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10年かけても復旧が困難な「コロナ不況」の世界的実態

コロナ禍で揺れる世界経済の行方(3)世界のジレンマ

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
コロナ抑制策による経済的影響はどれほどなのか。アメリカは、10年かけても復旧が困難な程度の不況に陥ったと言われる。ユーロ圏の成長率は7.7パーセント減り、加盟全27カ国が軒並みマイナス成長、アジア諸国ではGDPの9.7パーセントが失われたと報告している。各国は競うように財政支出に走るが、その将来は。(全9話中第3話)
≪全文≫

●ソーシャル・ディスタンシングがもたらすもの


 前回まで理論的な振り返りを行ってきましたが、感染抑制策は「ソーシャル・ディスタンシング」です。人に会うな、会話をするな、食事を一緒にするな、会議をするな、旅行するな、などということで、とんでもないことですが、そのようにして外出規制を行います。また、外出規制の向こう側にある商店に対しては休業要請、場合によっては指令を行います。それでもうまくいかなければ、都市全体を封鎖する。移動は規制する。そういう一連のことを、各国が全部行っているわけです。

 外出規制や休業要請の結果、どういうことが起きるかというと、消費が激減します。サービスの売り上げが激減します。利益がなくなります。そうすると、雇用を減らさなければいけない。給料を減らさなければいけない。失業が増える。全部、実際に起きていることです。

 都市封鎖を行うと、企業活動が阻害されます。売り上げが激減します。雇用が減って失業が増えます。

 移動規制すると何が起きるかというと、都市の交通産業、さらに自動車産業、ついで観光が大打撃を受けます。特に国際移動規制は国際観光が駄目になりますし、航空会社が非常な打撃を受けます。こういうことなので、皆さんと一緒に、実際どういうことが起きたのかをコロナ抑制策の経済的影響としてザッと見ていきたいと思います。


●恐るべき「コロナ不況」の世界的実態


 まず、何度もくりかえしてきた「雇用機会」の喪失、失業増加についてです。例えば、世界最大の国アメリカを例に取ると、3月時点の失業率が4.4パーセントだったのに対し、4月には14.7パーセント、5月には20パーセントを超えるだろうというのが、もっぱらの予測でした。20パーセントというのは、1930年の大恐慌の水準です。ところが5月の数字は、予測値の20パーセントにはならずに何と13.3パーセントと4月より盛り返しました。これは、なぜなのかが大議論になっています。

 アメリカはレイオフの国ですから、失業が非常に出やすいのですが、日本のやり方にならいPPP(Paycheck Protection Program)という雇用調整給付金のようなものをつくっていました。それによる補助金が出るため、中小企業が解雇しなかったということがあるかもしれません。また、5月に少し休業の解除を行ったことも要因の一つといえるかもしれません。とにかく、一番失業の多いアメリカという国で、そういうことが起きたということです。

 移動規制が観光産業に大打撃を与える例としては、例えば日本で4月の訪日客がなんと99.9パーセント消えています。日本のように年間4000万人の観光客が入っている国で、4月は2900人しか来なかった。これでは日本の観光産業は壊滅します。国連の「世界観光機関」が5月に調べている統計では1~3月の結果しか分かりませんが、第1四半期に世界中の観光産業の売り上げが130兆円消えたといいます。

 航空産業も世界中が入国規制をやっているものですから、ひどいものです。日本では、飛行機は飛ぶのですが、乗客は1割もいませんでした。例えば4月のANAを見ると、乗客が96パーセント減少しています。1~3月期の決算を開示している世界主要40社を推計すると、赤字は総額2.7兆円。4~6月の第2四半期ではもっと増えるだろうと想定されています。


●アメリカ、ヨーロッパ、アジアの未来予測


 前回、サプライチェーンを分断する「ディスラプション」の話をしましたが、中国から主要国への輸出が8割、第1四半期で消えています。これにより世界中の生産が低下し、雇用が低下し、価格が上昇します。

 こういったことが世界の経済にどういう影響を持つのかについて、アメリカ、ヨーロッパ、アジアがいろいろな推計を出しています。

 アメリカでは「議会予算局(CBO)」という名の会計当局が全部調べていますが、今回のコロナ不況は10年かけても復旧が困難な種類の不況になっているという発表をしています。

 EUは5月6日に2020年の経済見通しを出していますが、ユーロ圏の成長率は7.7パーセント減り、メンバー27カ国が全部マイナス成長になると予測しています。

 アジア開銀は5月に報告を出していますが、2020年は940兆円、アジア諸国でGDPの9.7パーセントが失われるといっています。

 これはもうたまらないので、世界各国は不況カーブの平坦化をがんばるということですが、何をやればいいのでしょうか。

 まずは雇用維持で、そのためにいろいろなことを行っています。時間がかかるので省略しますが、本当にたくさんの策が講じられています。それから、所得を失う生活者の支援も、各国がいろいろやっています。

 それから、世界中で学校が休校になっています。学校が休校すると、そこに出入りしていた業者の収入がなくなると同時に、学校に通っている子どもの母...
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