クラシックで学ぶ世界史
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マーラーの交響曲はなぜそれほどまでに愛されているのか
クラシックで学ぶ世界史(10)マーラーと国民楽派
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
マーラーの人気は今やベートーヴェンに匹敵するほどだが、同時代の評価は今ほど高くなかった。彼の音楽が、当時残照を迎えていたハプスブルク帝国のさまざまな響きを映してやまず、ややもすれば混沌となることを恐れない複雑さを呈したからだ。(全13話中第10話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:11分48秒
収録日:2019年8月26日
追加日:2019年12月14日
≪全文≫

●国民としての「束ね」が必要になってきた近代の国家


―― 世界史的によく言われるのが、1918年、ウィルソン米大統領の訴えた民族自決の原則です。第一次世界大戦の途中でしたが、ここから民族自決の運動が発生するといわれています。

 芸術の世界で言えば、ワーグナーもそうですし、「国民楽派」と呼ばれる人たちも含まれます。また、チェコスロバキアのドヴォルザークやスメタナ、ロシアの「五人組」などですね。ロシアではムソルグスキーやボロディンなどが集まり、五人組を結成して、自分たちの芸術をつくっていきました。また、少し後にはなりますが、シベリウスのようにロシアからの独立を訴える音楽も出てくる。そのように、独立心や「民族の魂」を歌う芸術が、ヨーロッパ中で広まっていくということがありますね。

片山 そうですね。さかのぼれば、例えばモーツァルトの頃、ハプスブルク帝国ではドイツ語によるオペラをつくろうという運動がありました。国民というよりも、ハプスブルク帝国における政治が中心になって起こそうとした運動です。

 すでに国家として体をなしていた国においても、ナポレオンやフランス革命以降、同じ言語で同じ文化を共有する人間を国民として束ねると、労働力・戦力として強い力を発揮することが注目されました。やっぱり傭兵では頼りないし、人数も集められない。なるべく少しのお金で工場で働いてくれる人を大勢集めたいし、軍隊に命を懸けてくれる人をたくさん出すためにも、やはり「国民」単位でないといけない。

 それで、イギリスやフランスのような既成の国家が、「束ねる力」としてのナショナリズムというものを、言語ナショナリズムや、言語に伴う文化的なナショナリズムとして使ってきます。これはまた、ハプスブルク帝国がその矛盾を一番呈したところでもあります。まだ一般の人たちがそういう「民族意識」を持たない段階で、ハプスブルク帝国は、王と王の争いのようなかたちで、ハプスブルク家の当主が支配できる領域を増やしていったのです。

 ところが、これが片やオスマン帝国から、また片や民族色強く、北ドイツの言語と文化伝統で凝り固まったプロイセンによって圧迫されてくる。そうすると今までどおりにはいかないので、オーストリアのドイツ人としての文化、ドイツ語を中心にがんばらなくてはいけなくなる。そういうことで、モーツァルトやハイドンの時代...

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