社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.04.01

「志のない若者」は本当に増えているのか?

 4月、新学期、入社式、入学式の季節です。でも最近、「若者に覇気がない」とか、「志のない学生が増えた」とか、「元気のない子どもをよく見かける」といった話を聞く機会が増えました。いったいなぜでしょう?

志がないのは若者ではない

 第28代東京大学総長で現在、三菱総合研究所理事長を務める小宮山宏氏は、こう答えています。

 “生まれてくる若者は白紙です。そこからどうやって、どのように若者が育っていくか。もし「今の若者には志がない」と思っているのであれば、それは「社会が志を失ってきている」ということです。”

 つまり、志を失っているのは、学生や子どもというよりも、「社会」ということです。

 小宮山氏は続けて、こう語ります。

 “実は、これは日本の状況の変化と非常に関係が深いのです。それは、日本がかつて途上国だったということです。
 途上国は、社会が志を持つことが簡単です。それはどういうことか。「追いつく」ということ、追いつくべきモデルがあるということです。
 われわれの時代であれば、極論、非常に象徴的に言うと、ハリウッドの映画に見たあの生活や、ヨーロッパにある美しい街並み、そういった先進国があって、そこに追いつくということですから、モデルは明確なのです。”

 かつて日本が途上国であった頃は、先進国という明確なモデルが存在していたため、誰もが志を持つことは容易でした。しかし、今や先進国となった日本は、自らがビジョンを作り、次代に志を示さなければならず、かつてのように志を持ち、それを見せるということが容易ではないということです。

「分かる」体験で、学生の目つきが変わる

 では、志のある学生、志ある子どもを育てるにはどうしたらいいのでしょうか?

 その答えは極めて簡単だと小宮山氏は言います。それは、「大人が志を見せること」です。若者は、親や学校の先生、あるいは会社の上司など周囲の大人を見て育っていくもの。大人が背中で語り、志を見せるというのが、志のある若者を育てる社会の教育力だというのです。

 そして、もうひとつ大切なことがあります。小宮山氏は、それを「知的な独立」と言っています。

 例えば、夜歩いていると、お月様は一緒に歩いているように見えますよね。あれはどうしてそう見えるのでしょう? そんな何気ない疑問でいいのです。小宮山氏は東大教授時代、学生たちにこう語りかけたそうです。

 「自分が『分かった!』というところまで考えてごらんよ」

 この経験をすると、学生の目つきが変わるといいます。つまり、もうひとつの大切なこととは、若者に「分かった!」という経験を持たせること。与えられた知識に頼らず、一つのことをとことん考え、自分自身で「分かった!」と感じる体験が重要なのです。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想

平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
2

PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方

PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方

プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方

プロジェクトを進める際にPDCAサイクルの概念は欠かせない。国際標準PMBOKでは、PDCAを応用した「立上げ」「計画」「実行」「監視コントロール」「終結」の5段階をプロジェクトに有用とし、複数フェーズでそれを回す。ステーク...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/10
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
3

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
4

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化

浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
5

布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方

布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方

熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方

眠る環境は各家庭の状況や個人の好みによって大きく異なるが、一般的に「良い睡眠」のために望ましい環境はどのようなものだろうか。布団や枕などの寝具、エアコンなどの室温コントロールを含めた寝室の環境、また寝つきの良く...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/12/07
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授