●短期的にはアメリカの出方次第で日本の対応が決まる
―― そういう中で最後に、日本はこれからどう対応すべきかというところをお聞きしたいと思うんですけれども、短期的な部分と長期的な部分と、2つあるかと思います。短期的な部分でいうと、さきほど先生が重要なご指摘をされて、これから厳しい局面に行くということで、そこに向けてどう動くべきかというところが一つあろうかと思います。
長期的な部分でいうと、今日の講義で先生がお話しくださったように、まさにデカップリングの話です。アメリカからすれば、自分の国への核攻撃の手段さえ取ればいいということになりますが、日本としてはそれでは「えっ、いいんですか」となるでしょう。逆に、もう1つの危機である先制攻撃みたいなことをアメリカが仕掛ける可能性もあります。こうしたアメリカベースの交渉で行った場合に、日本としては本当に国益が守れるのかどうかという問題があります。現状のままで良いのかということです。
先生は『日本の国益』(講談社現代新書)の中で、非常に印象的なことをおっしゃっています。つまり、アメリカが日本にとって脅威が消えないような条件で北朝鮮と交渉を妥結した場合において、日本としては日米同盟による抑止力でこのまま良しとするのかどうか、判断が迫られる可能性もあるんじゃないか、というご指摘です。その短期的な部分でどう対応するか。あるいは長期的な構えとして日本はどう戦略を組んでいくべきか、ということについては、どのようにお考えでしょうか。
小原 先ほどの流れからいうと、短期的には金正恩さんはアメリカしか見ていませんから、ドナルド・トランプさんがどう出るかということだと思うんですよね。この間、トランプさんも危機を察して板門店に駆けつけて会合をしました。中身はほとんどなかったんだと思うんですけど、ああいうパフォーマンスをすることによって、現状は悪くないんだということを彼は言いました。
―― 友好的なムードを出していましたね。
小原 彼は国民にも、現状は悪くないんだと言いました。一度は戦争になるかもしれなかったんです。半分、マッチポンプですよね。自分で火をつけておいて、自分で消火する。彼がアメリカで今言われているのはね、要するに、いわゆる火付け屋だというものです。同時にね、消防士だということも言われているんです。
―― まさにマッチポンプ。
小原 そうですね。マッチポンプだ、と。それでも、国民の一部は多分前のことは忘れてしまって、「いや、彼はすごい」となっています。「トランプだからこうしたことが出来るんだ」と思われているのです。トランプさん、上手なんです、そのへんがね。
だけど、アメリカにとっての現状は悪くないのに対して、実は金正恩さんにとっての現状はすごく悪いわけです。制裁がずっと続いていて、何かそれを打破しようと手を打とうとするんだけど、どうもそうして下手をすると、トランプさん周辺の強硬派がハッと出てきてしまって、本当に大変なことになるかもしれないと。そういう中で、なんとか中露のバックアップを得て、中国なんかも安保理で動いているように、なんとか制裁解除や、あるいは少しでも制裁に引っかからないような形でサポートを受け、なんとかつないでいる状況です。だけど、最終的には国内との関係でも、自分がお父さん(金正日)やお祖父さん(金日成)を超えるような、何十年も続く本当の指導者になるためには、やはりトランプさんと交渉しただけじゃなく、その成果を出さないといけないですね。
●もはやアメリカは北朝鮮・イランの二正面作戦はできない
小原 そういう意味でいうと、2019年内という期限の中で、本当にそういう成果が出せるのかというと、なかなか難しいですね。つまり、日本の国益というのは、まず短期的にはそこにかかってきているわけです。その時に、やはりトランプさんもいろいろな問題を抱えています。例えばイランで戦争、武力行使なんていう話になってくると、やはりそこに戦力を集中しないといけない。そして、空母派遣の話もある。けれども、実はオバマ政権のときからアメリカがはっきり宣言しているのは、もう二正面作戦はできませんということです。
オバマ政権は、アジア回帰だとか、リバランシングということを言いましたけれども、今中東にものすごく力を割かないといけない。そういう中で、北が暴発しかかったときに両方に対処するのは、なかなか難しくなってくると思うんですよ。そのへんを多分、金正恩さんも見ていると思うんですよね。イランの動きを含めて。
●不確定要素が多い中で、金正恩は国内の立場をどこまで維持できるか
小原 だから、そういう意味でいうと、短期的には非常に不確定要素が多い。それで、なかなか楽観的な要素がないというようなことはあ...