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DATE/ 2016.06.22

人気再燃の「カセットテープ」その理由とは?

カセットテープが最先端カルチャーだった頃

 1970年代後半から1980年代にかけて、カセットテープはおしゃれなユースカルチャーの先端をゆく花形アイテムとして大ブームを起こしました。

 『FM fan』や『FM STATION』などのFM雑誌の番組欄をマメに眺めては気になる曲をエアチェック(ラジカセでラジオ番組やそこで流れる曲をカセットに録音すること)。お気に入りの曲がみつかったら、YOU & Iなどの貸しレコード屋でその曲が入ったアルバムを借りてきて、カセットにダビング。はたまた電波状況のわるいなか、ノイズ混じりのAM番組を必死にエアチェック。

 いざ録音が終わると、カセットのインデックスシートに曲名や番組名や模様を手描きしたり、レタリングシートのアルファベットや数字をインデックスシートに転写しながら、オリジナルのインデックスシートへとカスタマイズ。さらには、切り取ったアイドルやアーティストの写真、おしゃれなイラストなどを挟んでオリジナルケースを作ったり……。

 テレビをつけるとWHAM!やスティービー・ワンダーら洋楽のポップスター、チェッカーズや斉藤由貴らアイドルが出演するカセットテープのCMが毎日流れていました。ノーマルポジション、高音質のハイポジション、さらに高音質で高価なメタルポジションといった3タイプから、おこづかいと相談しながら購入しては、せっせとオリジナルテープ作りに励んだものです。

コミュニケーションツールでもあったカセットテープ

 当時は、カセットテープを友達と貸し借りしたり、プレゼントすることも大きな楽しみでした。「絶対聴いてほしい!」というアルバムを録音したカセットテープを渡して聴いてもらう。ダブルカセット式のラジカセでお気に入りの曲だけをダビングしたオリジナルテープを作っては友達と交換。ラブソングだけをダビングしたテープを片想いの相手にドキドキしながら渡したり……。

 このようにカセットテープはコミュニケーションツールでもありました。オリジナルのカセットテープが個性の主張であり、交流の橋渡しとなったわけです。

ダブルにトリプル! ラジカセ人気もすごかった

 カセットテープ人気と切っても切れない関係にあったのが、ラジカセブームです。

 カセットテープが登場したのは1962年のこと。当初は会議の録音などに利用されることが多かったのですが、高音質のFMステレオ放送が始まり、1970年代からラジカセが一般家庭に普及してゆくにつれてエアチェックが大流行。また、かわいらしいデザインと、持ち運びしやすいコンパクトさをウリにしたラジカセをメーカーが競って発売したことで、女子人気も獲得。テレビの前にラジカセを置いて、好きな曲が流れるタイミングで「静かにして!」と言いながら録音ボタンを押す風景が、全国のお茶の間でみられました。

 また1980年代に入ると、2本、3本のカセットを入れられるダブルラジカセ、トリプルラジカセが登場。レコードプレーヤー、ラジオチューナー、カセットデッキ、アンプが積み重なったシステムコンポも流行。カセットテープからカセットテープ、レコードからカセットテープへと簡単にダビングできるようになったことで、人気はさらに爆発します。ここでカセットテープは、コミュニケーションツールとしての主役の座を手にしたといってもいいでしょう。

 1979年にはソニーが携帯型カセットプレーヤー『ウォークマン』を発売したことも革命的なターニングポイントでした。室内で聴くものだった音楽に、外に持ち運んで「いつでも、どこで聴ける」リスニングスタイルがもたらされたのです。「外で聴くスタイル」でいうと、カセットテープがドライブデートのキラーツールとなったことも、ブームを後押しした一因として触れておきます。

カセットテープからMD、そしてデジタル配信へ……

 時代がアナログからデジタルに移るにつれ、音楽メディアもレコードからCDへ、カセットテープからMDへと移っていきます。1982年、日本のCBSソニーが世界で初めて音楽CDを発売。1986年にはCDの生産枚数がLPレコードを逆転しますが、まだこの時点ではカセットテープは録音メディアとしての主流の座を保っていました。しかし、1992年にMDが発売されたことで、徐々に姿を消していくことになります。

 1990年代後半になると、携帯電話や家庭用パソコンの普及と共に音楽配信が最新のリスニングスタイルに。2001年に登場した携帯型デジタルプレーヤーのiPodが大ヒットしたことで、ついにカセットテープは録音メディアとしての役目を終えることになったのです。

2010年前半からカセットテープ復活のきざし!

 ただ2000年代に入ってもカセットテープは、「カセット&ラジカセ文化」を根っこに持つヒップホップやレゲエ、高齢のファンが多い演歌という特定のジャンルで細々と生き残ってきました。

 そんな中、2010年前半から、「昭和なつかし文化ブーム」やアナログレコードの人気再燃に乗って、カセットテープとラジカセが再び脚光を浴びることになってきます。カセットテープから聴こえるちょっとしたノイズや、温かみのある耳障り、劣化してゆく風合いにやすらぎを求める人が増えたのです。

 また、カセットテープの音をMP3音源に変換できるオーディオ機器が発売されたことで、カセットテープに、久しぶりに触れた人が多いのも、人気再燃のきっかけの遠因に思えます。

 カッコいいものに敏感な若い音楽ファンにも、カセットテープとデザイン性にすぐれたラジカセは好評。2014年に渋谷・宇田川町にオープンしたHMV records shopはカセットの販売にも力を入れ、2015年にはアパレルブランドのビームスが運営するレコードショップ『BEAMS RECORDS』は、カセットテープを集めた企画展を開催しました。2015年夏、中目黒にオープンした中古カセット&ラジカセ専門店「waltz(ワルツ)」は、おしゃれで新しい音楽スポットとして話題を呼んでいます。

 ジャスティン・ビーバーやカニエ・ウェストといった大物アーティストがカセット版をリリースしたように、この風潮は世界的なものです。

 懐かしさに触れて、カセットテープのよさを再発見するもよし。個性的にカスタマイズできる手作り感を楽しむもよし。今こそ、カセットテープの魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

<参考サイト>
・SONY
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-10.html
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press_Archive/200209/02-0902/
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授