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『葉隠』だけが「武士道そのもの」を描き出した

武士道の神髄(1)『葉隠』を生きる

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
武士道を自ら「実践する」ために参考になるのは『葉隠』しかない。それ以外は解説書であり、生き方の役には立たない。『葉隠』の最大の魅力は、「死ぬために生きるのが人生」と言い切っているところである。『葉隠』を読むことは、山本常朝という体当たりで武士道を生きた武士との対話でもあるのである。(全10回中第1回)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:31
収録日:2019/11/20
追加日:2020/01/17
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●「葉隠十戒」とは何か


―― 本日はいよいよ武士道のお話をうかがいます。

執行 いよいよというほどでもないですが(笑)、僕の中心思想は武士道ですから。

―― これまで「テンミニッツTV」でご講義いただいた中でも、先生の大事な思想として武士道が出てきました。まさにそこの神髄に迫るお話をうかがいたいと思います。

 まず最初に一般の方にとって武士道は、新渡戸稲造さんの『武士道』のイメージが強いだろうと思います。先生はどちらかというと新渡戸さんの武士道というよりは、『葉隠』の思想ということですね。先生は、その違いをどう見ておられますか。

執行 僕にとって武士道は、もちろん日本文化としても好きですが、基本的に「武士道の実践」の話です。もともと『葉隠』は実践の書です。昔の武士が、自分が武士としてどう生きて、どう死ぬかが書かれています。だから僕が参考にしている武士道は『葉隠』しかありません。『葉隠』以外でも好きな本は多いですが、これらは武士道の理論書あるいは解説書です。理論は僕も好きですが、「武士道そのもの」ではありません。

 武士道そのものは、『葉隠』に書いてあります。その『葉隠』の思想は、文学ではなく、文章でもありません。重要なのは『葉隠』の思想を、自分の中でどう生かすかです。『葉隠』のとおりに生きられるか生きられないかが問われているのです。僕は読書がものすごく好きで、本を死ぬほど読んでいますが、武士道に関する本はいくら読んでも、自分が実践しなければ0点です。

―― 実践哲学としての武士道というところですね。

執行 実践哲学というより、武士道は本当は哲学でもなく、「実践道」です。昔の日本の言葉で言うなら、「道(みち)」であり「行(ぎょう)」です。本当は活字で表すものではありませんが、活字にしないとどうしても伝えられないので、活字に移している感じです。

 実際、『葉隠』は聞き書きで、キリストの福音書と同じです。キリストは著者ではありません。釈迦もそうです。すべて釈迦やキリストから話を聞いた人が、あとで記録したものです。『葉隠』も同じです。

 そして僕にとっては『葉隠』だけが武士道で、あとのものは、もちろん好きなのですが、少し違う。とくに江戸時代の朱子学の道徳を述べたものは、僕などはダメです。僕は武士道が好きなので、よく道徳家に間違えられることが多いのですが...
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