●第三は、創業と守成のどちらが困難か
続けて第三章を読んでいきたいと思います。「貞觀十年、太宗、侍臣に謂いて曰く、帝王の業」、トップの仕事としては「草創と守文と孰(いず)れか難(かた)き」か。「貞観政要という本をご存じですか」と聞くと、多くの人は「知っていますよ。あの「創業」と「守成」のどちらが難しいかを言っているあの本ですね」と言います。その通り、ここは非常に有名になった箇所です。ですので、正しく読むのがいいと思います。
「帝王の業、草創と守文と孰れか難き」と言います。草創と守文については、少し解説をしておかないといけないところがあります。物事の順番、国家建設の順番というものがあります。会社もいきなり「創業」をしてはいけません。創業の前に、実はやらなければいけない重大な仕事がある。これが、中国古典でずっと説かれている最大のポイントです。
これを「撥乱反正(はつらんはんせい)」と言います。「はつ」は、「発」を「打つ」と書きます。三味線の撥(ばち)や太鼓の撥(ばち)です。撥(ばち)とは打つことです。「正す」、そして「反省」。つまり正しさに返ることです。「撥乱反正」というのは、「乱をまず打たなければいけない。それで正しさに返る」ということです。
前のビルを壊して新しいビルを建てる場合を考えましょう。前のビルが少し残っていてもいいから、新しいビルを建ててしまおうということはしないと思います。全部片付けて整地にし、何にもなくして真っ平らな土地に戻してから建てますね。あれが「撥乱反正」です。まず乱を正さなければいけない、打たなければいけない。そうやって正しさに返ることが、まず基本です。
今でも、M&Aなどで会社を買うことが非常に流行していますが、私が見ていても、失敗する例では、最初に「撥乱反正」をしていません。欠点を残したまま、組み入れてしまうことが非常に多く、その結果、本体にも影響が出てしまう。そういう取り入れ方は絶対に良くない。そのためにもぜひ「撥乱反正」という言葉を知っていただきたい。これが、まず一つです。
●「創業」と「守成」の本来の意味
それから、次が「創業」です。創業とは、正しく言うと「創業垂統」と言います。「創業」とはどういうことか。「業を創る」ことですが、その時に忘れてほしくないのが「垂統」です。これは「伝統を垂れる」という...