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武士道では、卑怯で臆病な人間は「やり直し」がきかない

武士道の神髄(9)大事なのは名を残すこと

執行草舟
実業家/著述家/歌人
情報・テキスト
突進して死んだのなら、戦場で犬死にしても恥ではなかったが、逆に臆病な死に方をしたら、家が取り潰しになるのが武士であった。生きるか死ぬかの場面では、死ぬほうを選べというのが『葉隠』の思想だが、これは、そのような厳しい戦場のあり方を前提としたものだったのである。考えてみれば、戦場で背中を見せるのは「敵前逃亡」であり、その意味において罰せられても当然であろう。しかも、現実を現実として見る目がなければ、到底、戦いに勝てるはずもない。つまり武士たちは、きわめて合理的で、科学的でもあったのである。だから明治になって武士出身で科学者として活躍した人も多かった。むしろ現在のほうが迷信的ではないだろうか。(全10話中第9話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:03
収録日:2019/11/26
追加日:2020/03/13
キーワード:
≪全文≫

●刀を抜かずに死んだら、取り潰し


執行 僕の経験では失敗したもののほうが、うまくいきます。それがわかれば体当たりなんて、本当は勇気の要ることではありません。本当に体当たりして失敗したら、自分がどんどん、どんどん成長するだけです。本を読むより、よほど早いです。

―― 体当たりして逃げないわけですから、失敗したら「自分のもの」として受け止めて、もう一回、挑んでいくという。

執行 そういうことです。ただ今の人が「体当たり」といっても嘘です。そういう複雑な時代で、体当たりそのものが嘘という人が多い。

―― 言うは易く行うは難し、というところですよね。

執行 家族問題と同じです。今の家族で僕は愛情がある家族を見たことないのに、みんな「愛している」と言っています。昔と比べたら、すごく表面的にはいい関係です。でも昔は家族の姿を見ると、非常に微笑ましい楽しさがあったのに、今は感じません。家族が集まっていると、いやな感じです。エゴイスティックで、自分たちだけで称え合って褒め合っているような。

―― たしかに、現代風な感じですね。

執行 そして嘘っぽい。嘘だと思います。

―― 魂のぶつかり合いがない。

執行 時代が違うといえば、違うのでしょうが、親子や兄弟で「感謝している」などと言えるのは信じられないし、理解できない。昔の人なら、軽く口から出ることは「出まかせ」だと言っていました。今は言いませんが、それなのに、ああした言葉は普通なかなか言えるものではありません。

 武士道といっても、「切腹」もそうですが、「切腹」が今で言えば何にあたるかは、わかりにくいものがあります。今は本当に腹を切るわけではないですから。

―― 社会の中に「切腹」という仕組みや社会的制度があるから意味を持っていた。

執行 「やり直せる」ということで。だから切腹は、別に最後的なものではないのです。

―― 生きるためにやる。

執行 そう、生きるために切腹するのです。山本常朝の『葉隠』にも、名を残すもので、恥にはならないと書いてあります。

―― 「名を残す」ということが大事ですね。

執行 それで恥にはならない。だから戦場で犬死にした場合も、突進して死んだのなら恥にはならない。これは武士として、子供たちがまたやり直せるということです。切腹と一緒です。犬死にと言っても、今のような自分の命を粗末にするような、くだらない犬死にとは違います。

 今の自殺は、昔の武士道とはまったく関係なく、朽ち果てるというだけです。昔の武士道とは名を残す。恥にならないために。恥にならないのは子孫のためで、もう一回人生をやり直すためです。昔は家柄がすべてで、自分の子供は自分と同じ。だから子供がやり直せる形で自分が責任を取るのです。

―― 有名な武士道の言葉で、「命を惜しむな、名を惜しめ(命な惜しみそ、名を惜しめ)」と。

執行 そう、名を惜しむ。それが「やり直しがきく」ということです。

―― だから後ろ指を指されてしまったり、「あいつは臆病だ」と言われてしまったりしたら、もうその家自体が「臆病な家」になってしまう。

執行 臆病どころか、取り潰しです。江戸時代は刀を抜かずに死んだだけで、取り潰しでした。だから『鬼平』でも、刀を抜かないまま斬られて死んだ武士に対し、鬼平か誰かが、人情で刀を抜いた形にしてあげるといった話がよくあります。戦わないで殺されたら武士の場合、武士にあるまじき、ひ弱で馬鹿で卑怯な人間となるので。

―― 背中を見せただけでも。

執行 背中を斬られたら取り潰しだから、やり直すことができないわけです。このへんがわからないと、武士道が何かわかりません。

―― 単に死ねばいいとか、そういう話ではまったくない。

執行 昔の「死」の意味がどういうものであったか。これも昔と今では全然違います。今の人は本当に、昔の人の死ぬよりも、ずっと、人間として自分の失敗を認めることができません。

―― つらいのでしょうね。

執行 つらい。生まれたときから、自分が大したものみたいに育てられるから、そうなってしまっているのでしょう。もう、僕は自分が違うのでわからないですが、今の人は異様にすごい。昔の人が死ぬよりも、今の人が失敗を認めるほうがつらいのではないでしょうか。

―― 全人格の否定、全才能の否定。それに類することを突きつけられるという。

執行 だから、もしそれができたら、昔なら切腹と同じで、もう一回やり直せるのです。切腹とは復活のためにやるものだから。その意味がわからなければダメです。

―― それは非常に大事なメッセージですね。

執行 これが大事です。復活したものを現代流では「死んでしまった」と捉える。そうではない。ただ死んだのなら、山本常朝の言葉で言えば「匹夫の死」であって、何の...
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