社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.11.29

社会・経済の出来事を追体験できる!おすすめのビジネス小説

「事実は小説よりも奇なり」。ことわざにもあるように、現実で起きることは、時に小説よりも奇妙で面白いことがある。では事実に基づいて小説を書いたら面白いのでは?その通り。中でも実際に起きたことをなぞって書かれたビジネス小説は、小説だからこそ書ける内容が盛りだくさんで読み応えのある作品が多いのだ。

 社会派小説を数多く残した山崎豊子著「沈まぬ太陽」は、日本航空と同社の労働組合を中心とした作品。あくまでフィクションのため舞台となる航空会社は「国民航空」という名称だが、日本航空がモデルとなっていることは明白。「御巣鷹山編」では単独機の航空事故で世界最多となる死者を出した日本航空123便墜落事故をモデルとした事故が描かれている。

 「半沢直樹」シリーズで知られる池井戸潤の作品「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」はそれぞれ三菱自動車のトラック脱輪事故やリコール隠し、大手ゼネコンの談合事件がモデル。著者が三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)で勤務した経験から、銀行と企業の生々しい“戦い”もストーリーに深く関わってくる。

 一風変わった作品はホリエモンこと元ライブドア社長の堀江貴文著「拝金」。彼の自伝的小説とも言える作品で、ITバブルが華やかな時代、そしてライブドア絶頂期にホリエモンがどう考え、テレビに映らない場所では何をしていたのか、小説という形で“暴露”している。ストーリーとは直接関係がない部分ではあるが、当時のIT長者たちのえげつない豪遊っぷりは一読の価値がある。

 最近の作品では、今年9月に発売された幸田泉著「小説新聞社販売局」の描写も生々しい。ストーリーは「半沢直樹」シリーズを思わせるような逆襲、困難克服的なものだが、特徴はタイトル通り新聞社の販売局を舞台としていること。記者とは違い脚光を浴びることが少ない販売局(販売部数増を図るため、新聞販売店の管理などを行う部門)の暗部を“告発”している。著者本人が新聞社で記者、販売局員を担当した経験があるため、リアルな表現が出来るのだろう。

 ノンフィクションの場合、著者が取材した内容を取捨選択することはあっても、事実をねじ曲げて書くことは許されない。だが小説はフィクションなので、事実を「盛る」こともできるし、架空の話を織り交ぜることもできる。逆にほぼノンフィクションと言えるほど徹底的に現実路線で書くこともできる。

 告発、暴露系のノンフィクションは名誉棄損を始めとした訴訟リスクがあるが、実は小説なら何を書いても大丈夫というわけではない。高杉良が2004年に上梓した「乱気流-小説・巨大経済新聞」は日本経済新聞の子会社の不正経理を描いた作品だったが、当時の鶴田卓彦社長は単行本出版などの差止めと損害賠償、謝罪広告掲載を求めて提訴。東京地裁は一部の名誉棄損を認め、470万円の支払いを命じた、というケースもある。

 エンタメ作品として楽しみつつ、社会・経済の出来事を追体験することもできるジャンル、ビジネス小説。日々忙しく過ごしている社会人にぜひ一読をおすすめしたい。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
2

近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ

近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(3)医療の大転換と日本の可能性

ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードす...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/19
3

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
5

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題

半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24