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上司の過ちを諌めてこそ部下の部下たる本質がある

『貞観政要』を読む(14)諫言してこそ真の部下

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
老荘思想研究者・田口佳史氏による『貞観政要』の読解講座第14弾。王に対する諫言を続けてきた部下に対し、皇帝である太宗がコメントをする。ここで語られるのは、理想的な上司と部下の関係だ。上司の過ちを正してこそ、部下の本旨はある。「話の分からない上司だ」と愚痴をこぼす輩ほど、不忠な者はいないという。(全15話中第14話)
時間:11:55
収録日:2016/08/01
追加日:2017/04/10
≪全文≫

●部下の諫言に向き合う皇帝・太宗


 「太宗、手詔(しゅしょう)して答へて曰く」。魏徴の諫言に対して、ずっと手ずから書をしたためて、それで「答へて曰く」。「頻りに表を抗ぐるを省するに」。何度もこうやって自分に対して意見書を挙げて、省みてくれと言っている。「誠、忠款(ちゅうかん)を竭(つく)し」。本当に真心を尽くしてくれた。魏徴が吐いている「言」は「切至を窮む」。懇切周到を極めている。

 「披覽(ひらん)して倦むを忘れ」。私はあなたの諫言書を見て開いて、飽きることもなく読みふけり「毎(つね)に宵分(そうぶん)に達す」、いつも夜半に達してしまう。「公が」、あなたが「國を體する情深く」、あなたの国に対する思いは実に深い。「匪躬の義重きに非ずんば」。「匪躬」とは、一身の利害を思わず、ひたすら君主に尽くすということを言います。この重さということです。

 「豈に能く示すに良圖を以てし、其の及ばざるを匡さんや」。あなたが非常に明確な、良い行いの仕方を示してくれている。これが良圖(りょうと)です。良圖を示してくれていることをもってしても、自分には及ばないところがたくさんあるので、そこを正そうと思う。太宗はそのように答えます。


●上司を見限るのは「先見の明」なのか


 太宗は、もう一つのエピソードを言います。「朕聞く」。私(太宗)はこのように聞いている。「晉の武帝」、これは西晋の司馬炎のことです。司馬炎が呉という国を平定して以来、「務め驕奢(きょうしゃ)」になる。それまでは非常に優秀なトップであった司馬炎も、呉という念願の強敵を討ち負かしてからは、驕奢になった。驕慢、安逸のトップになってしまった。「復た心を治政に留(とど)めず」。彼は「もう政治はいい」などと言い出した。その側近中の側近、ナンバー2である「何會、朝より退き」。何會が朝廷から退いてきて、自分の実の子である劭にこう言った。

 私(何會)が、「主上に見ゆる毎に」、王様に謁見するごとに、王様は「經國の遠圖(えんと)を論ぜず」。国家の将来を言うなんてことを全くしなくなってしまった。「但だ平生の常語を説く」。取るに足らない普通の会話で終わってしまっている。「此れ厥の子孫を貽す者に非ざるなり」。これは、子孫のことをよく考えようとしている人のなすべきことではない。「非ざるなり」。

 「爾が身は猶ほ以て免る可し」。お前の代は何とか持つだろうが、ということを子に向かって言うわけです。子の代はまだ災いを免れるかもしれないが、お前の子ども、「諸孫を指さして曰く、此れ等必ず亂に遇ひて死せん」。王様はこうであっては、この孫の代まではどうも持たないだろう。「此れ等必ず亂に遇ひて死せん」と言う。

 時たって、まさに言のごとく「孫の綏に及び」、綏という孫の代になって「果して淫刑の戮(りく)する所と爲る」。不当な者が出てきて殺りくの限りを尽くした。武帝・司馬炎もしてやられ、晋も非常に危うい国家になってしまった。「晋書」という晋の歴史が書いてある書物(ここでは「前史」と言っています)があり、「前史之を美め」。何を褒めているかというと、何會です。彼は将来を良く見通していた。このことを褒めて「以て先見に明かなり」、先見の明があったと言っています。


●諫言を尽くしてこそ、真の部下である


 しかし、「朕が意は然らず」。太宗は、私はそう思わないと言います。「謂へらく會の不忠は」。何會ぐらい不忠の者はいない。自分は、その罪は大きいとすら思っている。どうしてか。「夫れ人臣と爲りては」、人の臣下となってトップに仕えている身としては、「當に進みては誠を竭くさんことを思ひ」。うちへ帰ってきて「王様はなっていない」などと言うぐらいならば、なぜ王様に対して誠を尽くし、「王様、お言葉でございますが」と言って諫言しないのか。

 「退きては過を補はんことを思ひ」。君主が退いたら、その過ちを補わなければいけない。このままだと君主は誤ってしまうから、自分がそれを補わなければいけない。「其の美を將順(しょうじゅん)し」。君主の美徳をきちんと明らかにする。それで君主の悪を「匡救」、救ってあげなければいけない。「共に治を爲す所以」。そうでなければ、共に政治をやっていくペアとして、トップと臣下の関係は成り立たないではないかということを言います。

 したがって「會、位、台司を極め」。位は上の上です。「名器崇重」。褒美の物も嫌になるほど頂いている。「當(まさ)に辭(じ)を直(なお)くして正諫し」。まさにそういうことからいって、王様をしっかり思い、それで直言して、正諫、諫言をする。「道を論じて時を佐くべし」。道理、道義をきちんと正していき、そうやって武帝の時世を正していく。部下は、そのためにいるべき存在ではないかと言います。

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