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十思~一流のリーダーを目指す人が覚えておきたいこと

『貞観政要』を読む(13)リーダーに捧げる10の教え

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
老荘思想研究者・田口佳史氏による『貞観政要』の読解講座第13弾。『貞観政要』は、「十思」というリーダーに向けた10の注意がある。この講義では、田口氏オリジナルの解釈も交えながら、長期政権のために組織のトップが気をつけなくてはならないポイントが、分かりやすく語られている。(全15話中第13話)
時間:14:03
収録日:2016/08/01
追加日:2017/04/03
≪全文≫

●君主が守るべき10の注意


 そこから「人に君たる者」ということで、「人に君たる者」への10の注意(十思)が以下に載せられています。それを、注意深く読んでいきたいと思います。

 1番です。「誠に能く欲す可きを見れば、則ち足るを知りて以て自ら戒むるを思ひ」。「誠に能く欲すべきを見れば」。成功者になればなるほど、本来ならば望まないようなものを切実に望むようになる。それこそ豪勢なものや珍しいものなど、人が持っていないようなものを欲するようになる。その時は必ず「足るを知りて以て自ら戒むるを思ひ」。こういうことを思ってくれと言います。

 「足るを知る」とは、「足るを知る者は富む」という老子の言葉に由来します。これは「感謝の心に変えてくれ」ということを言っているのですが、この真意はなかなか難しい。そこで、私が独自に解釈した言葉を、皆さんに差し上げたいと思います。ここは「もっともっとと強欲を欲したら」。もっと欲しいと言うようになって「強欲を欲したら、無一文の時を思って感謝の心に切り替えよ」。こういう風に代えて理解してみましょう。これが1番です。

 人に君たる者の心が持つべき2番は、「將に作す有らんとすれば、則ち止まるを知りて以て人を安んずるを思ひ」です。「將に作す有らん」とは、造営の労役を指します。城などそういうものを造りたくなったなら「則ち止まる」。すぐにゴーを出すのではなく、いったんとどまる。すぐ始めてしまうのではなく、「止まるを知りて以て」。その豪勢な施設や建造物ではなく、「人を安んずる」、国民や社員を安寧にするようなことを考えてくれ。これが2番です。私がつくりましたのは、「立派な施設や社屋が欲しくなったら、その投資は人材の確保にまわそうと思え」です。投資はそちらへ回してくれということです。

 3番です。「高危を念(おも)へば」。高くなることの危うさを思えば、「則ち謙沖にして自ら牧ふを思ひ」。自分も少々の高位高官になり、そこで「(地位が)高くなり過ぎたかな。危険かもしれないな」と思ったら、すぐ謙沖、すなわち謙虚に自分を解し、自らを養ってくれと言います。

 これは私が訳した3番は、「順調に進めば進むほど、『謙虚』を自分に言い聞かせよ」です。自分に言い聞かせよということです。組織の「謙虚」とは、前の講義で説明した創業期の苦難のことです。個人の「謙虚」とは、自分が一番やるせない時、ばかにされ、自分の意見が通らないで、隅っこにしょぼんとしているような人生の時です。その時を思ったらいいのです。そういう時を思ってくださいということです。


●高望みせず、慎重に、謙虚に


 4番です。「滿溢(まんいつ)を懼(おそ)るれば」。満ち溢れているのではないかということを恐れれば、「則ち江海の百川に下るを思ひ」。これは元々、老子の言葉です。大きな海は必ず川の下にある。川よりへりくだっているから、川の流れは全部海に流れてくる。そのぐらいに思ってくれということです。これを訳すならば、「無謀な高望みを持たないためには、常に全社的実力向上を先行すべし」ということです。

 5番です。「盤遊(ばんゆう)を樂しめば」、遊ぶことを楽しめば、「則ち三驅(さんく)以て度と爲すを思ひ」。「三驅」とは、狩りに行った際に、必ず一方だけ空けておき、獲物をそこから逃がしてやることを意味します。袋ねずみみたいにしないということです。これが遊びの常識であり、「とことん遊んでしまわない」ということを言っています。「この辺が限度だ、今日はこれくらいで終わろう」という節度を持って遊ぶ。これが重要だということを、5番で言っています。

 これを訳せば、「快楽に遊ぶクセがつきそうならば、もう少し会社を安定させてからと思え」。快楽に遊ぶのは決して悪いことではありません。しかしそれは、もう少し会社が安定してからにしようと思ってくれ、ということです。

 6番です。「懈怠(かいたい)を憂ふれば、則ち始を愼みて終を敬するを思ひ」。懈怠とは、非常に怠惰になることです。昔だったら一生懸命やったことにも情熱を失い、「適当にやっておこうか」という気持ちになったときは、「始を愼みて終を敬する」。こういうことを思ってほしい。6番は、「長い発展を望むなら、全てに始から終わりまで慎重さを失わない」と訳せます。これは重要なことですね。

 7番です。「擁蔽(ようへい)を慮(おもんばか)れば、則ち心を虚くして以て下を納るるを思ひ」。擁蔽とは、君主の耳目を塞いでしまうことです。耳目を塞がれて「裸の王様」になってしまうということです。そのようになっているのではないか、という懸念を感じたら、「則ち心を虚くして」ほしい。虚心坦懐にして、下の意見を入れるようにしてくれということを、ここで言っています。私なりに訳せば、7番は「裸の王...
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