『貞観政要』を読む
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リーダーは創業の困難を忘れずに常に「謙虚」たれ
『貞観政要』を読む(9)リーダーの本質は謙虚にあり
田口佳史(東洋思想研究家)
老荘思想研究者・田口佳史氏による『貞観政要』の読解講座第9弾。リーダーの本質は何か。それは謙虚であると、魏徴は言う。謙虚とは、創業の時の苦労を忘れないことだ。天は常に味方してくれるわけではないし、謙虚さを失えば民の心は離れる。多少のぜいたくはするだろう。しかしその自覚を失ったところに、優れたリーダーは生まれないのだ。(全15話中第9話)
時間:11分50秒
収録日:2016年8月1日
追加日:2017年1月30日
≪全文≫

●ぜいたくな暮らしは、民の苦労と犠牲の上に成り立っている


 「若し成功をば毀たず、即ち其の舊(きゅう)に仍(よ)り」。どういうものであれ、成功した時につくった身分不相応なもの、そういうものを「毀たず」ぶち壊さないで、それで「即ち舊に」旧来にいて、それで「其の不急を除き」。不要不急に、必要なもの以外のものを大切にしてしまう。

 「之を損じて又損じ」。そういう華美でぜいたくなものを減らして減らしていく。それで「茅茨(ぼうし)」。これはかやぶき屋根の家という意味で、粗末なものを表します。「桂棟に雜(まじ)へ、玉砌(ぎょくせい)を土堦(どかい)に參(まじ)へ」。一見、非常に粗末な建物に住んでいるようだけれど、実はその中で非常に価値のある桂棟、香木を柱として使っている。小さなものけれども高価なものを柱として使う。これが「茅茨を桂棟」です。上辺は茅葺きだけれども、中に入ると柱が皆、香木でできている、そういうものです。外側は非常に粗末だけれども、本当はすごくぜいたくであるということです。

 「玉砌を土堦に參へ」、すごく中国ならではの言い方で、「玉」すなわち宝石を、「土堦に」土壁の中に入れて、「悦びて以て人を使ひ」。それで「其の力を竭(つく)さず」。民に力を尽くさない。「常に、之に居る者は逸し」。宮殿にいる者だけは、非常に安逸な生活をしている。

 「之を作る者は勞するを念はば」。そういう暮らしができているのも、影で一生懸命それを支えている民がいるからである。そういうことを「念はば、億兆悦びて以て子のごとく來り」。そういうことを考えられれば、国民は皆、懐いてくる。「群生仰ぎて性を遂げん」。皆がそれぞれの人生をある程度満足して遂げていける国になる。これが「徳の次」だと言っています。


●大八車で納品した創業期のソニー


 次です。「若し、惟れ聖も念ふ罔(な)く」。「あなたは聖人ですね」と言われている人でも、本当の本質がどこにあるかを思わなければ、危ういものです。これが「惟れ聖も念ふ罔く」。これは、書経に出てくる名フレーズです。

 「厥(そ)の終を愼まず」。終わりまで慎重にならず、「締構(ていこう)の艱難(かんなん)を忘れ」。締構とは、言ってみれば創業の艱難を忘れないということです。私はよく企業へ行って、ここのところ非常に順調に推移している企業のトップに対しては、「...

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