕事なのです。

 ということで、AIの仕事はそれまでの状況整理で、人間に残されているのは「意思決定という仕事」だということです。

『努力革命』というゲームチェンジに向けて

 ところで、本書のタイトルの『努力革命』とは、どういう意味なのでしょうか。「はじめに」のところにこうあります。

「これからはラクをしなければ、成果を出せません。これまでのようなシンドイ努力をしていたのでは、成果は出せません。そう、ChatGPTの登場によって起きたのは、『努力革命』というゲームチェンジなのです」

 つまり「ラクをするから成果が出る」ということで、そのためのツールがChatGPTだというわけです。本書ではChatGPTの使い方について実践的な解説もされていますが、単に使い方の指南書ではありません。ChatGPTを活用できるようになったうえで、では私たちがやることは何か、私たちに必要な考え方、発想はどのようなものか、という点にも言及しています。ChatGPTに興味がある方はもちろん、シンドイ努力をしているのになかなか成果が上がらないという方はぜひ本書を開いてみてください。きっと成長へのゲームチェンジに向けたヒントが見えてくるはずです。

<参考文献>
『努力革命 ラクをするから成果が出る! アフターGPTの成長術』(伊藤羊一著、尾原和啓著、幻冬舎)
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344042407/

<参考サイト>
尾原和啓氏の公式サイト
https://obarakazuhiro.jp/

尾原和啓氏のX(旧Twitter)
https://x.com/kazobara

伊藤羊一氏の公式サイト
https://www.youichi-itou.net/

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