●地政学の原点、「ハートランド」と「リムランド」
小原 今回は、地政学の原点をご紹介します。地政学の発祥をどこに持っていくのかということですが、よくいわれるのがマッキンダーの「ハートランド」です。当初彼は、このハートランドのことを「ピボットエリア」とも呼んでいました。
―― これは、ロシアの近辺にあるということですね。
小原 そうですね。当時のソ連のあたりです。ここを押さえる者がまさにユーラシアを押さえ、さらにいうと世界を押さえて覇権国になるのだという議論です。それに対してスパイクマンが言ったのは、「いや、ハートランドではない。大事なのは、『リムランド』というハートランドの周辺にある部分である」ということで、これがアメリカなどのいろいろな戦略に結びついてきているのです。
この地図を見られると、日本とイギリスで少し色が違うのがお分かりかと思います。
―― はい。
小原 日本ではかなり誤解されて紹介され、いろいろな本の中では日本とイギリスがリムランドに入っています。でもスパイクマンが言っていたのは、「日本はリムランドの沖にある島国だ」ということだったので、そこは注意しておく必要があります。
いずれにせよ、日本の戦略的・地政学的な位置は非常に重要で、アメリカも非常に重視しています。中曽根政権の時には「不沈空母」という言い回しもありましたが、ここにいる日本の持っている戦略的・地政学的な意味合いが非常に大きいということだと思います。
―― はい。
小原 アメリカが前方展開を行っていくうえで、日本の意味は在日米軍も含めて非常に大きいのです。極端なことをいえば、ここから中東までアメリカ軍は出ていけるわけで、日米同盟というものは非対称です。
ジョン・ボルトン元米大統領補佐官の回顧録などを読んでも、トランプ大統領が「もっと金を出せ。さもなくば引き上げるぞ」と言ったというような話があったそうです。ただ、アメリカの戦略家や国防総省からすると、日本を失うことは世界戦略の上で非常に大きいわけです。トランプ大統領が在韓米軍のことをあまり分かっていないことは指摘されていますが、地政学について説明すると、そういうことになります。
●米中戦争の可能性を探る「トゥキディデスの罠」
小原 問題となるのは、米中に戦争をする意思が互いにあるのかということです。
―― そうですね。今までのお話を聞いてくると相当対立が先鋭化してはいるけれども…、というところですね。
小原 ええ。それについては、なかなかみんな本心は明かさないと思うのですが、一つ挙げると、これまでにテンミニッツTVでも紹介した「トゥキディデスの罠」というものがあります。
ちょうど今の中国のように力の増大が著しい台頭国家と、既存の覇権国家に対する恐れが組み合わされると、戦争は不可避になる。トゥキディデスは古代ギリシャのアテネとスパルタの間で起こったペロポネソス戦争に自身将軍として従軍し、歴史家として本にまとめたわけですが、その結論としてこう述べたわけです。
「罠」をつけて造語としたのは、アリソン教授を中心としたハーバード大学のチームです。彼らは、16世紀以降16ほどのケースを取り上げて検討した結果、12ぐらいが戦争になっていることを報告書で明らかにしています。その中で、今一番危険なのが米中関係ということです。
―― はい。
小原 今回のコロナの危機を通じて、中国の力はより増大しています。これに対して、さっき言ったようにアメリカの中国に対する警戒感が非常に強まっています。
そもそも共和党と民主党というのは、もう大変な対立をしているわけです。これほど対立するような時代は歴史的にもなかったと思うのですが、その中で唯一一致しているのが対中政策であるようなところがあります。
アメリカは、まさにこの中国の力の増大に対して恐れを抱き始めています。これはまさに「トゥキディデスの罠」にぴったり当てはまるわけですね。だから、意志があるかないかということも大事ですが、同時にこうした歴史の教訓を、われわれは頭に置いておかないといけないと思います。
●米中間の緊張と全面戦争の可能性
小原 その上で、では本当に彼らはやりたいのかということになってくると、私はまず、両国が核大国である点に注目します。これは、核戦争はできない。
―― そうですね。
小原 「相互確証破壊(MAD)」という言葉がありますが、核戦争をすると互いに滅んでしまうわけなので、それはできない。これは、冷戦がはっきりと証明しています。キューバ危機というのもありましたが、米ソが核戦争をすれば最終的には人類を滅ぼすことになるわけですから、...