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DATE/ 2015.11.05

幸せのU字曲線…40~50代におとずれる「中年の危機」を乗り越えるには?

 「中年の危機」という言葉をご存じだろうか。主に40代~50代にやって来る精神的な危機のことで、「本当にこのままでよいのだろうか」「悔いのない人生を送れるのだろうか」と悩んだ結果、何らかの依存性になったり、最悪の場合ドラッグや自殺に走るケースが少なくないのだ。中年の危機とはいったいどういうことなのだろうか。どうすれば克服できるのか。

中年は、生活満足度が低い

 イギリスの国家統計局は、毎年20万人ほどの幸福度を調査している。「生活満足度」「やりがい」「昨日の幸福度」「昨日の不安度」を聞いているのだが、45~49歳が、生活満足度・やりがい・昨日の幸福度が最も低く、50~54歳はどの年齢層よりも昨日の不安度が高い。統計的にも、中年の危機が確認されているというわけだ。

 特に生活満足度と年齢の関係を示すグラフは「U字曲線」を描くことがわかっている。若者と老人は比較的高く、中年で最も下がるのだ。とても面白い最新の研究結果によれば、幸福はゴリラ、チンパンジー、オランウータンなどの大型類人猿でも同様のU字曲線になっているという。

「幸福のU字曲線」は期待と関係か

 幸福度がU字曲線になる理由として、「期待」と関係しているという仮説がある。若者は、年を取ればもっとよい生活ができるだろうと考えるが、実際に中年になってみると期待以下ということが多く、逆に中年時に思い描くほど、老年の生活は悪くないのではないかと想定できる。ゴリラやチンパンジーも、その点で私たちと同じなのかもしれない。

 なお、すべての幸福度がU字になるわけではない。生活満足度は40~50代で一気に落ちるが、日々の快楽に対する評価は年齢によってそれほど変わらないことがわかっているし、ドイツ人の調査では、やりがいは中年が最も高くなる「逆U字曲線」を描く。

 全体的に見れば、「中年の危機」は確かにあるのだが、国民性、個別性を考慮して、一つひとつを細かくみていくと、幸福度はかなり複雑だ。当然、かなり幸福な中年も存在している。

誤った願望/予測/思い込みが問題だ

 では、中年の危機はどのように脱すればよいのか。中年に限らず、幸福になるための方法として、ポール・ドーラン氏が『幸せな選択、不幸な選択―行動科学で最高の人生をデザインする』でお勧めしているのは、まず「誤った願望」「誤った予測」「誤った思い込み」から解放されることだ。

 誤った願望とは、自分が幸せになれるものとは違う目標を持つことだ。たとえば、本当は家族とゆっくりする時間が一番幸せにもかかわらず、金持ちを目指している人は、なかなか家族との時間をつくれず、いつまでも幸せになれないだろう。

 誤った予測とは、たとえば「東京に行けば幸せになれる」「天気が良いところに住めば幸せになれる」といったもので、私たちはこうした予測がうまくできない。

 誤った思い込みとは、自分は優秀だ、料理が上手だ、などと過度に自信をもち、過度に期待し、上手に自分を受け入れられないことである。

 これらから解放されるだけで、人生はかなり変わってくる。そのために重要なのは、自らが幸せだと思うことに集中することだ。誤った願望、誤った予測、誤った思い込みに注意を向けず、ただ幸せに注意を向けるのである。

<参考文献>
・『幸せな選択、不幸な選択―行動科学で最高の人生をデザインする』(ポール・ドーラン/早川書房)
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授