クラシックで学ぶ世界史
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モーツァルトの生きた時代は「就職氷河期」
クラシックで学ぶ世界史(4)不安の時代の作曲家
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
18世紀後半、市民階級がさらに力を蓄えるにつれ、旧体制(王侯貴族や教会)は弱体化し、お抱えの音楽家を雇用するゆとりを失い始める。ヨーロッパ中に名前を知られた「神童モーツァルト」でさえ雇用する者がいないほど、それは深刻な変化だった。(全13話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:12分42秒
収録日:2019年8月26日
追加日:2019年11月2日
≪全文≫

●「就職氷河期」にぶつかったモーツァルトの短い生涯


―― 先生は、モーツァルトについて非常に印象深い言葉を紹介していらっしゃいます。「モーツァルトは不安の時代の音楽家である」、と。端的にいうと、時代が移り変わっていく中で、かわいそうなことに就職氷河期に当たってしまったのがモーツァルトであると、『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』の中でお書きになっています。

片山 そうですね。前回までの流れでいえば、教会や封建領主の強い時代が、絶対王政によって揺らぎ始める。国によって違いがあるので、中央に権力が集中して、教会の権力や封建領主の権力が弱っていくようなところもあれば、神聖ローマ帝国のように、なかなかそうでもなく、いつまでも割れているようなところもあるわけです。

 そういう中で、イギリス発の産業革命は特に大きいわけですが、その手前でいわゆる商業革命的なことが起こります。いろんな品物が、大きな圏域で幅広く流通していくようになるのです。そういう時代になりますと、もちろん生産力も上がっていく。そして決定的には産業革命によって生産力が飛躍的に向上し、同じ時間と同じ労働力で10倍とか桁違いなかたちで、いろんな品物ができるようになっていきます。

 こうなると、動く富も変わってくる。また、力を持ち始めるのは生産手段である工場などを持っているような人、それから、そういう品物を取り引きしている人になって、いわゆる商工業者がお金を持つようになります。その分、どこが没落するか。国によって違いがあり、封建領主でも相変わらずお金が集まるようなシステムでがんばっていたところもありますが、全体的には富が一般の市民の方にたくさん蓄積されることにより、教会や国王、封建領主たちが相対的に弱ってきます。

 弱ってくるということは、王さまや貴族や教会ばっかりがたくさんお金を使って音楽家を雇う時代が終わり、その代わり市民相手に稼ぐのが当たり前になってくるのが、まさに18世紀の後半に起きることなのです。


●旧体制の存続を信じて天才児の就職活動をした父レオポルド


―― 例えば、モーツァルトの場合、生まれたのが1756年で、亡くなったのが1791年ということですね。このあたりの微妙な差によって、この時代では非常に色が分かれてくるわけですね。

片山 そうですね。1789年がフランス革命の始まる年ですので、モーツ...

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