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『生きのびるための事務』との出会いで変わる「未来の現実」
みなさんは「事務」と聞いて何を思い浮かべますか。おそらく、整然としたデスクが並ぶオフィスや、忙しそうにパソコンと向き合う人々の姿を思い浮かべるのではないでしょうか。一般的に、事務とは、オフィス内で行われる書類整理、データ入力、電話応対、来客対応、ファイリングなどを指し、会社や組織の円滑な運営をサポートするための業務だと考えられています。
そのようなイメージを持っていると、今回ご紹介する書籍『生きのびるための事務』(坂口恭平著、マガジンハウス)のタイトルには違和感を覚えるかもしれません。「事務」と「生きのびる」という言葉の組み合わせは、一見すると結びつかないように思えます。しかし、本書では「事務」という言葉を非常に広く解釈しています。それは、「事務」とは「夢を現実にするための技術」であるという考え方です。本書は、自分が思い描く理想の生活、その実現のために必要な技術を、著者の実体験に基づいて解説する一冊です。
坂口氏の著作は非常に多く、代表的なものだけでも『0円ハウス』(リトルモア)、『TOKYO 0円ハウス0円生活』(河出文庫)、『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(角川文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『現実脱出論』(増補・ちくま文庫)、『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『お金の学校』(晶文社)などがあります。また、小説には『幻年時代』(幻冬舎文庫)、『徘徊タクシー』(新潮文庫)、『けものに
なること』(河出書房新社)などがあります。
坂口氏は大学4年生のときに就職活動をしていなかったため、卒業と同時に無職となりました。高円寺の家賃2万8千円、4畳半のアパートに住み、漠然と芸術家になりたいと考えていた若者が、その後どのようにして「生きのび」てきたのかが本書で解説されています。漫画家の道草晴子氏によって描かれた漫画で表現されていることもあり、とても読みやすく、どんどん読み進めることができます。
坂口氏は「僕は作家である前に、れっきとした事務員である自覚があります」と語っています。20年前、当時の坂口氏は、芸術家としてやりたいことのイメージが漠然とあったものの、具体的なやり方がわからず何もできていませんでした。坂口氏はそんな自分を冷静に見つめるもう一人の自分に事務員の「ジム」と名付け、以来ずっとともにいると言います。本書は、20年前の坂口氏と、イマジナリーフレンドであるジムとの対話を通じて進行していきます。
「事務は『量』を整える」(第1講)、「現実をノートに描く」(第2講)、「未来の現実をノートに描く」(第3講)、「事務の世界には失敗がありません」(第4講)、「毎日楽しく続けられる事務的『やり方』を見つける」(第5講)、「事務は『やり方』を考えて実践するためにある」(第6講)、「事務とは好きとは何か?を考える装置でもある」(第7講)、「事務を継続するための技術」(第8講)、「事務とは自分の行動を言葉や数字に置き換えること」(第9講)、「やりたいことを即決で実行するために事務がある」(第10講)、「どうせ最後は上手くいく」(第11講)。
目次を眺めてみると、本書における「事務」とは、一般的なイメージとは異なり、個人の生活や夢の実現をサポートするための技術や方法論を指していることがわかるはずです。
具体的な内容について、少々見てみましょう。まず、「お金の管理」から。
ジムは次のように言います。「まずは《量》を知ることです。この《量》という世界を整えるのが、今から私が教える《事務》という職務なのです」。大学を卒業したばかりの坂口氏は、ジムとの対話を通じて、1ヶ月にかかるお金の量を紙に書き出していきます。家賃、食費、奨学金の支払い、国民年金、光熱費などを書き出していくと、1ヶ月に11万円かかることがわかりました。そこで、日給3万円の日雇い仕事を月に4回すれば、必要なお金を確保できることになります。残りの時間は創作に打ち込むことができるため、これでお金の問題は解決です。
続いて、「現実をノートに描く」では、2001年のある日のスケジュールが示されています。午前0時から5時までは睡眠時間。起きてから9時まで読書。13時まで家の外で写真撮影。その後、16時まで絵を描いたり、歌を作ったりして過ごす。18時まで高円寺の商店街を散歩、途中古本屋で立ち読み。家に帰ってご飯を食べ、銭湯に行って帰ってきたら、もう20時。あとは日が変わるまでマイルス・デイビスの音楽を聴いて過ごす。
夜の21時から朝の5時まではしっかり8時間の睡眠。起きてから9時まで執筆し、10時までコーヒーを飲みながら読書。12時まで好きに絵を描いて、1時間ほど散歩しながら、途中コンビニでおにぎりを買ってお昼ご飯代わりに。家に帰ってから17時までは作曲をして、19時までは依頼仕事をこなし、ゆっくりご飯を食べたら就寝。
「未来の現実」を書き出すことで、10年後にその生活を実現するために今すべきことが明確になってきます。
「将来の夢とか、マジでどうでもいいの分かります?」
「分かる分かる。《将来の夢》だとふわふわするけど、《将来の現実》はこのようになりますってことだったら、ノートに描いて示せるね」
「《将来の現実》が見えていない以上、その仕事を上手く発展させていくなんてことは、できないでしょう。……《将来の現実》が《現在の現実》にしっかり根付いてきたら、次は《将来の夢》へ向かっていくんです」
「とてもわかりやすいよジム」
このように、本書は「夢を現実にするための技術」が著者の体験談とともに解説されています。発想を少し変えるだけで、途端に人生が前に進み始める。それが「事務」のすごさなのです。本書を通じて、あなた自身の「ジム」に出会ってみてはいかがでしょうか。特に「自分に自信がない」「悩んで行動に移せない」という方にとっては、きっと大事な出会いになることでしょう。
そのようなイメージを持っていると、今回ご紹介する書籍『生きのびるための事務』(坂口恭平著、マガジンハウス)のタイトルには違和感を覚えるかもしれません。「事務」と「生きのびる」という言葉の組み合わせは、一見すると結びつかないように思えます。しかし、本書では「事務」という言葉を非常に広く解釈しています。それは、「事務」とは「夢を現実にするための技術」であるという考え方です。本書は、自分が思い描く理想の生活、その実現のために必要な技術を、著者の実体験に基づいて解説する一冊です。
「作家である前に、事務員」ってどういうこと?
著者の坂口恭平氏は、作家、画家、音楽家など多彩な活動を行う人物です。1978年に熊本県で生まれ、早稲田大学理工学部建築学科を卒業しました。大学時代には、路上生活者が作り出す「建築」を調査し、それを記録して卒業論文として提出しています。この論文は後に『0円ハウス』(リトルモア)として出版されました。坂口氏の著作は非常に多く、代表的なものだけでも『0円ハウス』(リトルモア)、『TOKYO 0円ハウス0円生活』(河出文庫)、『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(角川文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『現実脱出論』(増補・ちくま文庫)、『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『お金の学校』(晶文社)などがあります。また、小説には『幻年時代』(幻冬舎文庫)、『徘徊タクシー』(新潮文庫)、『けものに
なること』(河出書房新社)などがあります。
坂口氏は大学4年生のときに就職活動をしていなかったため、卒業と同時に無職となりました。高円寺の家賃2万8千円、4畳半のアパートに住み、漠然と芸術家になりたいと考えていた若者が、その後どのようにして「生きのび」てきたのかが本書で解説されています。漫画家の道草晴子氏によって描かれた漫画で表現されていることもあり、とても読みやすく、どんどん読み進めることができます。
坂口氏は「僕は作家である前に、れっきとした事務員である自覚があります」と語っています。20年前、当時の坂口氏は、芸術家としてやりたいことのイメージが漠然とあったものの、具体的なやり方がわからず何もできていませんでした。坂口氏はそんな自分を冷静に見つめるもう一人の自分に事務員の「ジム」と名付け、以来ずっとともにいると言います。本書は、20年前の坂口氏と、イマジナリーフレンドであるジムとの対話を通じて進行していきます。
「事務」とは夢を現実にするための技術
「《事務》って言うとどうしても、家計簿とか領収書・請求書書いて、毎月いくら必要で、いくら稼いでみたいなイメージで……」と言う坂口氏に対して、ジムは「そんな《事務》は一番ダサいやつです」と返します。「事務」とは一体何のことでしょうか。本書の目次を見てみましょう。「事務は『量』を整える」(第1講)、「現実をノートに描く」(第2講)、「未来の現実をノートに描く」(第3講)、「事務の世界には失敗がありません」(第4講)、「毎日楽しく続けられる事務的『やり方』を見つける」(第5講)、「事務は『やり方』を考えて実践するためにある」(第6講)、「事務とは好きとは何か?を考える装置でもある」(第7講)、「事務を継続するための技術」(第8講)、「事務とは自分の行動を言葉や数字に置き換えること」(第9講)、「やりたいことを即決で実行するために事務がある」(第10講)、「どうせ最後は上手くいく」(第11講)。
目次を眺めてみると、本書における「事務」とは、一般的なイメージとは異なり、個人の生活や夢の実現をサポートするための技術や方法論を指していることがわかるはずです。
まずは《量》を知ること――《現在の現実》を把握する
本書の内容を一部ご紹介しましょう。第1講の「事務は『量』を整える」では、スケジュールとお金の管理が事務の重要な仕事であるとされています。第2講の「現実をノートに描く」では、現状を具体的に書き出し、視覚化することで把握する方法が説明されています。そして、第3講の「未来の現実をノートに描く」では、未来の計画や目標を具体的に描き出し、実現へのステップを明確にすることの必要性が語られています。具体的な内容について、少々見てみましょう。まず、「お金の管理」から。
ジムは次のように言います。「まずは《量》を知ることです。この《量》という世界を整えるのが、今から私が教える《事務》という職務なのです」。大学を卒業したばかりの坂口氏は、ジムとの対話を通じて、1ヶ月にかかるお金の量を紙に書き出していきます。家賃、食費、奨学金の支払い、国民年金、光熱費などを書き出していくと、1ヶ月に11万円かかることがわかりました。そこで、日給3万円の日雇い仕事を月に4回すれば、必要なお金を確保できることになります。残りの時間は創作に打ち込むことができるため、これでお金の問題は解決です。
続いて、「現実をノートに描く」では、2001年のある日のスケジュールが示されています。午前0時から5時までは睡眠時間。起きてから9時まで読書。13時まで家の外で写真撮影。その後、16時まで絵を描いたり、歌を作ったりして過ごす。18時まで高円寺の商店街を散歩、途中古本屋で立ち読み。家に帰ってご飯を食べ、銭湯に行って帰ってきたら、もう20時。あとは日が変わるまでマイルス・デイビスの音楽を聴いて過ごす。
夢をかなえるためのステップ――《将来の現実》をイメージする
いまの現実が把握できたら、今度は「未来の現実」です。ポイントは「好きなことだけ」で決めることです。ジムに言われた通り、坂口氏は10年後の自分の生活をノートに書いてみます。夜の21時から朝の5時まではしっかり8時間の睡眠。起きてから9時まで執筆し、10時までコーヒーを飲みながら読書。12時まで好きに絵を描いて、1時間ほど散歩しながら、途中コンビニでおにぎりを買ってお昼ご飯代わりに。家に帰ってから17時までは作曲をして、19時までは依頼仕事をこなし、ゆっくりご飯を食べたら就寝。
「未来の現実」を書き出すことで、10年後にその生活を実現するために今すべきことが明確になってきます。
「将来の夢とか、マジでどうでもいいの分かります?」
「分かる分かる。《将来の夢》だとふわふわするけど、《将来の現実》はこのようになりますってことだったら、ノートに描いて示せるね」
「《将来の現実》が見えていない以上、その仕事を上手く発展させていくなんてことは、できないでしょう。……《将来の現実》が《現在の現実》にしっかり根付いてきたら、次は《将来の夢》へ向かっていくんです」
「とてもわかりやすいよジム」
このように、本書は「夢を現実にするための技術」が著者の体験談とともに解説されています。発想を少し変えるだけで、途端に人生が前に進み始める。それが「事務」のすごさなのです。本書を通じて、あなた自身の「ジム」に出会ってみてはいかがでしょうか。特に「自分に自信がない」「悩んで行動に移せない」という方にとっては、きっと大事な出会いになることでしょう。
<参考文献>
『生きのびるための事務』(坂口恭平著、マガジンハウス)
https://magazineworld.jp/books/paper/3270/
<参考サイト>
坂口恭平氏のX(旧Twitter)
https://x.com/zhtsss
0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-のホームページ(日本語版)
https://www.0yenhouse.com/house.html
『生きのびるための事務』(坂口恭平著、マガジンハウス)
https://magazineworld.jp/books/paper/3270/
<参考サイト>
坂口恭平氏のX(旧Twitter)
https://x.com/zhtsss
0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-のホームページ(日本語版)
https://www.0yenhouse.com/house.html
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