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スペースマイニングは有人火星探査を行う上で鍵となる技術

宇宙探査の現在と可能性(9)スペースマイニング-1

小泉宏之
東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授
情報・テキスト
有人火星探査にとって最も効率も良い方法は、宇宙空間において新しい拠点をつくり、そこで宇宙船の建造を行い、深宇宙へ向かうというものである。こうしたチャレンジングなアイデアは「スペースマイニング」と呼ばれている。(全10話中第9話)
時間:09:49
収録日:2019/06/11
追加日:2019/07/22
カテゴリー:
≪全文≫

●スペースマイニングというチャレンジングなアイデア


 それでは最後に、有人火星探査のような非常に挑戦的なミッションをする上でキーとなりそうな技術を、もう1つご紹介します。それは、「スペースマイニング」と呼ばれるものです。

 技術というよりはコンセプトというべきかもしれません。シリーズ内でお話しした電気推進機も、2000キロワットという膨大な電力を要するため、私たち電気推進の研究をしている研究者からするとかなりエキセントリックでチャレンジングな発想ですが、スペースマイニングはさらにSF的で、チャレンジングな発想です。


●地球は重力の井戸、その底にある


 よくSFや漫画などでもいわれるのですが、地球とは重力の井戸、その底であるという表現がされます。この表現はまさに的を射ています。スライドでお見せしているのは、地球の重力ポテンシャルといわれるものをグラフにしたもので、実際のポテンシャルがスケールを合わせて描かれています。

 地表は非常に深いところにあります。宇宙ステーションや「低軌道」といわれる軌道を回っている衛星は、地球のすれすれの部分を回っており、実はほとんど地球の重力移動から出ていません。地球のすぐ周辺をくるくる回っているだけです。そして、「静止衛星」と呼ばれる地球の高度3万6千キロを回っている衛星などが、やっと地球の井戸から出てきたような状態です。

 月はどこにいるかというと、このスライドでいうと右側にあるくぼみの周辺です。ですから、月は地球の周りを待っているのですが、ポテンシャルの観点から見ると、実は地球の重力からほとんど出たような場所にあります。月も重力をつくっているので、少し沈んでいますが、月のつくっているポテンシャルはこの程度です。


●宇宙に拠点をつくるというアイデア


 スペースマイニングのポイントは、地球ではなく、月や地球と月の間の特定の場所に、拠点をつくろうとする点です。

 今、想定している宇宙船は、燃料型エンジンの場合には1000トンとなり、電気推進機をうまく使った場合には200トンに軽量化できるかもしれません。しかし、いずれにせよ、数百トンという重いものを地球から運ぶ必要があります。これが莫大な費用がかかる要因となり、プロジェクト全体を非常に困難にしています。そこで、ほとんどのものを地球以外から持ってきて、この困難さをなくしてしまおう、というのがスペースマイニングの発想です。

 要するに地球から持ってくるのは、宇宙では取れないものなど限られた物質だけにとどめ、宇宙から取れるものは宇宙から取ってこようというアイデアです。スペースマイニングとは日本語で「宇宙採掘」ですから、月や小惑星の資源をうまく使い、宇宙空間上で建造を行い、そこを出発点に進もうとする試みです。そうすれば、打ち上げロケット何千機といった莫大なコストをかけることなく、開発を進めることができます。

 当然、人や食料、あるいは半導体のような込み入った物体は地球から送ります。宇宙からは、割とシンプルな構造物などを調達します。一番重要なのは推進剤です。これらを宇宙空間で調達すれば、深宇宙への扉を開くことが非常に楽になるだろうという発想です。


●月には構造物となり得る元素が多数存在している


 こうした発想は、ほとんどSFのように感じられると思うのですが、最初に思い浮かぶ疑問は、どのような資源が宇宙で取れるのかということです。構造物や推進剤など宇宙で使うのに足るものが宇宙で取れるのかが非常に大きなポイントとなります。

 まず見ていきたいのは月です。月に関しては、これまで有人無人の探査機が調査してきたので、その組成の多くが分かっています。このスライドには、ざっくりと月の組成が書かれています。SiO2やMgOがあり、ほとんどが酸化物なのですが、アルミや鉄、マグネシム、シリコンなど、基本的な構造物の元素となるものが存在しています。そのため、酸化物を取り除けば、アルミやマグネシウム、鉄(Fe)、あるいはチタンなども月には存在するので、これらで構造物をつくることができる可能性が十二分にあります。


●月の砂を基にした3Dプリンタによる構造物の形成


 あるいは、最近技術が進んでいる3Dプリントを使うと、月の砂を粒子状に砕き粉末状にして、それを焼結することで、酸化物を取り除かなくても直接的に構造物をつくることもできるかもしれません。

 数年前に、あるアメリカのベンチャー企業が、...
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