『貞観政要』を読む
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リーダーは民に「畏れ」を持つことを忘れてはいけない
『貞観政要』を読む(12)民は「波」、王は「船」
田口佳史(東洋思想研究家)
老荘思想研究者・田口佳史氏による『貞観政要』の読解講座第12弾。組織のリーダーは、何を忘れてはいけないか。『貞観政要』は、民に対する「畏れ」だという。良い波があってこそ船は浮かぶように、民の支えがあってこそリーダーは活躍できる。彼らに対し、畏敬の念を持つことを忘れてはいけないと、中国古典は教える。(全15話中第12話)
時間:7分36秒
収録日:2016年8月1日
追加日:2017年3月13日
≪全文≫

●驕った心になれば、肉親も他人になってしまう


 その次に、有名な「十思」という言葉が出てきます。そこを読んでみましょう。「夫れ殷憂(いんゆう)に在りては」、天下を取ろうとする始めでは。「必ず誠を竭(つく)して以て下を待ち」、誠心誠意、部下に対しても国民に対しても、非常に厚い待遇をするのに。「既に志を得れば」、志がいったん成就してしまえば。「情を縱に」。情とは欲情です。これで自分も成功者の一員になったとか、成功の領域に入ったとか思うと、どうしてもずるずると緊張感が解けてしまい、その瞬間に抑えていた欲望がぐっと持ち上がってしまう。「情を縱にして以て物に傲る」。傲慢になっていってしまうということです。創業期には「ありがとうございます」と言っていた人が「何を言っているんだ」ということになってしまう。

 「誠を竭せば則ち胡越(こえつ)も一體と爲り」。「胡越」とは、遠く隔たった異国という意味です。誠心誠意が分からない人間はいない。遠い外国の人であっても、誠心、誠の限りを尽くせば、必ず「こういう人と一緒に人生を送りたい」と思う。これが「誠を竭せば則ち胡越も一體と爲り」です。遠い蛮族も一体となるということです。

 「物に傲れば則ち骨肉も行路と爲る」。ここではすごいことを言っています。驕った心になると、どうしても傲慢になり安逸になります。そうすると、骨肉、肉親でさえも行路になってしまう。「行路」とは、その辺の道路のことです。普通、道路を行く人は皆、他人ですね。つまり「骨肉も行路となる」とは、言うなれば肉親も全部、他人同様の人間になってしまうということです。「肉親相食む」という状態になる。民の心がこうやって離れてしまうわけです。


●威厳と怒りで治めることのデメリット


 「之を董(ただ)すに嚴刑を以てし」。民の心が離れれば離れるほど、自分の言うことを聞かなくなります。国家の言うことを聞かない人が多くなってくるから、これには法で征伐する、処罰するしかない。そのために、刑罰が非常に厳しいものになっていく。さらに「之を振はすに威怒を以てすと雖も」。国家の統治を、威怒、威厳と怒りで行ってしまう。何かというとすぐ「こら、何やってんだ」という指揮の国家運営になっていってしまうということです。

 「終に苟くも免れて仁に懐かず」。簡単に言うと、「刑罰に免れて恥ずるなし」です。「こ...

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