●チェッカーズ案は非現実的
結局EUはしばらくの間、北アイルランドをEUに残しておけば国境がないのと同じだと言いました。北アイルランドをEUに残すということは、イギリスの一部がEUに残ってしまうということだから、何のためのBREXITかということになります。BREXITはイギリスの主権をEUに対して取り戻すという理由で進めています。ですから、離脱強硬派といわれる人にとってはふざけるなということで、その提案は否定されました。
結局、テリーザ・メイ首相は困ってしまい、2018年の7月にチェッカーズ(Chequers)という自身の別荘でレポートを書いて、それを内閣の人たちに見せて説明しました。一応皆、許可したのですが、これはチェッカーズ案(Chequers Plan)というものです。
何かというと、モノの取引については全部自由、サービスは禁止というものです。サービスはイギリスが強いので、イギリスの自由にやらせてほしい、ということです。アイルランドはどうするかというと、超ITでやるというのです。それは要するに、人にもモノにもチップを埋め込むということでしょうか。そうすると、行先が分かるという夢物語のような話ですが、EUの人たちの失笑を買うどころか、彼らの怒りを買ってしまったそうです。
オーストリアのザルツブルクで準備会をやった時、メイ氏は一日遅れでやって来たこともあり、厳しい批判を浴びることになりました。
そうしたら、メイ氏は怒ってしまいました。彼女は気が強いことに、「あなたたちは自分が書いたこのレポートをきちんと見ず、しかも代替案もなしに、こんなものは役に立たず40日たったら出直して来いとは何と失礼な。私はこれまで、あなたたちと何百日も付き合ってきたけれど、たった一つの言葉が私の頭の中にあります。それは“リスペクト”という言葉です。私は“リスペクト”を持ってEUの代表に付き合ってきました。あなたたちも私に“リスペクト”を持ちなさい」と言って帰ったのです。
こういう話がフィナンシャルタイムズを読んでいると、全部書いてあります。
●メイ内閣の閣僚が辞任し計画を練り直す
そして、これでは終わりませんでした。それを出した途端にとんでもないことが起きたのです。閣内が一応理解したと言っていたはずなのに、2日たった夜中に、デイビッド・デイビス氏という離脱交渉担当者が辞めると言ったのです。彼は2016年のメイ内閣の発足時から閣僚を務めている人です。それから15時間後にボリス・ジョンソンという外務・英連邦大臣も辞任しました。
それでメイさんが11月に新しい提案をつくりました。どのような提案かというと、イギリスは全ての財政的責任を果たし、離脱の結果、EU加盟国に負担が増えないようにする、負債は全部完済する、英国在住のEU市民に充分な権利を保障する、それから、イギリスの労働法、環境規制、税制を全て遵守するといっているのです。これは、ヨーロッパから見たら、いいですよね。
一方、アイルランド問題はやはり解決せず、ITでは駄目なので、結局、北アイルランドとイギリス全部がしばらくの間はEUに留まると言ったのです。そうすると、国境問題はしばし関係なくなりますから、EUは了解ではないかということです。
●メイ首相はなんとしてもBREXITを目指す
さてイギリスの強硬離脱派は、ふざけるなということになります。ボリス・ジョンソン氏が辞めていますが、その案は全部破り捨てろと叫んでいるのです。ということで大騒ぎになったのですが、メイ氏は「イギリス国内がどうなろうと私は通す」と言って、ブリュッセルに行って交渉のテーブルに載せたのです。
すると、ブリュッセルのトップが11月25日に承諾しました。そうするとブリュッセルが承諾し議会で通せばよい。そして27カ国の議会が通すのに100日かかります。問題はイギリスの議会です。12月になって、通そうとしたのだけれど、顔触れを見ると皆反メイ氏のようだったので、メイ氏も票読みをしたら通らないと判断して翌年の1月に延ばしたのです。そして1月にかけようということになりました。これはもうそれ以上延ばせないのです。100日を切ってしまうので27カ国で今度投票ができなくなってしまいますから。下院での採決は約200票対400票の大惨敗でした。そこで、どうするのでしょうか。
そうしたら、労働党がメイ氏を不信任で辞めさせるようにと言い出しました。この辺りがイギリスの人たちの分からないところですが、不信任投票で労働党案を否決しているのです。ですから、メイ氏はそのまま続投になりました。再び国民投票をしたらどうかというのですが、国民投票は法律的には根拠がないのです。参考意見にすぎません。ただ、国民の意見は重いと言います。
それから、代替案をつくるといって議会の中で模索している人がいて、4、5つ案があるのです...