クラシックで学ぶ世界史
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戦争と革命の殺到、うるささ、高揚を描いたベートーヴェン
クラシックで学ぶ世界史(6)ベートーヴェンの時代-下
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
「分かりやすい、うるさい、新しい」、ベートーヴェンの前と後で、音楽は違うものになったといわれる。その理由は、彼が受け取り手である市民の状況と流行に細心な目配りをし、「今、時代が求めるもの」を真摯に追求していったからではないだろうか。(全13話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:12分09秒
収録日:2019年8月26日
追加日:2019年11月16日
≪全文≫

●フランス革命以後の時代のニーズに応えたベートーヴェン


片山 話が少し遡りますが、ベートーヴェンがそういう人間の感情の発露を意識したのは、やはり1790年代だと思います。ベートーヴェンのピアノソナタに『悲愴』と呼ばれている曲があります。原題はフランス語で“Pathetique”と、自分でつけています。

 「悲愴」という訳し方は、悲しみのなかでも凄みのある悲しさということで、その点は当たっていますが、もともとはギリシャ・ラテン語の「パトス」からきているわけで、これは「激しく心が動く」ということです。そういう標題を付けたということは、単に悲しいというのではなく、激しく心を動かす方法に意味があるということです。ハイドンやモーツァルトまでの時代と、フランス革命以後のボンからウィーンに出てきたベートーヴェンが知っている新しい時代では、もはや音楽の表現法が違うということですね。

 今までのような幅でやっていても、誰も心が動かなくなってしまった。もっと音楽のボリュームやメロディラインの激しさなどを変えていかないといけない。そういう方法を考えることを、ピアノソナタの『悲愴』あたりから、ベートーヴェンは自覚していたと思うんです。

 だから、ベートーヴェンは確かに自身が天才的だったんだけれども、その天才性は、彼がゼロから思いついた独創的なものではありません。自分の世界の中で勝手にやって、「みんな、ついてこい!」と言ったのではなくて、フランス革命以後の時代のニーズに応えたのでした。また、音楽家がフリーランスで生きていくためにはどういう表現を考えたらいいのかということについて一番敏感だったのもベートーヴェンでした。ボンから出てきてウィーンで生き残ろうとした、ある意味では田舎者の彼にとっては、生き残り戦略として最も切実に考えたことだったのでしょう。

 しかも、この頃から彼はだんだん耳が悪くなっていきます。使っているオーケストラに「このくらい鳴らせ」と指示するのですが、彼自身がよく聞こえなくなっているので、「これで聞こえているかな」と不安を覚えたりしたのではないか。これは私のやや推測になりますが、そんなことから「強く。もっと強く鳴らしましょう」という感じで、必要以上に激しくなってしまったと思うんです。

 これが、かえって良かったんです。その時代の常識の一つ先を行くんだけれども、ちょっと経...

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