社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
なぜ日本人は空気を読むのか?多神教の世界にみる欧米との違い
「KY」という言葉を聞かなくなって久しい。この流行語一つとってもわかるとおり、日本では空気を読むことが美徳とされてきた。一方で、以前から、空気を読みすぎることの弊害があるともいわれている。そこで、なぜ日本人は空気を読むのか、空気を読むのがよいのかどうかを改めて考えてみたい。
では、「空気」とはいったい何なのか。山本七平氏は、名著『「空気」の研究』で、空気とは古代ギリシア語のプネウマやアニマとほぼ同意だといっている。プネウマやアニマとは、風・空気を示すとともに、息・呼吸・気・精・たましい・精神などを意味する言葉だ。場の空気とは、風のように捉えがたい「気」のようなものである。
山本氏は、その原因を一神教に見ている。一神教の世界では、絶対なのは神だけで、他はすべて徹底的に相対化される。場の空気も相対化されるため、空気が絶対化されて、場を支配することが少ない。場の空気に対して反論を投げつけ、議論を進めていくのがむしろ普通の行為となっているのが、欧米の文化である。
対して、日本はアミニズム、多神教の世界であり、相対化はない。あらゆるものが神になりうるわけで、絶対化の対象が無数にある。だから、たとえば経済成長と環境問題は相対的に把握されず、一時期は「経済成長」が絶対化され、次は「環境問題」が絶対化されるという形になる。流行の移り変わりが速く、熱しやすく冷めやすいのは、日本が空気の支配に弱いからなのだ。こうした日本の特徴は、以前より少し弱まったかもしれないが、依然として続いていると見てよいだろう。
場の空気は、風のように捉えがたい
「あの場ではああ言うしかなかったけれど、あの決定はちょっとね…」。こうした言葉を、日本ではいまもよく耳にする。空気が場を支配している何よりの証拠である。不祥事が起きても、誰一人きちんと責任を取らない組織がたくさんあるのは、「悪いのは私じゃない。場の空気がそうさせたのだ」と責任転嫁できる文化があるからだ。では、「空気」とはいったい何なのか。山本七平氏は、名著『「空気」の研究』で、空気とは古代ギリシア語のプネウマやアニマとほぼ同意だといっている。プネウマやアニマとは、風・空気を示すとともに、息・呼吸・気・精・たましい・精神などを意味する言葉だ。場の空気とは、風のように捉えがたい「気」のようなものである。
欧米にも空気はあるが、支配されにくい
間違ってはならないのは、「空気」は、別に日本だけにあるものではないということだ。空気は、世界中にある。しかし、少なくとも欧米は日本のように、場が空気に支配されることは少ない。山本氏は、その原因を一神教に見ている。一神教の世界では、絶対なのは神だけで、他はすべて徹底的に相対化される。場の空気も相対化されるため、空気が絶対化されて、場を支配することが少ない。場の空気に対して反論を投げつけ、議論を進めていくのがむしろ普通の行為となっているのが、欧米の文化である。
対して、日本はアミニズム、多神教の世界であり、相対化はない。あらゆるものが神になりうるわけで、絶対化の対象が無数にある。だから、たとえば経済成長と環境問題は相対的に把握されず、一時期は「経済成長」が絶対化され、次は「環境問題」が絶対化されるという形になる。流行の移り変わりが速く、熱しやすく冷めやすいのは、日本が空気の支配に弱いからなのだ。こうした日本の特徴は、以前より少し弱まったかもしれないが、依然として続いていると見てよいだろう。
空気支配から脱却すべきではないのか
「イノベーション」が流行語になって久しいが、イノベーションは空気を読んでいては起こせない。「多様性」を重視する企業が増えているが、皆が空気を読んでいては多様性の意味はない。そろそろ日本は、空気の支配から脱却する時期に来ているのではないだろうか。そのためには、まず何よりも、物事を相対的に眺める習慣を身につける必要があるだろう。その第一歩として、一人ひとりが空気を読むのをあえて止めてみてはどうだろうか。
<参考文献>
・『「空気」の研究』(山本七平/文藝春秋)
・『「空気」の研究』(山本七平/文藝春秋)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方
プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方
プロジェクトを進める際にPDCAサイクルの概念は欠かせない。国際標準PMBOKでは、PDCAを応用した「立上げ」「計画」「実行」「監視コントロール」「終結」の5段階をプロジェクトに有用とし、複数フェーズでそれを回す。ステーク...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/10
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
役者絵からキャリアを始め、西洋の画法を取り入れながら読本の挿絵を大ヒットさせた葛飾北斎。その後、北斎が描いていった『北斎漫画』や浮世絵などの数々は、海外に衝撃を与えてファンを広げるほどのものになっていく。60代は...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/06
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24


