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DATE/ 2016.07.23

中卒と大卒はこれだけ違う!学歴と生涯賃金の差

 人生の損得とはなにか。果たしてプラスな人生やマイナスな人生があるのか。自分の人生はどうなのか。そんなことはコラムで読んだり書いたりするには、ちょっと重すぎる話題ですね。

 でも、どうしても「損得」や「差し引き勘定」が気になる人のために、独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)が発表しているデータから「生涯賃金」について調べてみました(参照:「ユースフル労働統計 2014」)。

大卒と中卒の生涯賃金は、1億円の差

 生涯賃金は、ひとりの労働者が生涯にわたって獲得する賃金の総額を指しています。学歴が高くなるにつれて増えますが、一体どの程度、差がつくのでしょうか。

 ここでは、中学、高校、大学などそれぞれの学校を卒業した男性がその後すぐに就職し、60歳で退職するまでフルタイム労働を続けて、60歳で退職金を受け取り、その後も平均的な引退年齢(69.3歳)まで働き続けた場合で比較してみました。

 生涯賃金はそれぞれ、中学卒で約2億1千万円、高校卒で約2億3千万円、高専・短大卒で約2億円5千万円、大学・大学院卒で約3億2千万円という金額が算出されています。

 ちなみに女性の場合は、60歳まで働いたケースの数字しか発表されていません。女性、男性の順に並べると、中学卒では女性:1億1千万円・男性:1億7千万円、高校卒では女性:1億3千万円・男性:1億9千万円、高専・短大卒では女性:1億6千万円・男性:2億円、大学・大学院卒では女性:2億円・男性:2億5千万円です(すべて約を省略)。

高卒で大企業に勤めた方が、大分お得?

 この金額を比べて、「こんなものだろう」と思われますか?それとも「思ったより多いから、やっぱり学歴は大事」だと思われますか?

 実は、データはさらに詳細に分かれています。所属する企業の規模によって、事情は大きく変わるからです。たとえば、大学・大学院卒で社員数10~99人のいわゆる中小企業に就職した人が60歳までに支給されるのは1億9430万円。それに比べて、1000人以上の大企業に入った高卒者の場合は2億3300万円の生涯賃金と、学歴の差があっても優位が逆転するのです。

 また、このおよそ4000万円の差には、大学入試までの塾や予備校の費用と大学での4年間の学費や生活費などを合わせるとさらに実質的な積み上げがあります。社会人となってからの出世競争にともなう大量の残業、中間管理職としてのストレス、リストラへの恐怖、家庭生活を犠牲にすることとそのツケなどを考え合わせると、「人生の損得勘定」という天秤は果たしてどちらに傾いているでしょうか。

無慈悲な取立てが問題視された「奨学金」の負担

 さらに、最近の高学歴低所得者層を脅かしている問題に「奨学金の返済」があります。すでに4年ほど前になりますが、2012年3月、日本共産党の宮本岳志議員が衆院文部科学委員会で「奨学金の無慈悲な取り立て問題」を追及し、その実態が明らかになったものです。

 日本学生支援機構(JASSO)が貸与する奨学金の返済が延滞した場合、債権回収会社による督促がありますし、延滞金も発生します。貸与された年度によって差はありますが、2016年3月27日までの延滞分は年利10パーセント、それ以降は5パーセントの年利が加算されるようです。

 さらに、個人信用情報の取り扱いに関する同意書を提出している場合、返還開始後6カ月時点で延滞3カ月以上の場合に個人信用情報機関に個人情報が登録されます。いわゆる「ブラックリスト」であり、クレジットカードが発行されなかったり、利用が止められたりするほか、各種料金の引き落としや自動車ローンなどにも支障をきたすことになります。この扱いは、返済終了から5年間は消えません。

 理工系や法科大学院など、長期にわたる奨学金の利用は、総額にすると思わぬ額にふくらんでいる場合もあります。教育のためなら多少の無理は必要悪とする風潮も、考える時期なのかもしれません。

<参考サイト>
・「ユースフル労働統計 2014」
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10250095/www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/2014/documents/useful2014.pdf
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